無限の願いの魔神
何か古めかしい壺を買ったんだ。
せいぜいラーメン一食分くらいの値段だったと思う。
壺を家に持ち帰ると中から魔神が出てきて言うんだよ。
魔神「何でも好きな望みをかなえてやろう」
俺、こういう話知ってる。
叶えられる願いに個数制限があったり、どれもこれも皮肉な形で叶えられて悶絶するのを見てせせら笑われたり、代償として寿命なり魂なり愛する者なり大切なものを奪ってくってやつ。ろくなことにならない。
ひどい話の主人公にさせられたものだ。
そう思っていたら、まるで俺の心を読んだかのように魔神が言ってきた。
魔神「そんなことないぞ」
魔神「あと、今のが一つ目の望みだな? なんてことも無いから安心しろ」
魔神「無限に、望むだけ、意図通りに願いをかなえてやろう」
俺「じゃあ、不老不死と金と健康くれ」
魔神「よし、分かった!」
俺は当たり前のように不老不死になった、そして俺にだけ使えて無限に金が出せる財布も手に入れた。当然のように健康にもなった、人間ドックに行かなくても直感で分かる。魔神が言うにはもはや何をしても一切の病気にかからないらしい。
毎日フルコース、どれだけ食っても金は無くならないし胸焼けしないしバリバリ健康体。寝たいだけ寝て! 食いたいだけ食い! 飲みたいだけ飲む! 俺はしばらくこの酒池肉林の自堕落生活を堪能した。
違法な薬物にも手を染めてみた。
当然副作用や禁断症状なんてものはこの完全な身体にはない。
だが、その様な生活がちょっと退屈になったので、刺激が欲しくなってきた。
世界中の危険地帯を俺は暇つぶしに歩き回った、施錠なんて俺には無意味だし、うっかり紛争や犯罪に巻き込まれそうになっても魔神が「なかったこと」にしてくれるので絶対安全だ。最近はマフィアのアジトを散歩するのが日課になってきた。
そんなある日、趣味で洞窟を探索していた時、最深部の地割れに飲み込まれた。
いわゆる人知れず地底深くに生き埋めってやつだ。
よくあるこの手の話だったら、身動きできないまま考えるのをやめるまで追い込まれただろう。だが当然のように瞬間移動もできるし、瞬間移動先を絶対安全にもできる。生き埋めのまま永遠に過ごすなんて心配も無用だった。さすが魔神様だ!
そうしたらあれだ、俺の存在に目を付けた悪党が日替わりで襲い掛かってくるようになった、そりゃあまぁそうだ。おかげで世界中の悪党の呼び名に詳しくなったのはちょっと笑ったな。けど、安全なこともあってちょっと飽きてきた。
いちいち願うのも面倒くさいくらいに雲霞のように襲い掛かってきやがったのだ。
なので一括で「(俺以外)全世界善良で幸せになれ」って魔神に頼んだんだ。そしたらその瞬間から世界に貧困も戦争も飢餓も無くなった。ヤクザ事務所にカチコミごっこができなくなったのは多少退屈だけど世界平和って言うのはまぁ悪くない。
しかしアレだ、世界平和を満たすと、次に欲しくなるのはかわいこちゃんだ。
絶世の美女軍団から成るハーレムを手に入れた。
当然「俺基準」でのハーレムだ。
無論、俺を廻って無駄な喧嘩や愛憎劇が発生しないようにもしておいた。
そんな感じで面白おかしく過ごしただろうか。さすが魔神様だ。
俺は女どもをとっかえひっかえして、無限とも思える時を楽しんだ。
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