第二十二話:宝石の街

ルーメリアの大通りは、陽光を浴びた宝飾で溢れかえっていた。

宝石を散りばめた髪飾り、虹色に輝く小瓶、煌めく銀細工――。

子どものように目を輝かせ、私はあちこちの露店を覗き込んでいた。


「サラさん、少し待っていてください」


「えっ?」


そう言い残して、ファルは雑踏に紛れた。

あまりに自然な仕草だったので、私は特に気にせず煌めく通りを見て回る。



---


しばらくして、彼は小さな箱を手に戻ってきた。


「これは、サラさんに」


差し出された箱を開けた瞬間、息を呑む。

深い蒼を湛えたサファイアのネックレス。

まるで海の底を閉じ込めたようで、夜空の星をそのまま宿したようでもあった。


「えっ……こんなの……」


「ルーメリアでも特に優れた職人の作です。サラさんに似合うと思って」


頬が一気に熱くなり、胸がどくんと高鳴る。


「に、似合うかどうかなんて……!」


「ええ、間違いなく」


彼の黒い瞳がまっすぐに私を見つめている。

視線を逸らしたいのに逸らせなかった。


(……胸が苦しいのは、夢のせい。きっとそう……)


必死に言い訳しながらも、首にかけられた瞬間、胸元がじんわりと温かくなる。


「どうですか?」


「……すごく、綺麗。ありがとう……」


小さな声で答える私。

サファイアに編み込まれた魔術式が淡く光を帯びていることに、私は気づかない。

それを知るのは、もっと先のこと。


ファルはただ微笑んでいた。


「ええ、とても似合っていますよ」


胸がまた跳ねる。

私はそれを夢のせいだと自分に言い聞かせる。

けれど本当は――。


私は知らぬ間に、"彼"の想いと護りに包まれていた。



---


その後、私たちはルーメリアの街を歩いた。

石畳の通りにも大小さまざまな宝飾店が軒を連ね、太陽の光を反射してきらきらと輝く。

まるで街全体が宝箱の中にあるみたいだった。


「ルーメリアは宝飾の街。昼も夜も、裏路地ですら輝きを絶やしません」


「……すごい。本当に、物語みたい」


頬が自然と緩んでいく。



---


市場では黄金色の果実を試食させてもらい、甘酸っぱさに笑みがこぼれた。


「お嬢さん、彼氏さんにもどうぞ」


「ち、違いますから!」


思わず声を上げると、ファルは袖口で口元を隠し、笑いを堪えている。

(もう……本当に……)

その笑顔に、胸がまたざわついた。



---


夕暮れ、石造りの建物に埋め込まれた宝石が夕陽を反射し、街全体が黄金色に染まった。

その光景を眺めながら、私は胸元のネックレスをそっと指で触れる。


(ただの贈り物……のはず。なのに、こんなに温かいなんて……)


自分の意思とは関係なく、感情が膨らんでいく。

否定しようとするほど、胸はざわめきを増すばかりだった。


空が暗くなると花火が打ち上がり、満天の星、宝飾の街並み、夜空の光が一度に重なって煌めく。

世界が宝石で埋め尽くされたような景色の中で――私はただ、胸の高鳴りを抑えられなかった。

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