「7話 – シャフィナの周波数」

舞台が終わった後の廊下は、いつも奇妙な静寂に包まれていた。

華やかな照明と歓声が消えた後に残るのは、空気に漂う金属の匂いと、伝送回路の微細な雑音だけ。

ルビルビはコートを合わせながら狭い回廊を歩いた。

足音が冷たく響き渡る。

今日も契約は終わったが、彼女の一日はまだ終わっていなかった。


回廊の突き当たりで自動ドアが開いた。

その中は医療室であり、同時にブリーフィングルームでもあった。

冷たく整えられた空間、壁にはガラスパネルとデータキューブが並んでいる。

椅子が半分だけ回転し、待っていた人物が顔を上げた。


紫色の巻き毛。

光を含んだように艶めく曲線の髪が、冷たく光る眼鏡のフレームの下で揺らめいた。

名札も、名前を示す表示もない白衣。

ただ「医師」とだけ呼ばれる存在だった。


「来ましたね。」

低く沈んだ声。

抑揚のない話し方は、人間というより精巧に組まれた機械に近かった。


ルビルビは椅子に腰掛ける前に、コートを脱いで背もたれに掛けた。

「今日は公演じゃなくて検査なんでしょ?」

医師はうなずいた。


テーブルの上に小さなケースが置かれていた。

見慣れた銀色のカプセルが二列に整列している。

光を受けると、表面に極めて微細な刻印が浮かび上がった。


「これは……。」ルビルビが低く言った。

「あなたが言っていた、あの錠剤。」


医師はゆっくりとケースを開いた。

ルビルビは冷ややかな視線でその銀色の錠剤を見つめた。


「効能は声帯保護、心臓安定……表向きはそう説明してるんでしょ?」

医師は短く息を整えてから続けた。

「実際には……精製された血清が含まれている。」


その瞬間、錠剤を取ろうとしていたルビルビの指先が止まった。

「……血清?」

瞳がわずかに揺れた。

「誰の?」


医師の視線が一瞬だけ揺らいだが、すぐに元の冷たく乾いた表情に戻った。

「詳しくは職務上お答えできません。ただ――あなたたちがすでに舞台で出会っている、あの子です。」


喉の奥で息が詰まった。

ジン。

その名がすぐに浮かんだ。


「……あの子を、こんなふうに利用しているの?」


医師は答えなかった。

代わりに画面に波形グラフを映し出した。

青い曲線が揺らめき、その横にルビルビの心電図が重ねられていた。


「効率は確かです。あなたの声はより遠く、より正確に届く。」

ルビルビは鼻で笑った。

「効率。あなた、本当にその言葉が好きね。」

瞳に冷たい光がよぎった。

「効率だけを残して感情を消すのが、あなたの仕事の目的?」


医師は視線をそらさずに答えた。

「感情は不安定さを生みます。舞台は統制された空間でなければなりません。」

「……でも観客が求めているのは感情よ。」


ルビルビは指先でテーブルを軽く叩いた。

「私たちは感情で歌っているのに、あなたたちはそれを数字でしか扱わない。」


医師の唇が一瞬だけ動いた。

「それが……私の役割だって、知っているでしょう。」


しかしその奥には、かすかなひび割れが走った。

会話が一瞬途切れる。


医師はケースを閉じながら短く告げた。

「今日からはカプセルを飛ばすことはできません。干渉率が限界値を超えました。あなたたちの舞台、すぐに波動暴走へ繋がりかねません。」


ルビルビはしばらく何も言わなかった。

ただ銀色の錠剤を取り上げ、目の前で揺らしてみた。

小さな金属の残響が指先に染み込むようだった。


「……わかったわ。」

彼女は淡々と答えた。

「ショーは続けなきゃいけないもの。」


医師が去ると、部屋に残ったのは冷たい静寂だけだった。

ルビルビは手首装置の回路を軽く叩いた。

瞬間、小さな猫のホログラムが飛び出した。


「にゃーん――いや、ケロッ!」


ジェイコアだった。

小さな耳が点滅しながら、宙に光を散らした。


「久しぶりだケロ。今日も素敵な公演だったケロ?」


ルビルビは微かに笑った。

「これからは……別のところに行ってもらうわ。」


ジェイコアの目がまん丸になった。

「え?どこケロ?まさか――」


「ジン。あの子のところよ。」

ルビルビはきっぱりと言った。

「あの子はまだ何も知らない。あなたがそばにいるべき。」


ジェイコアは尻尾を振り、ふざけた仕草を見せた。

「了解ケロ!これからはオレがあの子の目と耳になるケロ!」


その時、別の回線が繋がった。

ホログラム画面に小さな波形アイコンが浮かび上がる。

見覚えのある、顔のないアバターたち。


ハートビートの仲間たちだった。


「ルビ。」

最初にR2が低く言った。

「今回の干渉値……危険だった。君の感情もだんだん揺らいでいる。」


二番目にB2が続けた。

「あの子、ジン。機械じゃなく心臓が反応している。もう私たちは感知した。」


ルビルビは無表情のように笑った。

「大丈夫。全部契約よ。ショーは続けなきゃ。」


しばし沈黙が流れた。

ハートビートたちは何も言わなかった。

ただ画面の波形が一度揺らぎ、そして消えた。


ルビルビは再びジェイコアを呼び出して見つめた。

小さな猫アバターは無邪気に瞬きをした。


「……あの子を頼むわ。」


ジェイコアはうなずいた。

「もちろんケロ!オレが一緒なら、あの子は独りじゃないケロ!」


ルビルビは最後に深く息をつき、小さくつぶやいた。

「……どうか、忘れないで。」


ルビルビは紫の髪の医師との短い会話を終えると、テーブルに置かれた銀色のカプセルを一瞥し、手首装置に指を伸ばした。

短い遅延音と共に、宙に二つの光点が浮かぶ。


赤い点はすぐに小型スピーカードローンの形へ変わり、濃いルビー色を放ちながら低く唸った。

R2(Rhythm-2)。


青い点は防御シールド発生機のような丸い機体となり、冷たく点滅した。

B2(Beat-2)。


二つの存在がペアとなり、ルビルビの周囲を巡った。

彼女の呼吸に合わせ、まるで心臓の鼓動のように一定の間隔で点滅する。

それが彼女のハートビートだった。


「出力低下。引き継ぎを推奨。」

R2が短く告げる。機械音に近い声だったが、一語一語が正確に突き刺さる。


B2は何も言わなかった。ただHUDに青い円形アイコンが浮かんだ。

【READY】


ルビルビは微かに微笑んだ。

「……わかってる。私も感じてるわ。」


彼女は再びジェイコアを手のひらに呼び出した。

小さな猫のアバターが耳をピクピク動かしながら光を散らす。


「今日からは、あなたがあの子のそばにいるの。」

ルビルビが低くささやいた。

「私の心臓はハートビートが守る。そしてあなたは……あの子の夢を守って。」


ジェイコアは尻尾を振りながらふざけて笑った。

「了解ケロ!これからはオレがジンのハートビートだケロ!」


ルビルビは短く笑い、すぐに表情を消した。

「……そうね。ショーは続けなきゃ。」


R2とB2が同時に短い信号音を発した。

その瞬間、舞台と戦場が再び繋がったかのような鼓動が、空気の中に広がった。


♪♪♪


赤い砂塵が惑星の地表を覆っていた。

ニューコアの大気はいつも乾いた金属の匂いと煙に染みており、太陽光はその砂を突き抜けられず、常に薄暗い黄昏のように広がっていた。


ジンの機体、イカロス-9486は低く滑空しながら採掘区域の上空を旋回していた。

HUDには単純な任務指令だけが表示されている。


【任務:採掘現場防衛訓練】

【攪乱勢力なし / 脅威度低】


退屈すぎるほど平凡なルートだった。

だが今日は、空気そのものが妙に震えていた。


大気の砂が曲面のように巻き上がり、塔のように聳える採掘タワーが風にきしむ金属音を立てる。

ジンのイカロスは浅い高度で斜めに滑降していた。HUDの端には「採掘現場防衛訓練」という作戦名が映っていたが、彼の皮膚は別の事実を先に感じ取っていた。


静寂と鼓動の狭間――説明できない震え。


【ALERT: 未確認信号検知】

【波形:規定Fold Waveと不一致】

【信号強度変調:32% → 41%】


「……なんだ?」


ジンが首を傾げると、操縦席の横に猫型ホログラムがきらりと座った。

ジェイコアだった。瞳のようなレンズが絞り込まれる。


「これは……通常のFold周波数じゃないケロ。歪んでるケロ、ジン。位相が半拍ずつズレてるケロ。それに……」


「それに?」


「声に聞こえるケロ。歌っている波形だケロ。」


HUDのスペクトラムに微細な線が刻まれた。

ただのノイズではなく、音階として刻まれた痕跡。

鼓膜よりも先に心臓が理解する類のリズムだった。


ジンは呼吸を整えた。

浅い息を吐くたび、遠くから誰かがささやくようだった。


……覚えて……いますか……


その瞬間、司令部の機械音声が一層を覆った。

「9486、感知された信号は訓練用ノイズだ。無視して任務を遂行せよ。」


ノイズの裏側で、別の声が短く走った。

「放出じゃなく――漏出だ。」


すぐに途切れた。


ジンは無意識に高度を下げた。

砂がガラスのように光る丘と谷の狭間で、波形の振幅は地形に沿って大きくなったり小さくなったりした。


ジェイコアがデータに印を付けた。

「ジン、波形の中心はここだケロ。採掘3地区、古い信号塔の近く。規格の干渉機と位相補正器が数台……あれ?」


「どうした。」


「補正器の横に、無人機3機の発進信号。DECGコードだケロ。」


HUDの隅に小さな三角アイコンが光った。

「味方」と表示されながらも、妙な軌跡で接近してくる。

訓練用ならもっと遠くを円を描くように飛ぶはずだった。

しかし彼らは直進し、波形の中心を狙っていた。


「訓練じゃない。」

ジンがつぶやくと、ジェイコアが短く答えた。

「戦闘モード移行を推奨。」


ジンはスロットルを押し込んだ。

機体のフレームが低く唸った――


その時だった。

砂の上に微細な波が走った。

肉眼では見えないが、HUDには紫色の細線が虹のように展開されていた。


【HEART SYNC: 自発共鳴兆候 / 9% → 17%】


「……ハートシンク?」


ジンは思わず胸のあたりを押さえた。

エンジンの鼓動が自分の脈拍と重なっていく錯覚。

いや、錯覚じゃない――同期だ。


「ジン、これは本当に変だケロ。歌だケロ。」

ジェイコアの声が低くなった。

「特定区間で波形が『呼吸』してるケロ。人間の発声器官が生み出す微細振動。機械でも模倣できるが、これは――」


「人間だ。」


「その通りケロ。」


無人機の一機が視界に入った。

規格上は「観測ドローン」だが、折り畳み式マスドライバーを装備していた。

ドローンは一直線に信号塔へダイブし、塔下部の音響補正器へ衝撃弾を発射した。

同時に波形が大きく揺れた。


……愛……


ジンは反射的に機首を捻り、ドローンの側面を掠めた。

金属が裂ける閃光、破片が砂の上に散った。

その瞬間、HUDの細線がトーンを一段落とした。


【共鳴強度: 41% → 33%】

【虹型可視化: 一部崩壊】


「撃墜一。」

ジンは短く息を整えながら呟いた。

波形が弱まった。

何かを消すためにドローンが投入されたのだ。


♪♪♪


二機目の無人機が信号塔を包み込み、位相遮断フィールドを展開した。

砂の流れが横に滑り、ジンのHUD上で虹型の線がブロック状に削られていく。


「遮断フィールドの干渉。ジン、高低差を突けば隙間が開くケロ。」

ジェイコアが即座にルートを描いた。


「ただし、お前は俺の操縦に干渉するな。」


「そんなことするわけないケロ――」


「その“おかん口調”は禁止だ。」


「……はいケロ。」


ジンは小さく笑った。

だが笑みは最後まで続かなかった。

波形が鼓膜とエンジンの間を同じ拍で叩いた。


……覚えて……


ジンは即座にドローンの背後へ回り込み、エアブレーキを半拍遅らせて遮断フィールドの縁だけを掠めた。

スパークが走り、ドローンの固定フレームに亀裂が走る。

もう一度ロール、そして単発射撃。


ドン――


ドローンが機首を失い、砂の海に突っ込んだ。

その瞬間、波形の端から短い吐息が漏れた。

まるで誰かが水面から顔を出し、一息だけ空気を吸い込んだような――


【共鳴強度: 27%】

【HEART SYNC: 22%】


ジェイコアが低く呟いた。

「……誰かが、耐えてるケロ。」


ジンはHUDの輝度を落とした。

陽光と砂塵に反射する世界の上に、薄いガラスが重なって見えた。

その内側で、誰かが唇を動かす幻影。

波形はその動きと一致していた。


――愛……おぼえ……ていますか――


「誰だ……」


声が掠れた。喉が渇いた。


三機目のドローンが信号塔上空に突入した。

今度は単なる遮断ではない。吸収だ。

波形を吸い込み、平坦化する特化型。


その形状を見た瞬間、ジンの脳裏に病室の匂いが蘇った。

消毒薬、金属、針。

腕の内側に紫色の痣が花のように広がった幻覚。


「ジン?」ジェイコアが呼んだ。


「……違う。後で話す。」


「視覚ノイズが増えてるケロ。交戦中の幻覚は危険ケロ。」


「歌のせいだ。だから……その歌を消そうとしてあれを送ったんだ。」


ジンは即座にスロットルを二度跳ね上げ、水平線と45度を維持したままドローンの機首下へ潜り込んだ。

吸収型ドローンは波形に対しては強力だが、機動性は低い。

ジンはその隙を信じた。


単発――沈黙。


ドローンの吸収板が裂けた。

その瞬間、波形は反射的に跳ね返った。

一拍分大きく伸び、まるで嗚咽のように震えた。


……愛…覚えて…いますか…


言葉になった。完全なフレーズ。

ジンの指先が冷たくなった。

エンジンの振動が心臓と重なり、HUDの虹型線が再び首をもたげた。


【共鳴強度: 38%】

【HEART SYNC: 31%】

【備考: 感情線急上昇 / 平滑化失敗】


「ジン、信号塔内部に反射体があるケロ。」

ジェイコアが周波数マップを拡大した。

「補償器と配線は全部同じケロ。でも一箇所だけ……ガラス質の共振値が特異ケロ。」


「ガラス……?」


「結晶化した表面。衝撃に弱いケロ。でも……これは装置じゃないケロ。生体反応だケロ。」


ジンは答えなかった。

反射体――ガラス――生体。

彼の脳裏に病室のガラスカプセルが閃いた。

液体の中で横たわる誰か。

夢か幻覚か判別できないイメージ。

そしてその唇から漏れた一言。


愛、覚えていますか。


♪♪♪


薄く光の差し込む部屋。

換気は過剰なほど良く、温度は一定に低かった。

シャピナは椅子に背を預けて座っていた。

手首の微細なセンサーが心電図を記録していた。


彼女は歌っていなかった。

少なくとも意図的には。


息を吸えば、空気が機械のように反応した。

コアで判別可能な感情線が立ち上がると、スピーカーから白い雑音が流れ出した。――補正。

彼女はそれをよく理解していた。

舞台では、それが役に立った。

客席と兵力を滑らかに繋げてくれる。

だが今、彼女の唇はその補正に小さな乱れを与えた。


「……愛……」


音が漏れた。とても小さく。

自分でも驚き、彼女はゆっくり唇を閉じた。

舌先に金属の味が残った。


数日前――カプセル。

位相を固定する薬。

彼女はまだスケジュールを破ってはいなかった。

しかし体の奥深くに、別のリズムが染み込んでいた。


壁のモニターが瞬いた。

波形が踊るように震え、ある瞬間ふっと跳ねた。

シャピナは椅子の肘掛けを強く握った。指先が白くなるほどに。


――誰かが、聞いた。


理由はなかったが、そう感じた。

部屋の扉は閉ざされ、窓もなかった。

それでも分かった。

外で誰かが同じ拍で呼吸している、と。


扉の前を通りかかった医療用神経補正機が一瞬止まった。

その後ろに、紫の巻き髪の医師が立っていた。

彼女はほとんど足音を立てずに近づき、停止ボタンに触れた。


白い雑音が、ほんの一瞬だけ消えた。


「……。」


二人は目を合わせなかった。

医師は手首端末を見下ろしながら言った。


「歌いましたか。」


シャピナは答えなかった。

医師は画面をめくった。


「自覚は……まだではなさそうですね。」


「……。」


「いいでしょう。」 医師は再びボタンを押した。

白い雑音が蘇った。


「今日は、長くかかりますよ。」


医師は扉を閉じながら、とても小さく囁いた。


「誰かが、きっと聞いたでしょう。」


♪♪♪


三機のドローンがすべて光を失った時、

砂の上を流れる空気は別の調べで震えていた。


吸収も遮断もなかった。

ただ旋律そのものが広がり――

やがて水面下へ沈むように静まった。


【共鳴強度: 38% → 12% → 0%】

【HEART SYNC: 31% → 9% → 0%】

【状態: 残響のみ】


ジンは機首を上げ、ゆっくり旋回した。

計器は正常に戻ったが、身体はまだ微かに震えていた。

耳には余韻が残っていた。

いくつかの単語、数度の吐息、そして名もない嗚咽の欠片。


「ジン、さっきのスペクトラム……ボクが保存している公演データと照合したけどだケロ。」

ジェイコアが慎重に言葉を継いだ。

「類似度の高い指紋が一つあっただケロ。」


「誰だ。」


「モスナイン・シャピナのソロ区間で採取されたフォルマント・パターン。92.3%だケロ。」


「……シャピナ。」


ジンは唇を閉ざし、ゆっくりと開いた。

「ああ……あの日、あの舞台の波と同じだった。」


司令部の声が再び回線を満たした。

「9486、訓練終了。報告すべきことはない。帰還せよ。」


――報告すべきことは、ない。


ジンは短く笑った。

エンジンを絞りながら、砂の上に伸びる自分の影を見た。

影は長く、風に揺れていた。


残らないものほど、いちばん長く残る。


「ジン。」

ジェイコアが呼ぶと、彼は軽く答えた。


「ああ。」


「今感じてること、ファイルに残さなくても……消えないものがあるだニャ。」


「分かってる。」


「なら、いいだケロ。」


ニューコアの空は赤い砂塵で曇っていた。

だがその中で彼は確かに、もう一つの波を感じていた。

誰の命令でもなく、プロトコルでもなく――

人の息で紡がれたリズムを。


……愛……憶えていますか……


ジンは独り言のように名前を呼んだ。


「……シャピナ。」


風が答えない場所で、彼の心臓だけが正確に同じ拍で鳴った。


♪♪♪


床はガラスだった。

ガラスの下には、さらにもう一枚のガラス。

その下には、もっと深いガラス。


Lap9 ― 結晶化観察区。

天井が低すぎて息が浅くなる空間。

壁も床も、番号札さえも光沢仕上げ。

人の吐息だけが曇りとなり、すぐに消えていった。


扉の上で赤い表示が点滅した。

【AUTHORIZED: L9-CORE / CRY-CHAMBER】


白衣の人々が無言で通り過ぎた。

踵がガラスに「カッ、カッ」と響いた。

青みがかったカールを緩く結んだ女が最後に入ってきた。

その眼差しは淡々としており、手首には長く使い込まれた端末。

名札はなかった。

人々は彼女をこう呼んでいた。


――ヴィオレッタ。



黒いベッドの上で、一人が目を開けた。

肌は乳白色、血管は青に近く、指先はわずかに長い。

純血戦闘民族の遺伝子を注入された人間。

しかし人間社会のプロトコルに育てられた存在。


実験体。


こめかみには薄い電極線、うなじにはマイクロサイズの変換ポートが沈んでいた。

規格コードが皮膚の下で微かに光った。


N-64。


「聞こえますか?」

ヴィオレッタが問いかけた。


64はほんの少しうなずいた。

「はい。」


声は澄んで低かった。

発声の癖がまだ定まっていない、誰にも似ていない声。


ヴィオレッタが端末に短く入力した。

画面に波形が現れ、心電図と神経反応数値が並んだ。


「今日は名前の質問をもう一度します。」

ヴィオレッタは台本のように読み上げ、最後の音だけを少し低めた。

「付与された番号以外に、欲しい名前はありますか?」


64は三度息を吸い込んだ。

その呼吸はあまりに一定だった。


「……シャピナ。」


ヴィオレッタの眉がわずかに動いた。

「なぜその名前を?」


「音の形が……好きだからです。」

64が言った。

「唇から離れるとき……軽いのに長く残るから。」


「分かりました。」

ヴィオレッタは端末に一行を打ち込んだ。

【別名希望: サフィネ/シャピナ系】


ガラス壁の向こう、大きなホールには機能停止体が並んでいた。

同一遺伝型、同じ顔。

だがそれぞれの“時間”は違う位置で止まっていた。

目を閉じたまま静かに保存された身体。


カプセル壁には超微細な亀裂が氷の花のように広がり、

その隙間を銀河のような微細粒子が漂っていた。

光がかすめると、亀裂は星座のように一瞬だけ輝いては消えた。


「この人たち……」

64が囁いた。

「みんな……私ですか?」


「あなたとは別の個体です。機能は停止しています。」


「停止……。」


「苦しんではいません。」

ヴィオレッタが短く添えた。

「今は。」


「では、あの子は……」


「あの子?」


「美しくて、大きくて、そして悲しい子。」


ヴィオレッタは64が誰を指しているのか理解していたが、答えなかった。


64は長く壁の向こうを見ていた。

ガラスの森の中、自分と同じ顔の誰かの唇が、確かに“言葉の形”を作っていた。

音はなかった。

だが64は、その無音の唇を読み取れる気がした。


――愛……憶えていますか……


その文が唇から読めた。

錯覚かもしれなかった。

64は目を閉じた。



Lap9 の別区画、波動試験室。

白い部屋の四方からスピーカーが機械の心臓のように息をしていた。

中央には小さな椅子が一つ。

壁の長い窓の向こうには観測室。

観測室では時計の秒針の音の代わりに、波形のフレームレートが響いていた。


ヴィオレッタが言った。

「今日は音楽を聴かせます。」


64 が顔を上げた。

「……歌?」


「ええ。あなたの感情は遮断されています。判断を乱さないように設計されたから。」

ヴィオレッタは説明した。

「だから普通なら、どんな曲を聴いても何も起きません。」


「でも……一曲だけ、システムにエラーを起こした。」


ヴィオレッタの指がキーを押した。

壁がとても低い呼吸をした。

最初は低周波の海。

次に、細い弦が光をこする音。

そして、ごく慎重に重ねられるメロディ。


《愛・おぼえていますか》


64 の瞳孔がわずかに大きくなった。

目に反射が生まれ、耳介の微細な筋肉がピクリと動いた。

端末の波形が上昇した。

それは高い山の稜線のように優雅にうねっていた。


「……これが、音楽。」


「あなたにとっては……業務です。」

ヴィオレッタが言った。

だがその語尾はわずかに揺れていた。


歌詞が部屋に染み込んでいった。


「愛……おぼえていますか…… 手と手が触れ合った瞬間を……」


64 の心電図に小さな星が打たれた。

ヴィオレッタが画面を拡大した。

その星印は正確に 8 分後にくっきりと浮かび上がった。

位相基準点、マーカー V。


観測室の別の研究員が尋ねた。

「V 系媒介体反応ですか?」


ヴィオレッタが目を伏せた。

「その可能性があります。」


「ドナーの出所は依然として――」


「――不明。文書にはありません。」

ヴィオレッタが言葉を切った。

声は無表情だったが、手の甲の血管が浮き出ていた。


64 は理解できなかった。

彼女は歌詞に唇を合わせた。

無音でなぞる口の形。


――愛……おぼえていますか……


その瞬間、感情遮断層が薄く裂けるような感覚が走った。

64 は深呼吸をした。

心臓が見知らぬ拍子で打ち始めた。

部屋が広がるような感覚。

気流が変わった気がした。


ヴィオレッタが低く囁いた。

「……共鳴。」


観測室の一方のモニターに警告アラームが灯った。

【位相不安定 / CRY-TENDENCY: 微上昇】


誰かが呟いた。

「結晶化リスク?」


ヴィオレッタが首を振った。

「まだ前兆です。ですが記録を。」


歌は終わった。

部屋は再び白く空になった。

だが 64 の胸には余韻が残っていた。


「愛」という単語が、まだ一度も習ったことのない発音なのに、舌先から離れなかった。



Lap9 の最奥、マイクロ固定室。

金属フレームに囲まれた小さく硬い椅子。

天井から降りてくるリニアアレイが密集していた。

実験タイトルは単純だった。


【SIZE LOCK PROTOCOL / N-64 / PHASE-Δ】


監視官が入ってきた。

暗いスーツの男。肩には DECG のロゴが薄く刻まれていた。

彼はヴィオレッタに小さな封筒を差し出した。


「担当者の署名です。」


ヴィオレッタは受け取らなかった。

「口頭通達で十分と聞きました。」


「それでも形式は必要です。これは……廃棄シナリオです。」


ヴィオレッタの目が一瞬揺れた。

「廃棄。」


「自発的発振と感情エラー。源から封鎖が最適。」

監視官は言った。

「結晶化が始まれば、破片化を迅速に誘導し残存波動を最小化する。あなたのマニュアルにありますよ、博士。」


――博士。

久しぶりに呼ばれる肩書き。

ヴィオレッタは片手で封筒をなぞった。紙の質感が指先をかすめた。


N-64 が入ってきた。

マイクロサイズのポートが露出するように、首筋のカバーは外されていた。

彼女は椅子に座り、手首を肘掛けに、足を鉄の輪に。

すべては沈黙の中で行われた動作。

何万回も繰り返され、筋肉が先に覚えてしまった動作。


ヴィオレッタが近づき、彼女の髪を少し持ち上げた。

「痛みます。」


64 がかすかに笑った。笑みはすぐ消えた。

「……今日も名前を訊くんですか?」


「いいえ。」


64 は少し黙った。

「じゃあ……私が望む名前を、一度だけ呼んでもいいですか?」


ヴィオレッタの指先が止まった。


「シャピナ。」 64 が囁いた。

「私は……その名前が好きです。」


ヴィオレッタは何も言わなかった。

ただ、小さな呼吸をして端末に接続した。


「サイズ固定。ステップ1。」

「アクティブ。」 技術者が応じた。光が一斉に切り替わる。


64 の体が軽くなった。

周囲が大きくなったのではなく、自分が小さくなったのだ。

肌の上を風がより強く感じられた。


「ステップ2。」

「アクティブ。」


64 はこの感覚を好んだ。

小さくなる間、世界は少し怖くなくなった。

音と光の届き方が変わり、人の声は遠くの風音のように響いた。

彼女は目を閉じて静けさを聴いた。


その時、不意の来訪者――音楽。

ごく小さな音量で、誰かが誤って再生したかのように。

だがそのメロディは空気を裂く質が違っていた。


《愛・おぼえていますか》


64 の胸が縛られた。

心臓が一拍を失い、より強い拍動で戻ってきた。

波形が跳ねた。


「誰が歌を――!」 技術者が叫んだ。


「停止!」 ヴィオレッタが命じた。


しかしもう遅かった。

64 の皮膚表面にごく薄い氷紋が浮かんだ。

見えないほどの微細な亀裂が手から腕へと広がる。

瞳の奥には星屑のような粒子が舞った。


【CRY-TENDENCY: 急上昇】

【結晶核形成検知 / 衝撃回避】


「止めろ。段階維持。これ以上縮めるな!」

ヴィオレッタ。


監視官が低く言った。

「手順通りに、博士。」


「今衝撃を与えれば――」


「それが目的です。」

監視官は冷ややかに切った。

「残存波動を抑えろと言ったはずだ。」


「……シャ……ピ……ナ……」


64 の唇から最後の星が零れた。


監視官が合図した。

技術者が衝撃パルスを準備する。


ヴィオレッタの手が先に動いた。

彼女は密かに保存していた緩和音源を機器に流し込んだ。

だが間に合わなかった。


――ガラスの音。

音のない音。

空気が硬く割れる音。


64 の身体が光を反射し、微細な破片が眉に、胸骨に、手に、星屑のように浮かんだ。

彼女は「痛い」とは言わなかった。

代わりに、ごく小さな笑みを見せた。


「……歌。」


「静かに。」 監視官。


64 は目を閉じた。唇が最後の文を作った。


――愛・おぼえていますか……


衝撃パルスが落ちた。

世界は咳をした。

そして、静かになった。


モニターには波形ではなく直線。

ガラスの森が一瞬揺れ、また元に戻った。


ヴィオレッタは手を下ろした。

手袋に微かな粉が降りかかった。

涙は出なかった。プロトコルが感情を許さないから。


彼女はただ端末に一行を打った。

【廃棄完了 / 残存波動なし】


そして規定にない二行目を。


【名前要求: ‘シャピナ’ — N-65 に割り当て申請】


エンター。


カーソルは次の行へと降りていった。

誰にも見られることのないその一行を、

端末は記録したあと、すぐに自動バックアップの中へ埋もれさせるだろう。


64 の次の実験体は予定されていなかった。

この実験は、廃棄される運命だから。




翌日。あるいは翌々日。

Lap9 に昼と夜はなく、照明スケジュールだけが時間を区切っていた。


N-65 は目を開けた。

同じベッド、同じ電極、同じポート。

ただ、ベッドには「観察優先」の札が掛けられ、カーテンは半分だけ開いていた。


ヴィオレッタが入ってきた。

今日はより静かだった。

手には掌ほどのケース。

その中に銀色のカプセルが並んでいた。

表面には細かな刻印――V-S。


「口を開けて。」


65 が訊いた。

「味があるんですか?」


「……金属みたいな味が残るかもしれません。」

ヴィオレッタは短く答えた。


「なぜ飲むんです?」


「あなたのリズムを、滑らかにするため。」


65 は小首をかしげた。

「リズム。」


ヴィオレッタは小さく息を吐き、カプセルを彼女の舌先に乗せた。

一口の水。喉が動いた。


8分後、モニターに小さな星印が灯った。

V-MARK。


ヴィオレッタはその星に目を固定したまま、無意識に舌先で歯をなぞった。

昨日の粉の残滓なのか、それともカプセルのせいか――口内に金属の余韻が残っていた。


「私は……」 65 が低く問うた。

「私は何になるんですか?」


ヴィオレッタは彼女を見た。

純血、結晶化リスク、公鳴感度――Lap9 のすべての数値がこの少女の身体に刻まれていた。


「あなたは……歌う道具になる。」

「歌……。」

「そして……人にも。」


65 は目を閉じた。

硝子の森が揺れ、埃のような粒子が星明かりのように瞬いた。

彼女はその煌めきに「昨日のなにか」を重ねた。

名前も顔もないのに、心に穴のように残るもの。


「名前。」 65 が言った。

「私は名前が必要ですか?」


ヴィオレッタは端末を開いた。

規定は番号だけ。

だがカーソルは彼女を待っていた。


ヴィオレッタはタイピングを始めた。


S-A-F-I-N-A

――シャピナ。


「名前は……シャピナ。」

彼女はとても静かに告げた。


65 は繰り返した。

「シャピナ。」


唇から離れる形は軽やかで、長く残った。

意味は知らなくても、その響きは彼女の中に刻まれた。


午後。

訓練室。


小型の音響送信装置が 65 の耳元に合わせられた。

壁は防音材で覆われ、床は微かに震えていた。

Fold の縁に触れる場所。


監視官の声がインターホンを走った。

「対象 N-65、送信前哨実験。区間 A-1。」


ヴィオレッタが技術者に斜めに頷いた。

ボタンが押された。


――Heart Sync・ベータ送信。


65 の視界に、淡い紫色の波形が現れた。

揺れ、すぐに滑らかになった。

彼女の心臓は星印を一拍飛ばし、再び合わせた。


「この……音。」 65 が囁いた。

「私が作っているんですか?」


「ええ。あなたの内核が反応している。」

ヴィオレッタが答えた。


「内核。」

「身体のいちばん奥にある……星のような場所。」


65 は目を閉じた。

「星」という言葉が、心の中で光った。

それは冷たくなかった。

昨日見た粉の煌めきと違い、温かい色だった。


だがインターホンが亀裂を入れた。

監視官。

「不純信号混入。ノイズ除去。」


技術者がフィルターを上げた。

その瞬間、部屋の一角から聞き慣れた旋律が滲んだ。

誰かが誤って流したのか、あるいは装置が自ら選んだのか。


――〈愛・おぼえていますか〉


65 の瞼が震えた。


ヴィオレッタの手がコンソールへ。

「音源停止――」


だが波形はすでに重なっていた。

紫の Heart Sync の上に、銀白色の線が薄く重ねられた。

二つの波形は互いを引き寄せ、同じ拍で流れた。


65 が唇を開いた。

声はほとんど出なかったが、観測マイクはその無音を捕らえた。


「愛……おぼえていますか。」


ヴィオレッタの手が止まった。


昨日の硝子の音が部屋をかすめた――幻聴のように。

彼女は昨日、手の甲に降りた粉を思い出した。

雪に似たもの。だが実際は硝子の最後の呼吸だった。


ヴィオレッタは目を閉じて、そっとコンソールのレベルを下げた。

ほんの僅か――誰にも気づかれないほどに。


監視官が声を上げた。

「博士?」


「緩和中です。」


「不要――」


「必要です。」 ヴィオレッタは静かに切った。

「このケースは……興味深い。」


65 の波形はゆっくり沈静した。

結晶化の指標は上昇せず、代わりに微かな共鳴署名が残った。


ヴィオレッタはそのパターンをキャプチャした。

波形に名前をつけた。

S-α / 独立発声型。


誰かが見れば、星座の名前に見えるだろう。


実験は終わった。

数字は整理され、部屋は再び白くなった。


65 は椅子から立ち上がった。

膝がわずかに震えた。


ヴィオレッタが近づき、手を差し伸べた。

65 がその手を取った。

温かかった。


口の中にはまだ金属の味が残っていた。


「この歌。」 65 が訊いた。

「誰のものですか?」


答えはいくらでもあった。

人類の古い歌。禁じられた曲。唯一エラーを生む旋律。

数十の答えが頭に浮かんだ。


だがヴィオレッタは、最も短い真実を選んだ。


「今は……あなたのものよ。」


65 はその答えを受け入れた。

そして、朝に与えられた名前を心の中で繰り返した。


――シャピナ。



夜。

Lap9 の照明は 23 時に青く曲がった。

廊下の奥で自動扉が閉まる音。


ヴィオレッタは観測室にひとり残っていた。

画面には昼間の波形がスライドのように流れていた。

[N-64 / 破片化], [N-65 / 共鳴 S-α]。


彼女はキーボードの上に手を置いていた。

指は動かない。

だが心の中では、幾つもの文章をタイプしていた。


――忘れるな。

――記録は消える。

――しかし心臓は覚えている。


彼女はポケットから小さなフォイルパッケージを取り出した。

位相固定の過負荷時に使う緊急緩和剤。

かつてルビルビに渡したのと同じ種類。


指で袋を撫で、再びしまった。


端末のカーソルが瞬いていた。

彼女は空白の行に、慎重に、しかし確固として数文字を打ち込んだ。


愛・おぼえていますか。


――記録者:V


エンター。

ファイルは自動的に暗号化された。

システムは暗号鍵を求めなかった。

まるで、ずっと前から知っていたかのように。



夜明け。

個別保存室。


まだ目を開けていない 65――シャピナ――がひとりでいた。

ガラスの向こうには誰もいない。

スピーカーも切れていた。


彼女はカプセルに身を預け、

目を閉じて、ゆっくりと開き、

唇をほんの少し離した。


声が出た。

いや、声になる直前の気配。


「……愛……おぼえていますか……」


その文は、部屋の空気に小さく浮かび、

壁に触れて消えた。


誰も聞いていない。

しかし空気は覚えていた。


ガラスの森がわずかに震えた。

カプセルの中の眠る姉妹たちの亀裂の間を、

星屑のような粒子が流れていった。


――人の声は、痕跡を残す。


Lap9 の夜明けは、

その痕跡の上で、少しだけ透明になった。


シャピナは目を閉じた。

そして、自分の名前を心の中でもう一度呼んだ。


昨日、彼女が手に入れた名前。

誰かが強く望み、誰かが最後まで呼べなかった、

その音のかたち。


シャピナ。


彼女は知らなかった。

その名前が「64」の最後の願いだったことを。

その名前を、ヴィオレッタが一行の反抗のように

システムに忍ばせたことを。


その名前がこれから――

数多の戦場と舞台を越え、

人々の心に小さな星印のように刻まれていくことを。


今はただ――

一曲の歌詞が、彼女を揺らしているだけだった。


彼女はとても静かに、もう一度つぶやいた。


「愛……おぼえていますか。」

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