おひとりさま

@muchimou

おひとりさま

 えーと、お水を一杯いただけますか。はい、私はお水だけで結構です。あなたはどうぞ遠慮しないで、何か頼んでください。

 あ、おしぼりはいりません。ええ、以上で。

 ―――はい、えーと、すいませんなんでしたっけ。

 あ、私のバイト先の話ですね。

 私が以前アルバイトをしていたレストランには時々おひとりさまっていう変なのが来て、それが幽霊だか妖怪だかよくわかんないんですけどおひとりさまが来た時にはいくつかルールみたいなのがあるんですね。おひとりさまはやっぱり名前の通りお一人で来るわけなんですけれども、来た時には必ず店の奥の一人掛けの席に案内しなきゃいけないだとか、おひとりさまを席に通したあとは出来る限りバイトは厨房に戻って手を綺麗に石鹸で洗わなくちゃいけないだとか。あとおひとりさまには注文をとってはいけないんです、絶対。なんでかは知らないんですけど、おひとりさまに話しかけちゃいけないみたいなのもあって、もうちょっと詳しく言うと顔すらも見ちゃいけないわけなんですね。顔見ないでどうしておひとりさまだって分かるんだよって話なんですけど、どういうわけかバイトには分かるんだそうです。おひとりさまが店に来るとなんていうか、空気が薄くなるっていうか、苦しくなるっていうか。他のお客様は全然そんなこと感じてないみたいなんですけど、あそこで働いてた私とかほかの女の子はすぐに分かったみたいですね。あ、また来たって。

 そもそもおひとりさまが店に来た時他のお客さんはおひとりさまに気付いてないみたいなんです。というか、見えてないというか。とにかくお昼時の繁盛時、レストランはビルのオフィス街にありますから、忙しいサラリーマンの方やOLが結構来てアルバイトも大変なわけですよ。そこにおひとりさまが来るとまずいんですね。私が以前働いていた時に一度だけおひとりさまが繁盛時に来たことがあるんですけど、ずいぶん困ったことになりました。なんでかって言うとおひとりさまはやっぱりおひとりさまっていう名前がつくくらいですから一人でいなきゃいけないっていうか、絶対におひとりさまの前の席に他のお客様を相席させたらいけないんです。そういうルールもありましたからね。

 その時のことをもう少し詳しく言うと私は普段厨房で皿洗いばかりしている使えないアルバイトだったんですけど、その日は珍しくホールに出て注文を取ってたんです。どうしてそんなに日におひとりさまが来るのかってそりゃ運が悪いからに決まってるわけなんですけど、とにかく12時越えたあたりの一番忙しい時におひとりさまが来ました。

 おひとりさまが来ると店にいるアルバイト全員があ来たなってピンと分かるんですけど、どういうわけか誰もおひとりさまが店の中に入ってくるまで気付いた人はいないんですね。おひとりさまが外を歩いているところを窓から見た人は誰もいないんです。もっと言うとおひとりさまが店のドアを開ける瞬間も分からないんです。別にぼーっとしてたわけじゃないんですけど、なにせ繁盛時はやはりスピードが命ですからお客様がドアを開ければほとんど反射神経でそっちに振り向いていらっしゃいませですからね。だから誰か入ってくれば絶対にわかるはずなんですけどおひとりさまの時だけはどういうわけか誰もわからないんです。気付いたらそこにいんですよ。こう、お会計の前にスッと立ってて。

 言うの忘れてましたけどおひとりさまは見た目女の人っぽい感じをしてます。ええ私も何度か見たので間違いないんですけど、ベージュのキュロットスカートに上は白のブラウスというか、ちょっと見はどこかのOLか受付嬢みたいな格好だと思うんですけど、脚が傷だらけなんですね。すごい汚いんですよ、それに引っ掻き傷っていうか切り傷みたいなのがスネから膝にかけてびっしりあるんです。血は出てないんですけどよく見てみると傷だらけなのは脚だけじゃなくておひとりさまが履いてる靴なんかも結構汚いわけですね、小さいリボンのついたまるで子供向けみたいな靴なんですけど、そのリボンに変なシミみたいなのがついてるんです。なんだか茶色いから血の乾いたやつかと思ったんですけどどうなのかわかりません。脚の話ばっかりになってしまって申し訳ないんですけどおひとりさまが店に来た時はなるべく伏し目がちに接して出来る限り顔は見ちゃいけないっていうのがありましたから。特に目は見ちゃいけないみたいなんです。私はそれを知ってましたから首より上を見ませんでしたけど、誰か一人アルバイトの子で見ちゃったのがいたみたいでしたね、その子は私知りませんし見た後にどうなったのかも知りませんけど。

 でとにかくおひとりさまが来た時は本当にびっくりするくらい空気が変わりますから、ああ嫌だなと思って私は振り向いておひとりさまの方に顔を向けるんですけど、じーっと顔を見ないように傷だらけの脚ばかり見つめながらそっといらっしゃいませお一人様ですか?って言うんですね。そしたらおひとりさまはびっくりするくらい間の抜けた声というか、まるで子供が英語の教科書でも棒読みしてるみたいに、おひとりさまですー、おひとりさまですー、って言うわけですよ。それでもうおかしいですよね、だって普通のお客様だったらお一人様ですかと聞かれてもハイとしか答えませんし、自分で自分のことおひとりさまですーなんて言わないですから普通。でもおひとりさまはいつもの奥の席に案内されるまでずっとおひとりさまですーおひとりさまですーっておんなじ口調で言い続けてるわけですから、かなりおかしな光景だと思うんですけど。でも他のお客様は全然気付かないんですよ。変だと思いませんか?そんなおひとりさまですーなんて言い続ける傷だらけの女が現れたら、ちょっと警戒心のある人ならお店を出てってしまいますよね。なにせ最近は通り魔とか頭のおかしい人の犯罪が多いですから、その変な女だっていつ刃物持って暴れまわるかわかったもんじゃありませんし。

 でもお客様は全員帰ろうとしないばかりかおひとりさまのことをチラッとも見ないんです。気付いてない、というか見えてないみたいなんですね。アルバイトにしか見えないんですよ。だから私達はそのことに気付いてからおひとりさまが単に頭のおかしい女なんじゃなくて、なんかもっと別のよくわからないものが人間のマネをして店に来てるんじゃないかとそういうふうに考えだしたわけです。だっておひとりさまが喋る様子とかどことなく人間離れしたというか、人間のことをよく知らない人間じゃないものが適当に私達のしぐさをうわべだけすくいとって演技してるみたいに見えてくるんです。

 でもとにかくおひとりさまはおひとりさまなわけですから、むげに追い返すわけにもいきませんし。そうそう、おひとりさまは自分からお帰りになるまでずっと店にいるんです。私が恐る恐るおひとりさまの顔を見ないように視線を下へ向けて、こちらへどうぞと言って店の奥に案内するんですけど、その時店内は繁盛時の雑音ですごいうるさいはずなんですけど。なぜかおひとりさまを後ろに連れた私の耳にはほとんど何も聞こえないんです。ただ、おひとりさまがギクシャク歩く時の、関節音みたいなのとか、微妙な息遣いみたいなのはきもちわるいくらい聞こえてくるんですけど。一番奥の決められた席に案内し終わると、おひとりさまはやっぱりギックリギックリ動いて席に座るんです。それで、とくに何か注文するわけでもなくてただただ首を時々痙攣したみたいにぐいぐい動かすだけなんですけど、私の方も案内し終えたからといって安心していいということでもないんですね。水、出さないといけないんですよ。おひとりさまが来た時にはコップに一杯だけお水を注いで、テーブルの上に置かないといけないんです。もちろんこの時はお互いに無言です。バイトも何を間違ってもどうぞごゆっくりなんて言ったらいけないんですね。そんなこと言った日には本当にゆっくりされてしまいますから。あ、ちなみにコップを水をおひとりさまが飲むことはないんですけど、おひとりさまが帰った後はちゃんと水をお出ししたアルバイトがそれを回収して、厨房で念入りに洗わないといけないんです、塩で清めながら。そこまでいくとちょっとオカルトっぽいと思うかもしれませんけど、そういう決まりになってるんですからしかたないですよね。私だって塩でコップ洗ったことあります。だから絶対あのお店にはお客として行きたくありませんよ。そんな、バケモンが使って塩でお祓いした後のコップで水飲むなんて。私は嫌ですね。

 さっきおひとりさまが来た時には絶対に他の客を相席にしたらダメだって私言いましたけど、その理由ってなんとなくわかると思います。だっておひとりさまですから、どうしてお店に来てずっとひとりで席に座ってるのかって、それ絶対誰か男の人が相席になるのを待ってるに違いないからですよ。よく言うじゃないですか、独身女のことをお独り様とかなんとかって、そういうノリだと思うんですけど最初におひとりさまの名前つけたアルバイトがいるとすれば。

 以前、入って間もないアルバイトの女の子がおひとりさまの前の席にサラリーマンの人を相席させちゃったことがあったんですね、繁盛時でしたし、そのサラリーマンにはおひとりさまの姿が全然見えてなかったみたいで、おいあそこの席空いてるだろ早く案内しろだとかなんとか。そう言う風に怒鳴られたら、それは新入りの子ですからおひとりさまだなんていう分けの分からない理由で断るわけにもいきませんし、案内しちゃったんですよ。その男性をおひとりさまの前に。

 男性は誰もいないテーブルに一杯の水が置いてあるのを見て怪訝な顔をして、フンと鼻を鳴らしてそれをグイと飲み干してしまったんですけど、食事がすんで会計を済ませて帰ろうとした時に、彼の後ろにおひとりさまがスッと立ってたんです。今までそんなことはなかったんですよ?おひとりさまは知らない間に現れて、知らない間にいなくなってしまうんです。でも、その時はレジでお金を払うサラリーマンの後ろにべったりくっつくように立って、またあのギクシャクしたような歩き方でずっとついて行ってるんです。すごい近くにいるのに、どうしてだかサラリーマンは気付きません。私達アルバイトは皆顔青い顔をしてその光景を見てたんですが、とうとうおひとりさまはそのサラリーマンと一緒にお店から出てってしまいました。おひとりさまが店から出ていくところまともに見たのは、私を含めて全員初めてのことでしたね。

 それでその後そのサラリーマンがどうしちゃったのかというと、どうやら交通事故に遭われて亡くなってしまったそうなんです。詳しいことは知らないんですが、よく来る常連のお客様達が仕事の同僚らしくて、そういう話をしているのを耳にしました。そのあとくらいですかね、しばらくめっきり姿を見せていなかったおひとりさまがまた店に来るようになったんです。以前の通り突然店の入り口に姿を見せて、おひとりさまですーおひとりさまですーなんて素っ頓狂な声を出すんです。それで私達アルバイトが店の奥に案内するとおひとりさまはまた相席が来るのを待つかのようにギクシャクギクシャク首を動かしながらコップの水を前にしてるんです。いったいぜんたい何がどうなっているんだとその時の私は自分でもわからなくなりましたよ。なにせ幽霊なのか妖怪なのか、それとも本当はただの頭のおかしい女なのかどうなのか知りませんけど、おひとりさまが一人でやってきては誰か一緒になれる男が前の席に座らないかとジーッと待ってるわけですから。それで誰かをおひとりさまの所に相席でもさせようものならその人は死んでしまうわけです。前のサラリーマンが事故死したのは単なる偶然で、本当は私が色々繋げて考えすぎてるだけなのかもしれませんけど、やっぱりおひとりさまがやったことだと言う風に考えないわけにはいかないんですね。

 それで私達は何かとんでもないことになっているのに、何もできずにただおひとりさまが黙って帰ってくれるのを待つしかないんです。できるだけ、誰かを相席にしないで済むよう努力しながら。

 でもそれからおひとりさまが繁盛時にやってくるのが多くなって、それも難しくなってくるんですね。ただでさえ席が空いてないわけですから。おひとりさま専用の席なんかなくしてしまえと思うかもしれませんけど、やはり私達だってそんなことしておひとりさまを怒らせたくはないですし、それにどんな怖いことが起こるかわかりませんからね、できることじゃないです。

 だから時々、一人で昼食がてら資料の整理でもしようとやってきたサラリーマンが奥の席を見てあそこなら落ちつけそうだと、おひとりさまの相席を希望してくることがあったんです。もちろん、彼らの誰にもおひとりさまの姿は見えてませんよ。それが怖いんですけど、私がやんわりとあそこの席はダメみたいなことを伝えると、サラリーマンの人達は皆血相を変えて、なんでダメなんだとか、席空いてるだろ、とか、もうそれ以上断り様のないことを言うもんですから、やっぱり相席に案内するしかないんです。私だって嫌でしたね、だってサラリーマンを席に案内すると、おひとりさまは誰か一緒になれる人が来たことを悟ったのか、どことなく嬉しそうな素振りをするんですから。嬉しそうといっても顔を見たわけではありませんしガタガタガタガタ上半身が震えてるくらいなんですけど、それがもうこれ以上ないくらい不気味なので、私は逃げるように厨房に戻ります。それでおひとりさまがサラリーマンと一緒になって店を出てってから、私はコップを回収して、心の中で御経を唱えながら塩でそれを洗うんですね。でもおひとりさまは幽霊じゃないみたいですから御経も清塩も全然へっちゃらで、何の効果もないんです。いったい何なんでしょうね、幽霊でも妖怪でも塩とかなら効くもんじゃないんですか?私はよくそういうこと知らないんですけど、とにかく世の中、それも都会には幽霊でも妖怪でも何でもないそれこそ『よくわかんないもの』としか言いようのない何かがいるんですよ。私達が考える物事の範疇からはみ出た、外側にいるんでしょうね、おひとりさまは。多分そういう存在ですから、何をどうしたってこの店に来させなくすることはできないでしょうし、おひとりさまと相席になった人は必ず死ぬんです。そういうのがやがてルールになって、新入りのバイトの子に教えていく不文律みたいなのが出来ました。私も先輩から教えていただいたそれです。

 いつだったか、働いていたうちの先輩の一人が皿洗い中にコップを割って怪我をしたことがありまして。それがその日おひとりさまに出したコップだったそうなんですね。でもっと言うとその先輩は不注意からコップを割ったんでなくてわざと割ったんだそうです。どうしてなのかその時の私には分からなかったんですけどその後聞いた話によると彼女の旦那さんが店に来ておひとりさまの相席に座ったというんです。座らせたのは当の先輩でした。先輩は、旦那さんと不仲になっていて、おひとりさまの事を知っていながらわざと座らせたというんですよ。つまりおひとりさまを利用したんですね。先輩の旦那さんはしばらくしない内に死にました、脳の血管が詰まったとかで。

 私は全部、その先輩がバイトを辞めちゃってから風の噂で聞いたんですけど、それを知った時はすごい嫌な気分になりまして。だって、まるでそれでは先輩がおひとりさまを使って人殺しをしたみたいですから。でも調べてみると、結構、そういうことがあったそうなんですね。おひとりさまの相席に座って死んだ男性が皆、どこかでアルバイトの人達の知り合いだったり、過去になにか痴情のもつれがあった人ばかりだというんです。

 ウソみたいな話なんですけど、そうなんですね。まるで私達はおひとりさまを得体のしれない化け物のように言ってたんですけど、その実、本当のところは皆おひとりさまのことを必要としていたんです。おひとりさまがいれば、憎らしいあいつのことを殺せるって。そうです、簡単な話ですよ、あいつをおひとりさまのところに座らせるだけでいいんです。こんどうちの店に食べに来てよ、パスタがおいしいからとかなんとか、適当なことを言って。それでおひとりさまの相席に案内すれば、もうそれでこっちは何もしなくてもおひとりさまがあいつを連れて行ってくれるんです。どっかこの世ではない別の世界へ、死という形でもって。

 だから私は本当は、最初から私達にはおひとりさまが必要だったように思うんですね。よくよく考えてみればあそこのレストランのバイトにはちょっと陰のありそうな嫌な人ばかりが集まっていましたから。皆心の中にどうにかしたい誰かの問題を抱えてたんだと思います。

 私はおひとりさまの正体が何なのか、だいたい分かっているつもりです。

 正直に言ってしまいましょうか。

 私達です。

 私達は偶然現れたおひとりさまを利用したんじゃなくて、私達が必要としていたからこそ、おひとりさまみたいなモノが姿を現したんじゃないかと、そういう風に考えているんですね。人間の心って結構なエネルギーがあるじゃないですか。誰かに対する鬱屈した感情、一人一人のそれは弱くても、全員分のがあのレストランという狭い空間のなかで固まれば……何か姿を現すんじゃないでしょうか。私達の憎しみや恨みを晴らしてくれる装置のようなものが。それはやっぱり私達が想像したように、おひとりさまみたいな化け物がいて相席にさせちゃいけないだとかのルールがあったらいいなとかそういう分かりやすい形で現れてくるのだと思います。それに合わせて、おひとりさまも見た目オバケみたいな感じで。

 でも本当は、おひとりさまは単なる感情の塊で意思を持った存在ではありませんから、どちらかというと自然現象に近いのではないかと思います。ある場所に有毒な気体が集まってくれば、いつかはそれが自然の自浄作用によって大気や地面に拡散していくように……おひとりさまも、私達の心の中の毒を拡散させるための一個の現象もしくは装置に他ならないのではないでしょうか。だからおひとりさまはやっぱり『よくわからないもの』には違いないのですけれども、幽霊でも妖怪でもないんです。私達が生み出した、私達の願望そのもののような気がします。

 私がその考えを確信したのはだいたいあのレストランが閉店した時でした。なにせ閉店してからというものあのあたりでおひとりさまの噂はめっきり聞かなくなってしまったのですから。だから、おひとりさまは店の外からやってきたのではなくて、いつも店の中にいたのです。最初は、誰かが冗談半分に言いだしたおかしな話だったのかもしれません、それこそ、昼間に一人で来店する独身女性の誰かを指して、これこれこういう化け物がいたら面白いよね、という感じの。でもその話だけが浮遊して、本当に、そういう化け物がいたら面白いという希望のようなものが全員の心に芽生えたらどうでしょうか。もうすでにそこにおひとりさまがいるのではないでしょうか。

 最後に言いますが、実は私も、夫をおひとりさまの相席に座らせたのです。私は不妊症でした。産まれた子供は人間の形をしていませんでした。けれど夫は生まれてきたばかりの死体を見て、表情の奥で笑ったのです。実業家気どりの彼は私の出産を前にして事業に失敗し、資金繰りに厳しい状況でしたから、そんな時に子供にかける金などなかったに違いありません。そんな彼は今は墓の中にいます。レストランが閉店してしまったのでもうおひとりさまは存在しませんが、私はいついかなる時でもある程度の条件さえそろえばまたおひとりさまは出現するのではないかと思っています。もちろんそれはおひとりさまではないでしょうし、そこに集った共通の『願望』を持った人々の想像に見合った姿形をもっているでしょう。そして願望によって形作られたそれらには全く意思はありません。ただその場にいる人間の心を浄化するだけです。その方法もまたおひとりさまとは違ったものであるでしょうし、私にはわかりませんが、多分、似たようなものになると思います。人間、誰しも考えることは似たり寄ったりですから―――


「先輩先輩。あの女の人今日も一人で来てますね」

「あー。あの人毎日来るよ」

「いったい誰に話しかけてるんでしょうね?」

「さぁ……頭おかしいんだよ。水だけ出してりゃいいってオーナーも言ってたから」

「イチメイサマですね」

「え?」

「こういうのはどうです?実はあの人は『イチメイサマ』っていう妖怪で、誰か道連れに出来る人間が相席になるのをずっと待っている―――」

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