外伝2 落ちていくカナリア
夜の帳が降り、深い藍色の天幕には、いくつかの遠い砂粒のような星々が浮かんでいた。
視界から少しずつ遠ざかっていくあの宮殿を見つめながら、心は不思議なほど静かだった。
持ってきた旅費をもう一度確かめ、数少ない手持ちの装飾品を絹の袋からそっと取り出し、慎重に数え直す。
外は冷たい風が吹きつけていたが、屋内の温もりよりも、口の中で溶けるように冷たい自由の味の方が、なぜか心地よかった。
まさか、こんなにあっさりと逃げ出せるなんて思わなかった。
いつも見舞いに来てくれる医師のフォスタスから近々武闘大会が開かれると聞いた時、私はそれが千載一遇の機会だと悟った。
ヘローナ様はやはり私に同情してくださったのだ。従兄様を説得し、この催しを開かせただけでなく、行宮の警備兵までも大会の護衛に呼び出してくださった。代わりに臨時の傭兵たちが警護に就いたが、これこそ私が利用できる隙――彼らは私の顔を知らないのだ。
私は自分と同じ金髪の侍女、モンナを買収した。彼女が家の借金を返すためにこの職に就いたことを知っていたから、ひそかに取引を持ちかけた。内容は単純だった――彼女と身分を入れ替える。
私が買い出しに出る侍女を装って行宮を抜け出し、彼女は「体調不良」を理由に私の代わりを演じ、武闘大会が終わる日までそのままでいること。
このように段取りしたのは、武闘大会と私の脱走を結びつけられないようにするためだ。もし同じ日に起きれば、提案者であるヘローナ様が従兄様に疑われ、立場が危うくなるだろうから。
モンナは以前から私の過去を知っている数少ない侍女の一人だった。彼女は口が堅く、いつも黙々と掃除をこなす。ほかの侍女たちとは違い、陰口一つ言わない。
正直、彼女を巻き込みたくはなかった。けれど、これが唯一の脱出方法だった。
貧しい家に生まれた彼女の両親は賭博好きで、未成年の弟が一人。働き者の彼女がいなければ、家族はとうに路上で餓死していただろう。私が渡した金があれば、借金を返した後、誰にも知られない土地で穏やかな仕事を見つけられるかもしれない。
普段から私はいろいろな理由をつけて侍女たちを部屋から追い出していたから、彼女がすぐに露見する心配はなかった。ただ、危険があることは確かだ。どうか侍女たちが気づくのが少しでも遅れてくれますように、と祈るしかなかった。
サイズの合わない粗布のドレスを着て、顔をヴェールで覆い、宮殿の門を出た瞬間、心臓が早鐘を打った。
幸い、門を守る傭兵たちは私を知らず、簡単な質問を二、三受けただけで通してくれた。
鉄の扉が開いて閉じる音が、静まり返った夜に響く。
夜風に冷たさが増し、私は肩をすくめてフランネルのマントをぎゅっと巻き、足早にこの一年近く私を閉じ込めた場所を後にした。
逃亡の第一夜は、思いのほか順調だった。
モンナから聞いていた御者たちの集まる場所を頼りに、街道を半刻ほど歩くと、宿駅の近くにたどり着いた。そこには旅人や車夫が休むための酒場があり、温かい食事と柔らかな寝床があった。
私は金貨をいくつか渡し、一晩そこに泊まることにした。
歩き疲れた体はすぐに眠りに落ち、従兄様のことも婚約のことも忘れて、深い眠りに沈んだ。
一人で生きる不安もあったが、手足の自由を得た喜びの方が勝っていた。
本当に――逃げ出せてよかった、と心の底から思った。
翌朝、宿の主人に礼を言い、私は急いでそこを後にした。行宮から近すぎるこの宿では、もしモンナの方が見破られたら、真っ先に捜索が入るはずだから。
私は適当な馬車を雇い、御者に皇都の市場まで送るよう頼んだ。
市場は多種多様な人々が集まる場所。もし行宮の異変が殿下の耳に届いたとしても、少しは時間を稼げるはずだ。
二日ほどは警戒を緩め、成功の余韻に浸っていた。
けれど、私は一つ読み違えていた。
人が集まるということは、危険もまた集まるということだ。
逃走二日目、私は皇都の下町であちこちの店をのんびり見て回っていた。
だが三日目の夕暮れ、生活用品を買い終えて宿に戻ろうとしたところで、三人の大柄な男たちに囲まれた。
「へへっ、お嬢ちゃん、どこかよそから来たのか? 見かけねえ顔だな。」
先頭の男が声をかけ、下卑た笑みを浮かべた。
初めての恐怖に震えながらも、私は必死に平静を装い、「通してください」と言った。
男たちは怪物のような笑い声を上げ、一歩ずつ迫ってくる。
私は絶望の中で手に持っていたものを投げつけ、反対方向に駆け出した。
しかし数歩も行かないうちに、毛むくじゃらの大きな手に捕まえられた。
抗うことなどできず、体を引きずられるままに。
叫ぼうとした口には、薬草の臭いのする布が無理やり押し込まれた。
髪を乱暴に引かれ、針を刺すような痛みが神経を焼いた。
――やめて……
誰か、助けて……
まぶたが重くなり、視界が闇に溶けていった。
目を覚ましたとき、私は地面に横たわっていた。
どうやらどこかの廃屋らしく、厚く積もった埃が体にまとわりつき、部屋の隅々まで蜘蛛の巣が張っていた。
冷たく粗い石床には凹凸が多く、肌に食い込んで痛い。
体を動かそうとしたが、手足は荒縄で固く縛られ、まったく身動きが取れなかった。
少し離れたところで、炎の明かりがちらつき、人影が揺れていた。
三人の男たちの声が聞こえる。
「……心配いらねぇ。二日間も様子を見たが、こいつは一人で来た。護衛もいねぇし、知り合いもいねぇ。」
「やっぱあの娼館に売るのがいいんじゃねぇか?いつも通りさ。」
「馬鹿言うな。その金髪にあの顔立ちだぞ。今までのガラクタとは訳が違う。黒市に流した方が儲かるに決まってる。」
「じゃあ、そうしようぜ。」
「へっへっ、でもよ、いつもの“あれ”はやってもいいんだろ?最後までじゃなきゃ商売に差し支えねぇだろうしな。」
「チッ、確かに久しぶりに上物を手に入れたな……。」
男たちの会話を耳にした瞬間、全身の血が凍った。
正体の知れない恐怖が心の中で膨れ上がり、私は必死に体をよじって縄を解こうとした。
なんとか窓の方へ這っていこうとしたが、足先が木箱を蹴ってしまう。
その音に気づいた三人が、素早くこちらへ駆け寄る。
火の光が私の顔を照らし出した。
「よう、起きたか。都合がいいな。」
先頭の男がにやりと笑い、他の二人と目配せする。二人は机の上から何かの瓶を取った。
「……なにをするつもり?」
乱れた髪に埃まみれの顔。そんな惨めな姿でも、私は喉を震わせ、かろうじて声を絞り出した。
「ねぇ、誰に手を出しているのか分かっているの?私の従兄様はエシュガード帝国の皇太子よ!もし彼が知ったら、お前たち全員、八つ裂きにされるわ!」
鋭く睨みつける私に、三人は顔を見合わせ、次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。
「従兄が皇太子?はっ、俺の従兄は創世神だぜ!」
「もういい。こいつに薬を飲ませろ。飲めばおとなしくなる。」
奇妙な色の液体が揺れる瓶が口元へ迫る。
私は必死に顔を背けたが、顎を乱暴に掴まれ、無理やり開かされた。刺激臭のする液体が口に流れ込み、吐き出そうとしたが、半分ほどは喉を通ってしまった。
むせ返りながら咳き込むうちに、熱が全身に広がる。
冬の夜だというのに、体の奥が炭火のように熱い。
――ああ、なんてこと……。
男たちの下卑た笑い声と衣擦れの音。
私は悟った。何を飲まされたのか。
「クズども……地獄に落ちなさい!」
やっと手にした自由が、こんな形で終わるなんて。
――悔しい。
でも、まだ終わらせたくない。まだやりたいことがある。
肩に手が触れる。私はそれを振り払い、唇にかかった手を思い切り噛んだ。
「この野郎っ!」
平手打ちの衝撃。
世界がぐるりと回り、頬が焼けるように痛む。
――どうして、私がこんな目に……。
こみ上げる涙が止まらなかった。
「お願い……誰か、助けて……!」
ドンッ!
木の扉が破れる轟音が響いた。
男たちは驚き、動きを止めて振り返る。
次の瞬間、三人の首元から赤い血が弾け飛んだ。
魂を抜かれたように体が崩れ落ち、見開いたままの目が虚空を見つめている。
――なにが、起こったの?
目を凝らすと、そこに立っていたのは、見覚えのある高い影だった。
憎しみさえ覚えるほど、よく知るあの人。
「チッ、焦って殺しすぎたか。」
誰なのか、言われなくても分かる。
けれど、今だけは、その姿を見たくなかった。
――負けた。しかも惨めな形で。
「やっと見つけた。」
彼は――ランスヴィルは私を抱き起こし、その碧い瞳で心配そうに覗き込んだ。
私は顔を背け、視線を避ける。
短刀で縄が切られ、自由を取り戻したはずなのに、立ち上がる気力さえ残っていなかった。
私の逃亡など、結局は無駄だったのか。
どれほど足掻いても、すべては元の場所に戻ってしまう。
黙り込む私を見て、彼は何も言わずに抱き上げた。
拒絶したい気持ちはあったのに、無意識に彼の胸元を掴んでしまう。
まるで、それが安全の証のように。
「次に同じようなことをしたら、俺様は二度と助けない。……肝に銘じておけ。」
どうやって行宮に戻ったのか、私はもうよく覚えていなかった。
一日のうちにあまりにも多くの出来事が起こり、薬の残滓がもたらす眩暈もまだ消えていなかった。ほんの一瞬でも目を閉じると、あの男たちの下卑た笑い声や、飛び散る血の光景がまざまざと脳裏に蘇った。
彼は私を自分の外套で包み隠した。人々に、衣服を乱した私の姿を見られぬようにするためだと分かっていた。
ずっと泣いていた。硬くて温かい腕の中に落ちた涙は、白い布地の上に散った血の痕を少し薄めてきた。
行宮に戻ると、侍者たちが駆け寄ってきた。
「皇女様、どうなされたのですか!」
心配する声がいくつも上がる。
だがランスヴィルは、皇族の面子を気にしたのだろう。真実を口にすることはなく、「皇女が一人で外出し、道に迷って転び、足をくじいた」とだけ答えた。
彼は私を寝室まで運び、深く一瞥したのち、何も言わずにその場を去った。
――もう来なくていいのに。
そんなことを思いながら、私はぼんやりと天井を見つめた。
命じられて来た見慣れぬ侍女たちは、私の姿を見て息をのんだ。彼女たちの目が怯えと同情を含んでいることに気づいても、私は何も説明しなかった。
ただ湯を張らせ、その中で体を洗い続けた。まるで今日という一日の記憶そのものを、肌ごと削ぎ落とそうとするかのように。湯が冷たくなっていくまでそうしてから、ようやく寝間着に着替え、脱力したようにベッドに沈み込んだ。
――ああ、今日は本当に、何もかもが滅茶苦茶だ。
父王が言っていた。「悩みを忘れる一番の薬は、よく眠ることだ」と。
その言葉を思い出しながら、私は再び瞼を閉じた。
だが眠りにつく直前、久しく忘れていた悪夢の光景が頭をよぎった。
逃亡のことで頭がいっぱいだったせいか、このところ父王の夢を見ていなかった。
私は分かっている。
私の憎しみの矛先は、本当はランスヴィルではない。
けれど、それを従兄様――エドワルドに向けることもできなかった。
かつてあれほど敬愛していた人を、どうして心から憎めようか。
……それに、私は父王のことも憎んでいる。
彼が殺されたことへの怒りよりも先に浮かぶ感情――
どうして父王を殺したのが、私ではなかったのだろう、という歪んだ思い。
誰に負けたのだろう。
従兄様に?それともランスヴィルに?
今回のことも、私の負け。
逃げ出すことさえ叶わず、挙げ句の果てに命まで失いかけた。
彼があのまま去ったのは、すぐに従兄様のもとへ報告に行くためだろう。
二人がいつもそうしてきた。
きっと、これから行宮の監視はさらに厳しくなる。
それに、あの平民区があれほど危険だと分かってしまった今――もう、逃げることなどできはしない。
侍女……そうだ、モンナは?
私は慌てて侍女長を呼び、彼女の行方を尋ねた。だが侍女長は、言いづらそうに口を濁した。
「ええと……この件については、皇太子殿下がご自身で対処なさるとか……」
「モンナがわたくしの身代わりをしていたこと、いつ知られたの?」
「皇女様……どうか私ども下々の者をお許しくださいませ。」
侍女長はため息をつき、泣き出しそうな顔で続けた。
「実は……殿下は最初、行宮の者全員を牢に入れて取り調べるおつもりでした。皇太子妃様が取りなしてくださらなければ、私たちはもう生きていなかったかもしれません。あの方のおかげで、モンナ以外の者は三か月の減俸だけで済みました。本当に、寛大でいらっしゃる……。」
「そんな……どうして……。全部、私が勝手に決めたことなのに。罰は、私だけが受ければいいのに……。」
侍女長は静かに首を振り、夜の挨拶をして部屋を出ていった。それ以上は、恐れてか、あるいは私が理解できないと思ったのか、何も言わなかった。
間違いなく、私が彼女たちを巻き込んだ。
従兄様は、私に罪悪感を抱かせ、自らを縛るよう仕向けているのだ。
「反省し、従順な操り人形になれ」と――。
私は間違っていたのだろうか。
鷹のように翼を広げ、新鮮な空気を吸う自由を求めたことが、そんなに罪なのだろうか。
……弱いカナリアにとって、自由とは、墜落と破滅の同義なのか。
温かくてざらついた手のひらが、頬にかかった髪を撫で、眠りを妨げた。
――誰の手?
払いのけ、しぶしぶ目を開ける。
窓の外から射し込む光は淡く、空には紫がかった雲が漂っていた。もう夕刻だ。
「昨日の夜からずっと眠っていたな、お前は。」
ベッドの脇に腰かけて微笑む男の姿を見て、思わず布団を引き寄せ、背を向けた。
「どうしてあんたがここに。従兄様は?」
「そんな言い方をするなよ。昨日、俺様が助けなければ、どうなっていたか分かってるのか?」
「もう疲れたの。……出ていって。」
「はいはい、話すだけでも構わないだろう?昨日、武闘大会が終わったあと、俺と皇太子殿下はお前に贈り物を届けに来る予定だった。だが、どういうわけか皇太子妃様まで一緒に行くと聞かなくてな。」
ランスヴィルは肩をすくめ、皮肉っぽく笑った。
「でな、そのあとが大騒ぎだ。皇太子殿下が逃亡未遂の“替え玉”と鉢合わせしてな。顔が真っ青になってたぜ。皇太子妃様はその侍女をかばい、『全部自分が仕組んだことです、他の者を罰しないでください』って。十年の付き合いだが、エドワルドがあんな顔をしたのは初めて見たな。……あははは、笑えるだろ?」
自分の婚約者が逃げたというのに、まるで他人事のように笑っている。
軽い口調で話す彼を見て、胸の奥が重く沈んだ。
――ヘローナ様は、知らぬふりをすることだってできたのに。
それでもあえて罪を被ったのは、きっと他人を巻き込みたくなかったから。
私はゆっくりと体を起こし、ためらいがちに口を開いた。
「ヘローナ様は……その後、どうなったの?」
「さあな、あれはその二人の問題だ。まっ、皇太子妃だし、さすがにあの侍女みてぇに牢にぶち込まれることはありえねぇか。」
「……ランスヴィル卿。」
真剣な口調で彼の名を呼ぶと、彼はわずかに目を丸くして私を見た。続きを促すように、無言で待っている。
「わたくしたちの……あの賭け、まだ有効ですか?」
翠の瞳に、愉快そうな光が宿った。
彼はゆっくりと立ち上がり、私の方へ歩み寄ると、壁際まで追い詰めた。
その息遣いが頬を撫でるほど近い。
私は視線を逸らさず、ただ彼を見返した。――あの夜の、息が詰まるような瞬間のように。
「まったく、お前ってやつは、俺様にどうしてほしいんだ?……皇女ちゃん。」
距離を詰めたランスヴィルの息が首筋をかすめる。
その翠の瞳には、獲物を捕らえた獣のような光が宿っていた。
彼の手が壁際の私の髪を掠め、逃げ場を奪う。
「もともと、俺様はお前になんて興味なかった。面倒で、血筋だけは立派な婚約相手――それだけの話だと思ってた。」
その声音には、愉快そうな笑みと危うい熱が混ざっていた。
「けどな……今の考えが少し変わってきたみてぇだ。」
突然、鎖骨に落ちた熱い口づけ。
その行為は試すようでもあり、所有を示すようでもあった。
息をのんで身を引こうとしたが、彼の胸板はびくともしなかった。
掌から伝わる熱が背中にまで広がり、思わず目を閉じる。
「……やめて。まだ結婚してないでしょ。」
「強気だったくせに、今さら恥ずかしがるのか?だがな、そういうとこ、俺様は嫌いじゃねぇ。」
彼は両手を上げて一歩下がった。
「ほらよ、礼儀はわきまえてるつもりだ。今日は見逃してやる。お前もだいぶボロボロだしな。」
「賭けの話は生きてるぜ。まだ時間はある。もっとマシな策を考えるこった。次は、俺様を殺す気か?それともまた逃げ出す気か?……楽しみにしてるぜ。」
ランスヴィルは豪快に笑い声を上げた。鋭い犬歯がのぞき、目が弓のように細くなる。
こんな時に「爽やか」なんて言葉を使うのは変だと分かっている。けれど、他にどう表せばいいのか分からなかった。勝利を追うことを何よりも愛し、ほとんど狂気に近い狩猟本能――それこそが、彼の変わることのない悪しき性分だった。
「だがよ、正直なところ、俺様はもうこの遊びに飽きてきた。お前もいい加減、目を覚ませ。無駄なあがきはやめろ。素直に俺様のところに戻ってきて嫁になれ。……機嫌が良けりゃ、ついでにキャストレイ王国を取り戻す手伝いぐらいしてやるかもな?」
「わたくしが、そんな戯言を信じるとでも?」
「ハッ、皇太子も同じこと言ってたろ?俺と結婚してりゃ監視がしやすいだの、反乱の兆しがあれば正々堂々殺せる――あいつらしい計算だ。」
ランスヴィルは私の顎をつかみ、上から覗き込んだ。
その声は嵐のように気まぐれで、心の奥を容赦なくかき乱す。
「この世の仕組みなんてそんなもんだ。もしお前があの皇太子より価値のある存在だって証明できるなら――俺様は喜んでお前に忠誠を誓ってやる。」
「……分かったわ。」
声は驚くほど小さく、それでいて覚悟の色を帯びていた。
次の機会が残されているのか、私自身にも確信が持てない。
これは私にとって人生を賭けた試練になる。
もっと慎重に考えなければならない。
――さもなければ、呑み込まれてしまう。
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