第十二話 祝いと課題
「そこまでです」
リリア先生の声で、僕とセリカは縁の練りを止めた。
「だいぶ縁の量も練りの質も上がっている感じがします」
僕とセリカは、いつも通り縁の練りから稽古を始めていた。
自分でも分かるくらいに、僕の縁はうっすらと金色に輝いていた。
「なんでシエロの縁は金色に輝いているのよ!私も金が良い!!」
「私もって言われましても、、、」
「シエロ君の縁は、簡単に説明すると、、、」
リリア先生が解説を始める。
「一つの縁を細かく切り刻んで、その刻んだ縁一つ一つを練っているので質が高いんです。高い縁ほど金色や虹色のような色になります」
「シエロ、あんたそんなことをしていたの!?」
「い、いや、そんなことをやる意識はしてないですね、、、」
僕は首を振った。
まさか僕がそんな事を無意識でやっているとは思わなかった。
「セリカさんも良く縁を練れていますよ」
「でも先生、私はシエロみたいに、、、」
「大丈夫ですよセリカさん。シエロ君と違ってセリカさんの縁はとても大きな縁の塊を練り上げています」
僕が『静』ならセリカの縁は『動』って感じだ。
言ってしまえば、十を十回行って百にするのと一発で百する違いだ。
「まぁ私はシエロと違って爆発的なパワフルな魔術を使いたいからいいわ!」
「では次は、シエロ君とセリカさんの一騎打ちで対決してください」
僕とセリカの一騎打ち!?
「それを見て二人の癖などを確認し、フィードバックしたいと思います」
「上等じゃないの!」
セリカが拳を握って前に出る。
「シエロ、全力でかかってきなさい!」
「セリカこそ、負けて泣くなんてことは辞めてくださいよ」
リリア先生が杖を振ると、僕たちの周りに透明な風のドームが立ち上がった。
「これで周りに被害が出ることはありません」
「では、始めてください!」
僕とセリカは同時に距離を取った。
互いに縁を練り始める。
セリカの縁が膨れ上がっていく。
相変わらず、力強い縁だ。
セリカの身体に縁が纏う。
これはあの時の!?
セリカが勢いよく僕の方に飛び込んでくる。
「ウィンドブロウ!」
シュッ
僕がウィンドブロウでセリカの進行を止めようとするが、彼女はそれを軽やかに避けて正面突破してくる。
しかし、僕は慣れすぎていた。
正面から正直に向かってくる相手は、下からの早い攻撃には弱い。
「
セリカに向かって岩の槍を地面から突き出す。
しかし、
「そんなの読んでるわよ!」
セリカは僕のガンソウを予想していたのか、華麗にかわす。
「なっ!」
セリカは低姿勢になり、そのまま僕の股をくぐって背後に回った。
(まずい、、、背中ががら空きだ、、、)
「シエロ、背中ががら空きよ!」
僕が振り返った時、すでにセリカの拳が僕の顔の前まで迫っていた。
その拳には赤い炎が宿っている。
「
ドガァァァン!
「どうよシエロ!私のエンショウ!ちょっと熱すぎたかしら!」
セリカが得意げに笑う。
「そうですね。背後を取られてびっくりしましたけど、、、」
僕は冷静に答えた。
僕とセリカの間には、薄い水の障壁が一枚立っていた。
「その熱は僕には届かなかったですね」
「なっ!?」
「あと少し僕の反応が遅かったら、僕の負けでしたね」
セリカがとても悔しそうな顔をしている。
「そこまでです」
リリア先生の声と共に、風のドームが消えた。
「お二人とも素晴らしいです!」
先生が拍手しながら近づいてくる。
「セリカさんの背後の取り方と最後のエンショウ。威力もその歳で申し分ないです」
「シエロ君は少し油断をしていましたね。ですが最後の反応と判断は素晴らしかったです」
「シエロ、もう一回よ、もう一回!」
「またですか!?」
セリカは僕に攻撃を防がれたのが悔しかったのか、僕に勝つまで勝負を挑んできそうだった。
「シエロ君、良いじゃないですか!」
「リリア先生、、、僕はリリア先生から直接指導を受けたいのですが」
「互いに高め合う人がいる時が一番成長しますから!私の指導はそれからです!」
リリア先生がそう言うなら仕方がない。
「分かりました。ではセリカ、もう一度やりましょうか」
それから僕とセリカは戦い続けた。
何度やっても結果は変わらなかった。
危ないシーンは何度もあったけれど、最終的に勝っていたのは僕だった。
十四戦ほどした時だった。
セリカの縁が枯渇し始めたことをリリア先生が気づき、稽古は終了となった。
「では今日はここまでにしましょうか!外も暗くなってきましたし」
「あー、シエロに一回も勝てなかった―!悔しい、悔しいー!!」
セリカが地面にしゃがみ込んで悔しがる。
「セリカさんも凄かったですよ!相手がシエロ君じゃなかったら、同学年では相手がいないかもしれませんね」
「そうですよ。僕もセリカの勢いのある攻撃にはずっと圧倒されていました」
本人は僕に勝てなかったことで頭がいっぱいかもしれないけれど、出会った時から見ていれば分かる。
セリカはかなり成長している。
「でもシエロに負けて終わるのが本当に悔しいわ!」
セリカが立ち上がって腕を組む。
「シエロ、明日のお昼、どっちが早くご飯を食べられるか勝負よ!」
どうしても僕に勝ちたいみたいだ。
しかし、、、、
「セリカ、明日は学校は休みですよ」
「あっ!」
セリカは顔を赤くしたが、すぐにいつものセリカに戻っていた。
「と、とりあえず明日も来るから!いいわね!」
「も、もちろんです」
やる気が凄いな。
そう思っていると、一台の馬車がこちらに向かってきていた。
その馬車は僕たちの前に止まった。
セリカは既にその馬車に向かって走っていた。
馬車の中から出てきたのは、ニナともう一人のメイドだった。
僕はそのメイドを見た時に衝撃を受けた。
「モフモフ、、、」
モフモフの耳と尻尾!
前にセリカが言っていたモフモフのメイドだった。
「シエロー!先生、今日はありがとう!明日は負けないわよ、シエロ!」
そう言うとセリカは馬車に乗って帰って行った。
リリア先生はお辞儀をして見送っている。
僕はモフモフを初めて見た衝撃で棒立ちだった。
「シエロ君?どうされたのですか?」
「先生。モフモフってどうしたら仲良くなってくれるのでしょうか」
「モフモフ?」
リリア先生はモフモフについて少し考えたが、すぐに気づいた。
「もしかして、先ほどの猫耳のついたメイドさんの事でしょうか?」
「はい!あのモフモフです!」
僕は食いつくようにリリア先生に声をかけた。
「あれは獣人族ですね。仲を良くするのは、シエロ君がセリカさんとお友達になったように、お話しして徐々に仲を深めれば良いのではないでしょうか」
「先生。僕は決めました」
僕は拳を握りしめて宣言した。
「大人になったらモフモフのメイドを家に呼びます」
「そ、そうですか、、、」
リリア先生曰く、この時の僕の目は完全にキマっていたらしい。
その後は再び四人で食卓を囲んだ。
母と父にモフモフについて熱く語ったが、すぐに拒否された。
どうやらメイドというものは、とてつもなくお金がかかるらしい。
それから三ヶ月。
八月。緑も生い茂り、デカくて白い雲と青い空が映える。
休みの日も学校のある日も、ほとんど毎日リリア先生とセリカと稽古をした。
僕の勝利数はまだ多いが、セリカにも何本か取られるようになっていた。
そんなある日の稽古終わり、僕とリリア先生はいつもより早めに稽古を終わらせ、セリカを家の前まで連れて行った。
「セリカ、ここで待っていただけますか?」
僕はそう言うと急いで家の中へ向かった。
「どうしたのよ二人とも!今日はいつもより短めの稽古で、それで家の前まで来て、何かするつもりなの?」
「セリカさん、合図があるまで目を瞑っていただけますか?」
「先生!?」
「大丈夫です。すぐに終わりますから」
セリカはよく分からないまま、その場で目を瞑った。
「お母様、戻りました!」
「おかえり、シエロ。準備は出来ていますよ。後はこのチョコペンで文字を書くだけです」
「ありがとうございます!文字は任せてください!」
そう、八月四日はセリカの誕生日だ。
今日は三日だから一日早いが、当日はマーガレット家での誕生日会があるだろうから一日早めたのだ。
僕は授業で書いているノートの文字よりも丁寧に書いた。
『ハッピーバースデー セリカ』
よし!上手く書けたぞ。
「おい、シエロ、これで良いか?」
「はい!問題ありません。ありがとうございます、お父様」
父には山からベリーを取って来てもらった。
このベリーはそこらの市場で売っているベリーよりも新鮮で甘い。
僕はこのベリーをケーキの上に飾り付け、手に持った。
「美味しそうですね」
「おい、シエロ。お前のケーキじゃないんだからな」
「分かっていますよ、お父様」
「早く持っていきなさい!セリカさんを待たせてるんですから」
母が急かす。
セリカはリリア先生に見守られながら、外で目を瞑って待っていた。
僕はケーキを落とさないように慎重に運びながら、セリカの元へと向かった。
セリカの前に四人でケーキを囲んで立った。
リリア先生がセリカに目を開けるように伝える。
「お待たせしました、セリカさん。目を開けても良いですよ」
「もう、一体何なのよ」
セリカがゆっくりと目を開ける。
その瞬間、僕たちは合わせて声をかけた。
「セリカさん、七歳のお誕生日おめでとうございます!!!!」
セリカは突然のことすぎて、一瞬何が起こったのか分からなそうな顔をしていた。
でも、すぐに理解した。
顔を赤くして、目には少し涙が浮かんでいる。
「あ、ありがとうございます!!!!!!」
良かった!大成功だ!
僕はセリカにケーキを渡す。
「改めてお誕生日おめでとうございます。一日早いですが、こちら僕たちからのケーキです」
「シエロ、、、ありがとう」
「いえいえ。プレゼントは用意できなかったのですが、ケーキはみんなで作ったので、良ければ食べてください」
セリカは口角を上げて答えた。
「勿論よ!私、友達から直接何かを貰うのは初めてなのよ!帰ったら食べるわ!」
「良かったです」
「シエロのお父様とお母様もありがとうございます」
セリカは僕の母と父に頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ。いつもシエロがお世話になっておりますので」
「これからもシエロの面倒をお願いします、セリカさん」
ちょ、、、父はいつも余計なことを言う
「任せてください!」
無事に誕生日を祝えた。
すると丁度、セリカの迎えがやって来た。
「あ、丁度迎えが来たわ!」
「はい!お気をつけて」
「今日はみんなありがとー!!また お礼はするわ!」
セリカはそのままケーキを持ちながら、走って馬車まで向かっていった。
「良かったですね、喜んでもらえて」
「リリア先生のおかげです。こんなに一緒にいたのに、セリカの誕生日も知らずに、、、先生が教えてくれなければ、僕は絶対にスルーしていましたよ」
そうしてセリカの誕生日は無事に祝えた。
何気に僕も、友達を直接祝うなんてことは初めてだった。
誰かを幸せにするって、こんなにも気持ちが良いんだな。
セリカの誕生日を祝ってから二ヶ月。
緑で生い茂っていたこの村も、紅葉に包まれている。
いつものように三人での稽古が始まろうとしていた。
「今日まで、シエロ君とセリカさんに一対一をしてもらいましたが、互いの課題を私なりに考えてきましたので、そちらに移りたいと思います」
お!ついに先生直伝で教わることができるのか!
「分かりました。何をすれば良いのでしょうか?」
「まずセリカさんは、私と戦ってもらいます」
「先生と戦えば良いのね!望むところよ!」
セリカはやる気満々だった。
待てよ?セリカはリリア先生との稽古、、、嫌な予感がする。
「シエロ君は、私が作ったこの課題をひたすらにこなしてもらいます」
そう言うとリリア先生は、僕に大量の紙を渡した。
「な、なんでしょうかこちらは?」
「その紙には一つの絵が描かれています」
リリア先生は一枚の紙を見せる。
「例えばこちらですが」
その紙には、大きな木に手足が生えている魔物のようなものが描かれている。
「これは私が勝手に描いた魔物の絵です。この絵を見て、シエロ君ならどう倒すかを下の枠に文字として残してください」
「文字で、ですか?」
「そうです。初めは時間がかかっても良いので、確実に倒せるイメージを書いてください。一日で書ける枚数を徐々に増やしていきましょう」
恐らくリリア先生は、僕のイメージ力の向上をさせようとしてくれている。
今までイメージは頭の中で行って、そのまま何となくで魔術に変えていた。
だが今回は文字として残す。
やらなくても分かる―――これはとても苦手だ。
「分かりました。やってみます!」
嫌な予感は的中する。
「それで僕は、どこでこれをやれば良いのでしょうか?」
「当然、私たちの稽古に巻き込まれない安全な場所で行ってください」
「ということは、、、」
そんなわけないよな。リリア先生と一緒の空間で稽古をしたい!!
「シエロの課題はペンも机もいるんだから、家でやりなさいよ!」
グサッ
セリカに完全に止めを刺された。
「そう落ち込まないでください、シエロ君。様子は伺いに行きますから」
「はい、分かりました、、、」
僕はそのまま家へと向かった。
自分の部屋の椅子に座って、机に課題の紙を広げ置いた。
コンコン
扉が鳴った。
部屋に母がクッキーとミルクを持って来てくれた。
「シエロ、それはリリアさんの課題?」
「はい」
「もうどうせリリアさんと一緒にいられないから落ち込んでるとかでしょ」
母は机にクッキーとミルクを置いた。
「ちゃんとその課題に取り組まないと、リリアさんは教えるのを辞めるかもしれませんよ」
「分かってますよ!」
僕は初めて母に対して声を荒げたかもしれない。
「良かった、まだまだ元気ね。無理しないようにね、シエロ」
母はニコッと笑って部屋を後にした。
落ち込んでいても意味はない
そう思い、改めて課題を見てみた。
魔物の絵以外にも、沢山の魔術の組み合わせの絵が描いてある課題もあり、多種多様だった。
とにかくやってみよう。そう思い、僕は課題に取り組んだ。
課題に取り組んで二時間ほどが経った頃だった。
リリア先生が部屋にやってきた。
「お疲れ様、シエロ君。課題の調子はどうですか?」
「まだまだ、イメージを文字に残すのが難しいですね。セリカの方はどうですか?」
「セリカさんなら、先ほど稽古が終わって帰られました。少しバテていましたが、、、」
「そうですか、、、」
リリア先生は僕と比べて強さが圧倒的に違うからな。セリカも苦労したのだろう。
「それで、シエロ君はどのくらい出来ましたか?」
「はい、今で二十枚ほどは終わりました」
僕は終わった課題を先生に見せた。
しかし、二十枚のうち採用されたのはたったの五枚だった。
「シエロ君の頭のイメージと、文字で書いていることが上手く繋がっていないのだろうなと、凄く感じます」
「そうなんです、リリア先生」
「文字に起こせるようになれば、質の良いイメージもでき、更にシエロ君の魔術の幅と質が上がると思うので、ひたすら課題をして慣れていきましょうか」
僕は先生に言われるまま、ひたすら課題と向き合った。
時間があれば、とにかく課題をこなした。
それから一週間が経った。
今日は二時間で九十枚ほど出来た。
出来たと言っても、文字としてちゃんと表現出来ているかは見てもらわないと分からない。
すると丁度、リリア先生が部屋にやってきた。
「お疲れ様です、シエロ君。課題の調子はどうですか?」
「はい、現在は九十枚ほど書けたところです」
そう言うとリリア先生は、すぐに僕のこなした課題用紙を手に取った。
**リリア先生視点**
シエロ君にはひたすら、イメージ力向上のための課題をこなしてもらっている。
恐らくイメージ力が向上すれば、シエロ君なら直ぐに私を超える魔術師になる。そう思った。
私はシエロ君の部屋を訪れた。
「お疲れ様です、シエロ君。課題の調子はどうですか?」
「はい、現在は九十枚ほど書けたところです」
九十枚!?
確か今日は二時間前位から課題を始めていたので、二時間で九十枚!?
しかし、問題は文字としてイメージの表現が出来ているかが大切だ。
私はシエロ君の書いた課題用紙を手に取り見た。
私は驚いた。
まず、ざっと見た感じでも、ほとんどがちゃんと文字でイメージの表現が出来ている。
しかし、驚いたのはそこではなかった。
例えばこの課題。
魔物の胸には核があり、その核は分厚いバリアで守られている。魔物を倒すには核を破壊しないといけない。
という文と絵が描いてある。
普通であれば、まずバリアを壊す魔術をイメージし、その後に核を破壊するイメージ。
そのイメージを文字に表現する。
しかし、シエロ君は違った。
バリアを壊すイメージを除き、核ごと魔物を切り刻むイメージをしている。
出来る出来ないは置いておいて、六歳で出来る表現の範囲を超えている。
「シエロ君。この課題は本日をもって終了です」
**シエロ視点**
突然リリア先生が課題の終了を宣言した。
何故終了になったのかは分からないが、とにかくもう椅子に座って課題と睨み合いをしなくて良いと思うと、自然に笑みが溢れた。
「終了ですか!?ということは、、、」
リリア先生が笑顔で答えた。
「はい!明日はセリカさんと合流して、実際に課題の成果を出しましょうか!」
キタキタキタキター!
ついに魔術を使える稽古に変わる!
僕はこの時のために真剣に、課題と向き合った。
正直、集中力とか精神力も上がっている気がする。
「分かりました!ありがとうございます、リリア先生!」
そして翌日。
今日は休日で、朝から稽古をすることになった。
いつも通りリリア先生と稽古場に向かった。
するとすでに稽古場には、セリカが待っていた。
「おはよう、セリカ」
セリカは腕を組んで答える。
「遅いわよ!シエロ!」
「セリカこそ早い到着ですね」
「当たり前じゃないの!今日はシエロに、私の成長した実力を分からせる日なんだから!」
そうだった。セリカも僕とは違う形で課題をこなしていたのだ。
「僕だってセリカより何倍もきつい課題をこなしたので、負ける気はありませんよ!」
僕とセリカが互いに高め合っていると、、、
「二人ともやる気があるのは素晴らしいことですが、今日は一対一は行いません」
「え!先生!?今日はシエロと戦わないの!?」
「はい。今日は私からの最後の課題をこなしてもらおうと思います」
最後の課題?
なんだろう。もしかしてリリア先生に勝て!とかだろうか。
だとすれば、僕はリリア先生に勝つイメージが出来ないので詰みだ。
「最後の課題ですか?」
「はい。実は最近、この近くの森で
そういえば父も最近、森で中々食用の魔物が少なくなったとか言ってたような。
「それで私が対応しても良かったのですが、ここはぜひお二人にお願いしようかなと思います」
「ぼ、僕たちがですか!?」
「はい!お二人ならすぐに終わると思います。それに私も付いていきますので、安心してください」
なるほど。
最後の課題は実戦形式か。
しかし、僕は今まで一度も魔物と戦闘したことはない。
イザトラのあれは、、、また別だろう。
「問題ないわ、先生!そんな魔物なんて私が一瞬で片付けてあげるわ!」
セリカは気合い十分だった。
「いい意気込みです、セリカさん!」
「ちなみに、その魔物は階級はどの程度なのでしょうか?」
「はい、ダート・ハウンドは中級魔物です。全身に泥を纏い、素早い動きが特徴的です」
中級魔物か。
なら、ギリギリ今の僕たちなら対応できる範囲だな。
「まぁ正直、お二人の実力では本当にすぐ終わると思いますが、初めての実戦はこの程度から始めましょうか」
「ちなみに先生。その討伐に行く前に聞いておきたいのですが、僕たちの階級ってどのくらいなのでしょうか?」
まだ階級試験も何も受けていないが、初級魔術師だとは思う。
でも、今の自分がどの位の強さなのかを知っておきたい。
リリア先生はすぐに、迷いもなく答えた。
「二人ともほとんど上級魔術師に近いですよ」
「上級魔術師!?」
意外だった。
もっと中級レベルとか、その程度だと思っていた。
そうか、僕は自分が思っている以上に成長していたのか。
「いきなり上級だなんて言って驚くと思いますが、実際に今から戦えば分かると思いますよ」
「当たり前じゃない!私が上級魔術師だってことを、ちゃんと証明してあげるわ!」
セリカは僕と違って上級と聞いても驚くことはなく、当たり前のように振る舞っていた。
「では、その群れが出現したと報告があった場所へと向かいましょう」
僕とセリカは、リリア先生が用意した馬車に乗った。
群れの場所は家から二十分ほど離れた山の中らしい。
「こんな時に聞くことではないと思いますが、国王の後継者候補のお嬢様が勝手に危険な魔物狩りに参加しても良いのでしょうか?」
「問題ないわ!ニナには伝えてあるし、、、」
「私の方でも直接ニナさんには問題ないかと聞きました。かなり悩まれておられましたが、もしセリカさんに危険があれば私が命を懸けてでも守るという条件と引き換えに、承諾していただけました」
それは凄い契約だな。
まぁ国王の家系になるかもしれないお嬢様を、自分の目の届かないところで危険な目に合わせるわけにはいかないしな。
でも、それだけニナは僕たちのことを信頼しているとも見れる。
(大丈夫ですよ。僕がちゃんと守りますから)
「ちなみにシエロ君のご両親にも許可を取っていますので、安心してください」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「お父様の反応は良かったですが、お母様は、、、」
母は心配性だからな。
今回をきっかけに、僕が強くなったことを証明して安心させるんだ。
「そうですよね、、、」
そんなこんなで、目的地の森の入口に着いた。
「着きましたね。降りましょうか」
馬車から降りると、一人のおじいさんが立っていた。
「待っておったぞ、リリア殿」
「お待たせしました、ガルドさん」
「そちらはどなたじゃ?」
おじいさんは不思議そうにこちらを見てくる。
「こちらは私の教え子です。今回の任務に参加してもらおうと」
「私はセリカよ!セリカ・マーガレットよ!」
「初めまして。シエロ・アルランドと申します」
「これはこれは、マーガレット家のお嬢様とは。気づかず無礼な真似を」
おじいさんはセリカに頭を下げた。
「それとそちらの少年。シエロと言ったか」
おじいさんは僕の目をじっと見つめる。
「随分立派な縁を持っていそうじゃな」
「あ、ありがとうございます」
「流石リリア殿の教え子じゃ。これは安心しておれるの」
このガルドさんは、リリア先生とどういった関係なのだろう
「話は終わりよ!さっさと行きましょ!」
セリカが早く戦いたそうにしている。
「おうおう、すまんかったな。やつらの群れはこの山の奥じゃ。頼んだぞ、未来の英雄よ」
「では、ガルドさん、行ってきますね」
「おう、気をつけてな」
未来の英雄とは、随分と立派な呼び名をされたものだ。
それから僕たちは山の奥へと向かった。
山はかなり整備されており、一見魔物なんていなさそうな雰囲気だった。
「かなり綺麗な森ですね」
「そうですね。ここは登山だったり、ベリーが多く実っているので、歩きやすいように整備されているのです」
「これ本当に魔物いるのかしら」
歩いていると突然登山道が無くなり、ちょっとした獣道に変わった。
「皆さん、いいですか。ここから先にダート・ハウンドの群れが目撃されました」
僕たちは獣道の前で一度止まった。
「ここからは常に警戒して歩いてください。いつどこから襲われるかも分かりません」
先生の発言で、一気に緊張感が増した。
セリカも先ほどまでは一番先頭を歩いていたが、僕たちが歩き始めるまで動かなかった。
「いいですか?十分に気を付けてください」
「分かりました」
「分かったわ!」
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