第九話 プライドの決闘
はぁはぁはぁはぁ
ルイドスは息を切らせている。
「また失敗だ、、、」
「まだ縁の基礎が上手く出来ておりませんね。もう一度基礎からおさらいしておきましょう」
ルイドスがリリア先生から魔術を教わっている。
何故リリア先生はルイドスに魔術を教えているのかも分からない。
特にリリア先生が嫌々教えている様子もないし、ルイドスも至って真剣にしている。
もしかすると僕の勘違いだったのか?
いやいや、だとしてもだ。学校を突然休んでルイドスの稽古を?
それに人探しの依頼までかけて、見つからなかったという事はここに住み着いている可能性が高い。
分からない。僕にはリリア先生がここに要る理由が分からない。
するとルイドスとリリア先生の所に、ルイドスの母イザトラがやってきた。
「ルイドス、学校のお友達が来てるわ。すぐに支度して、、、ってまた基礎練習をしているのよ!?いつまで基礎をしているの?早くルイドスに上級魔術を教えなさいよ!この役立たずが!!」
「しかし奥様、上級魔術を取得するにはまず基礎を完璧にしないといけません。ルイドスさんはまだそれが、、、」
「私の息子が基礎も出来ないって言うのかしら?それはあんたが教えるのが下手くそなんじゃないのかしら?それに、あなたの代わりなんていくらでも居るのよ!?」
「し、しかし奥様、、、」
「何?文句でもあるわけ?それにあなたのせいであの時学校でルイドスが傷つき恥をかかされたのよ!その責任くらい取りなさいよ!!」
なっ!今リリア先生の事を役立たずって言ったのか!?
許せない!
それにルイドスに上級魔術を習得させようと必死だけど、どういうつもりなんだ。
基礎も完璧でもないのに出来るわけないじゃないか!!それにリリア先生の教え方が下手くそだって!!!
それはルイドスの技術の問題だろ!!!
僕はいつの間にか感情が熱くなり、身体が前のめりになっていた。
コツン
僕の足元に合った石を蹴ってしまった。
ヤバイ!
僕はそう思いすぐに建物の壁に身体を付け、身を細めた。
幸い石を蹴った音が聞こえない程、皆イザトラから気を話せない状態だった。
ふぅー助かった。
すると突然ルイドスの大きな声が聞こえた。
「ママ!僕が悪いんです。僕がリリア先生から教わったことが出来ていないんです、、、」
「何を言ってるのかしらルイドス。あなたはスカラルド家よ。ヴェクターが出来たならあなたも出来るはずよ!」
「そ、それは、、、」
「何?」
「い、いえ何でもありません、、、」
「それより早く着替えて準備をしなさいルイドス」
「はい、、、ママ」
「それと、あなたはさっさと傷ついた庭を綺麗にして、部屋に戻りなさい!あなたがここに要ることが誰かに知られたら、、、分かってるわね?」
ルイドスとイザトラは家の中に入って行った。
庭にはリリア先生が一人残り、庭の修繕を初めていた。
くそっ、、、どうする?
このまま先生の所に駆け寄るか?
それか、イザトラが学校の友達が来てるって言ってたからセリカ達が入ってきたのだろう、
だったらまずはニナに報告か、、、
「そこで何をしてるのですか?早く帰るのが身のためですよ」
突然リリア先生が独り言のように話し始めたのだ。
しかしその独り言は僕に向かって言っている。
まさか、ばれていたとは、、、いつからばれていたのだろう。
僕が少し恥ずかしながらも、顔を出そうとした時リリア先生は僕に向かって少し強い声で止めたのだ。
「出てこないでください!何が理由か分かりませんが、あなたがここに要るのがバレたら困るのはあなた自身です。私はこのまま部屋に戻りますので、あなたもこのままおかえりください」
僕が声を発しようとした時、既にリリア先生は中へと入ってしまった。
どういうことだ、、、なんで、なんでなんだ!!
イザトラが言っていた、先生がここに要るのがバレたら何かあるのか?
まずはなんとかしてニナに先生がいたことを伝えよう。
セリカ・ニナ視点
私はニナに着いていき、最上階のティールームへとやってきた。
まぁ私の家と比べれは大したことない部屋なんだけどね!!
まだ部屋にはルイドスは来ていなかった。
来たのは良いけれど、ルイドスと何をお話すればいいのか全く分からないわ。
学校でもあまり絡みもないし、、、まぁニナが何とかしてくれるよね。
なんか外から一瞬だけ馴染みのある縁?か何かを感じた。
そう思った時部屋のドアが鳴った。
コンコンコン
すると扉の向こうからルイドスとその母が入ってきた。
「お待たせして申し訳ございませんね。ご無沙汰いたしております、セリカ様とメイドの方。それで、自国の王の後継者候補のマーガレット家様が、本日はいかなるご用向きにて?」
「ご無沙汰いたしております。本日はセリカお嬢様がルイドスさんとお茶をご一緒させていただく、参りました」
「そうですか。うちのルイドスにその様な機会を与えていただきありがとうございます。ほら、ルイドス挨拶しなさい!」
ルイドスはとても恥ずかしそうにしている。
しかしルイドスだけではない、私も緊張している。
だって、学校で絡んだことなんてシエロ絡み以外無いんだもん!
「こ、こんにちは、、、」
「お、お邪魔します、わ」
壊滅的だ、、、
ニナーこれでどうやって会話を続けるのよー
「このようにまだ中々会話が続かなく、学校でもルイドスさんと話す機会が少ない用でして、それでセリカお嬢様がルイドスさんとも話せるようになりたいと」
「そういう事ですの。ルイドス、ちゃんと仲良くなりなさい」
「はい、ママ」
「ではここは子供二人で話したいこともあると思いますし、メイドさんは私のお部屋でお茶でも如何?」
「お誘いいただき大変ありがたいのですが、私はセリカお嬢様の目の届く場所にいますので」
「子供だってたまには子供だけで自由になりたいものですよ」
ニナは真面目で私に対して凄く過保護だわ。
家に来た時からずっと私の面倒を見てくれていた。
だけど、リリア先生を探す今は別れた方がいいと思う。
「ニナ!私は結構よ!ニナもお茶してきても良いわよ!」
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」
セリカお嬢様に気を遣わされたのは初めてです。
成長、してるのですね。
「ではメイドさんこちらへ」
「はい。セリカさん何かあればすぐに向かいますので」
「分かったわ!ニナも楽しんで!」
ニナはイザトラと共に別室へと移動した。
さて私は今からルイドスと話しながら、リリア先生についても聞いていくわよ!
「あ、ル、、ルイドス」
「どういうつもりだ、お前が急に家に来るのは可笑しいだろ。何のつもりだ?」
「べ、別に何もないわよ!ただ、お茶しに来てあげてるだけよ!」
「僕はお前を疑っている。最近学校でシエロと良く一緒にいるからな」
こ、こいつ、、、勘が鋭いわね、、、
もういっそのこと聞いちゃっても良いわよね!
「そ、そうよ!本当はここへ来たのはあんたと話に来たんじゃないのよ!」
「や、やっぱり!何が狙いなんだ!?」
「決まってるでしょ!あ、あんた達が先生に何かしてるんでしょ!」
「なっ!勝手に決めつけるんじゃないぞ!」
私とルイドスがいきなり言い合いになり、廊下から二つの足音が聞こえてくる。
「失礼します!セリカお嬢様。どうかなさりましたでしょうか!?」
ニナの声と共にバァンと扉が開き、ニナと少し遅れてイザトラが部屋に戻ってくる。
それとほぼ同時に外から大きな音が聞こえた。
ドカァァァァァン!!
何事かと思いすぐに外を見ると、そこにはシエロとリリア先生が対面していた。
イザトラ視点
はぁ全くルイドスの魔術はいつ向上するのかしら。
それにしてもマーガレット家の訪問で餓鬼とメイドだけってどういうつもりかしら。
「ルイドス、何があるか分からないがもし教師についての話が出たら絶対に黙りなさい?いいね?」
「はい、ママ、、、」
「それと仲はしっかりと良くなっておきなさい。あそこに媚び売って悪いことは無いからね」
私はルイドスを連れて部屋に入った。
しかし本当に二人だけみたいね。
政権に関わる話をしに来たわけでもなく、本当にお茶をしに来ただけかしら。
あのメイドから少し情報を聞き出すとでもしましょうか。
「ではここは子供二人で話したいこともあると思いますので、メイドさんは私のお部屋でお話でお茶でも如何?」
「お誘いいただき大変ありがたいのですが、私はセリカお嬢様の目の届く場所にいますので」
「子供だってたまには子供だけで自由になりたいものですよ」
チッ、あの餓鬼んちょに付きっきりって訳かしら。
ちょっと面倒ね、、、何か良い方法はないかしら。
「ニナ!私は結構よ!ニナもお茶してきても良いわよ!」
おぉ、やるじゃないの。
これでメイドと二人きりになれますわね。
それから私はこのメイドを私の部屋に連れてきた。
流石マーガレット家の仕込まれたメイドなのか、全く警戒心を解かないわね、、、
「メイドさん??そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。ゆっくり紅茶でも飲みましょう」
「私はメイドの分際ですので、、、」
「そう言わなくてもいつも雑務などでお疲れでしょうに」
「セリカお嬢様の世話が私の務めですので」
全くと言って表情一つも変えないわね。
面倒だわ。
「ところで最近はどうなのですか?後継者候補としてお忙しいでしょう?」
「私は家系内についてお答えすることはできません」
くぅー、このメイド私を相手にしてないわね!
扉に一番近いところに座って、あくまでもあのお嬢様ファーストってことですか、、、
このままじゃらちが明かないわね、少し責めた質問でもしましょう。
すると、ティールームの方から騒がしい声が聞こえた。
その瞬間このメイドはいち早く部屋を出て、ティールームの方へと走って行った。
私が部屋に着いた時には既に三人が外を見て驚いていた。。
何事かしら!
そう思い直ぐに外を確認すると、そこにはあの恥をかかせた餓鬼が居たのだ。
シエロ視点
いや駄目だ!このままニナにどうやって伝えるんだよ!
このままじゃらちが明かない。
僕は家の中に入ろうとする先生を引き留めるように声をかけた。
「先生!リリア先生!ちょっと待ってください」
リリア先生は無視を続ける。
だが僕は声をかけ続けた。
「先生どうしてここに居るのでしょうか!突然、長期休暇を取ってまでルイドスに魔術を教える必要があるのでしょうか!?」
「シエロ君私は帰りなさいと言いませんでしたか?」
「ですが理由も説明せずに帰るなんて出来ません」
「私が理由を言えば素直に帰っていただけるのですか?」
「それは、、、理由によります」
先生は僕への呆れなのかため息を吐いた。
「あなたがここに居ることで、あなたの家族がスカラルド家のターゲットになると言っても?」
僕の家族がターゲットだと?
恐らくリリア先生は何らかの理由で僕の家族を守るためにここに居るんだ。
家族を巻き込むのは嫌だが、そんなことを言われたからと言って僕は帰らない。
「脅しか何か分かりませんが、、、僕は先生を連れだすまで帰りませんよ」
「そうですか、、、分かりました。では無理やり帰らせるしか無いみたいですね」
そう言うと先生は杖を構えた。
無理やり帰すってそういう事ですか、、、受けて立ちますよ先生!
と言いつつも結構怖い。
実際先生は特級だ、そんな魔術師に杖を構えられたらまだちびりそうになる。
「先生がそう来るなら僕は立ち向かいますよ」
先生は最速で僕を吹き飛ばすには十分の縁を練る。
そのまま無詠唱で、僕の足元に竜巻を起こし僕を宙に飛ばす。
いきなり足元からですか先生!
しかし僕も吹き飛ばされないようにすぐさまに
しかしたかが初級魔術では先生が発生させた竜巻に、僕の
「クッ、これじゃ駄目か!」
「終わりですシエロ君。このまま飛ばされて今日の事は忘れてください」
本当に一瞬だった。
この場に居なければ気づかない程一瞬だけ、先生の杖いや身体全身から風の守り神というか風そのものみたいなのが発生した。
その瞬間僕の身体は高くそして後ろへと吹き飛ばされていた。
理解なんて出来なかった、瞬きをした瞬間には飛ばされいたのだから。
僕は飛ばされないことだけを考えた。
身体に巡る縁も全力で練った。
僕は巨大な地面を下から突き上げ背中の壁にした。
更に勢いを軽減させた後に、とっさに上に向かって全力の
ドカァァァァァン!!
痛い。苦しい。
だけど吹き飛ばされずに堪えた。
先生の攻撃を凌いだ!
僕は治癒魔法を使う。
痛みの和らげと、少し傷が治まるだけだった。
「先生、、、言いましたよね。僕は帰りませんと」
先生は少し驚いていた。
まさか僕が凌ぐとは思っていなかったのだろう。
「全く、、、無茶な方法でシエロ君、、、」
その時、家のベランダからセリカの声が聞こえた。
見上げてみると、セリカとニナ。それにルイドスと驚きが隠せないイザトラがこちらを見ていた。
「シ、、、シエロ!?何やってんのよ!!!!!」
「セリカさん!そ、それにルイドス、、、」
「シエロ、ちょっと待ってなさい!今行くわ!」
セリカはベランダから飛び降りようとしている
おいおいそこは四階だぞ、、、
すぐにニナがセリカを担ぎ四階から飛び降りてきた。
「いやいやいや!流石に危険では!」
サッ
ニナは地面へ軽快に着地し、何事も無かったようにセリカを下した。
「ありがとうニナ!」
「いえ、これくらい大丈夫ですよ」
「シエロ、ボロボロじゃないの!」
「いえ大丈夫ですよ、、、それよりニナさん凄いですねあの高さからセリカさんを担いで軽快に飛び降りるなんて」
「ニナは凄いのよ!びっくりした??」
そんな会話をしていると突然庭の草が、メリメリと伸びていき四階のベランダと僕たちがいる庭をつなぐ橋のように形を変えていく。
その橋をイザトラと後ろからルイドスが歩いて降りてきた。
「どうやって入ってきたのかは知らないが、このスカラルド家に不法侵入とこの私に昔恥をかかせたこと覚悟しなさい」
「そっちこそ先生を無理やりここに連れて、誘拐してるのと変わらないんじゃないでしょうか?」
イザトラはニヤリと笑いながら答えた。
「誘拐?無理やり?何を言ってるのかしら?私はそこの古臭いローブの女が金に困ってるっていうから、ここに住ませてやってるだけ。それの何がいけないのかしら?それに嘘でも特級とか言うからその知識を共有してるだけ」
共有ってか、、、
ただルイドスに無理やり上級魔術を取得させようとしてるだけじゃないか。
「リリア先生は学校の、みんなの先生です。それを勝手に自分の物みたいに扱って、結局ルイドスはまだ魔術の基礎も完璧じゃないらしいじゃないですか」
ふっ、言ってやったぜ!
こっちにはセリカにニナもいるしな少し強く言っても問題はないだろう。
しかし僕はイザトラの怒りを買ってしまったようだ。
「おい、クソ餓鬼。言ってくれたわね、、、言ってくれたわねぇぇぇ!!!うちのルイドスがお前より劣ってると言いたいのかしら!?」
「えぇ、実際授業でも魔術は僕の方が上ですし、まだ一度も負けてませんからね」
「いいわ、、、、いいわ!そこまで言うならやってあげるわよ!ルイドス!前に出なさい」
結局イザトラは自分では戦えないのか?
ルイドスとなら負ける未来は見えないが、、、
「け、結局ルイドスに任せるんですね、、、自分では何もできない腰抜け野郎ですか、、、」
「ちょっとシエロ!それは言い過ぎよ!」
「そうですよ!あのイザトラは実力で言うと上級魔術師です。あまり喧嘩を売らない方が良いかと思います」
「フッフッフッフッ。そこまで言うなら私が相手してあげようかこのクソ餓鬼が」
イザトラがゆっくり僕に近づいてくる。
イザトラから出ている縁は父と似てる。
父には歯が立たなかった、それと同じ上級。
勝てるのか僕に。
自然と僕より前にニナが立った。
イザトラが何か仕掛けようとした時、後ろに立っていたルイドスが声を上げた。
「ママ!それ以上はやめて下さい!!!」
「ルイドス?」
「僕がやります、、、僕がやります。僕だって兄のように出来ます。だって沢山稽古を受けましたから。それに、、、ママを馬鹿にするシエロも許さない」
「ルイドス、、、」
ルイドスはゆっくりと僕の前までやってきた。
その顔は今まで見たことないくらい覚悟が決まった顔だった。
「シエロ。僕と勝負しろ」
「いいですが、僕は負ける気はありませんよ」
「先に降参した方が負けだ」
「いいですよ。先生を独り占めしたんです。その結果を見せて下さいよ」
互い少し距離を取り、縁を練る。
ボワァァァン
ルイドスの縁は僕よりは劣るが、今までで一番の練り上げがされていた。
「ちょっと待ってここで本当に戦うの?ねぇニナ止めなくてもいいの?」
「セリカお嬢様。これは男同士の勝負です。私たちが介入するのはいけません」
「そ、そう、、、分かったわ」
ルイドス、いい練りじゃないか。
さぁどう仕掛けてくる?
僕たちは互いに構える。
「
ルイドスが先手を打った!
僕が動こうとした瞬間。
バキバキバキ バァチィーン!
「うわっ!?」
動けない!
足に何かが!
見下ろすと、僕の両足が岩のような硬い土で完全に固められていた。
(やられた!いつの間に!?)
身動きが取れない僕に向かって、ルイドスが一直線で駆けてくる。
その顔には、今まで見たことのない決意が宿っていた。
しかし、、、
「ルイドス。身動きが取れない相手に一直線で前から走ってくるのはダメですよ!」
「
風の刃がルイドスに向かって飛ぶ。
同時に、足を縛る土の塊も風で薙ぎ払う。
しかし、、、
バァキィィン
ルイドスの前に土の壁が立ち上がった。
僕の風魔術は壁に阻まれて霧散する。
「まさかルイドスがここまでやるとは思いませんでしたよ」
「シエロ」
ルイドスが土の壁の向こうから答える。
「お前の魔術の実力は認める。だけどな、、、」
壁が崩れ、ルイドスの姿が現れる。
「僕だっていつまでも負けてはいられないんだよぉ!!」
ルイドスが縁を最大まで練り始める。
その量は、今までの彼とは比べ物にならなかった。
(今攻撃を仕掛ければ勝負はつく)
でも僕はそれをしなかった。
ルイドスのプライドのためにも。
詠唱が始まる。
「我が手に集え、万象の成す地脈の核」
地面が震えた。
空気が重くなる。
「密度は光を喰らい、重力は魂を砕く」
ルイドスの頭上で、何かが生まれ始めた。
それは―――岩の塊。
普通の一軒家より大きな、巨大な岩の球体。
僕は初めて、ルイドスの魔術に対して本気の焦りを感じた。
「僕はまだ上級魔術も使えない」
ルイドスが静かに語る。
巨大な岩が、ゆっくりと回転している。
「兄のようなセンスもまだ無い」
彼の声に、確固たる意志が込められていた。
「それでも、ママやパパの期待には応えたい。シエロ、これが今の僕の全力だ!」
(これをまともに喰らえば僕は死ぬ)
でも逃げれば、ここも破壊される。
最終的にそのツケは僕に来る。
僕はセリカ達の方を見た。
彼女たちには強力な風のバリアが張られている。
それを付与したのはリリア先生。
(後は僕次第か)
また似たような光景だった。
「いくぞシエロ!!」
ルイドスの叫び声が響く。
「
巨大な岩の塊が落下を始めた。
その影が僕を覆う。
でも僕にはもう答えがあった。
(前に父に放ったあの斬撃。木の棒に縁を凝縮させて、圧縮された縁の層を空気中に切り離して飛ばした)
しかし今回は棒がない。
だからこの手に直接縁を込める。
僕の右手に、圧縮された何層もの薄い縁が込められていく。
熱い。まるで手が燃えているみたいだ。
「ルイドス!素晴らしじゃないですか!」
僕は叫んだ。
「僕も全力で受けさせていただきます!!」
岩が目の前まで迫る。
僕は右手を振り上げた。
シュキィィィン!
ドガァァァーン!!
爆音と共に、ルイドスの岩が木っ端微塵に砕け散った。
煙が晴れると、ルイドスが片膝をついていた。
巨大な魔術を放ったせいで、縁が枯渇している。
僕はゆっくりと彼に近づいた。
「勝負ありましたね、ルイドス」
ルイドスは下を向き庭の草を強く握りしめていた。
「ルイドス。何やってるのよ!また私に恥をかかせるつもり?」
振り返るとイザトラが、こっちに向かって歩いてきていた。
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