メイドと執事が肌に触れて来るのはなぜだろう?

普通

メイドと執事が少しおかしい


僕は桜小路健太。


桜小路家の次期当主として生を受けた。



桜小路家は名家と呼ばれるぐらいの家なので執事やメイドがいる。


そしてそれは桜小路家の次期当主と呼ばれる僕にももちろんついているのだ。




具体的に言えば僕には専属執事が一人にメイドが三人はいる。


メイド三人は多いんじゃないかと前、父上に進言した時に「変えることはしない。どうしても変えたいのであればメイドたちから書類にサインを貰ってからまた来い」と言われてしまった。


その後、メイドたち相手に遠回しに僕のメイドを辞める気があるかを聞いたところ、なかった。正直、家が広いので僕にメイドが三人も分けるぐらいなら他の仕事を頼んだ方が僕的は思っているんだけど。




――――――――――


僕は都内の高校に通う高校二年生。


桜小路家はそれなりに有名なこともあって、高校でも僕は少し嫌煙されている。機嫌を損ねたらこの街に住めないとか、話し掛けたら殴られるなどの変な噂が広がっていることもあって同級生はもちろんのこと先輩にも恐れられている。



そうなると僕は自然と高校で孤立する。


別に孤立自体はもう慣れているのでそこまで気にすることはない。



だけど今の僕が学校生活で少しばかりの不安を感じている。不安を感じている理由としては…メイドと執事たちだ。メイドたちと執事、僕は同い年の高校生なのだ。高校生からメイドや執事として働いているのは素直にすごいと感じるが、本人たちが決めたことだ。




一応、僕は桜小路家の次期当主なので何かしらの事件に巻き込まれる可能性もあるという話になり、メイドと執事を合わせた系、四人が高校に通い、僕のボディーガードを勤めている。


いくらボディーガードと言ってもずっと付きまとわれるのは嫌だし、四人も普通に学校生活を送りたいだろうからということでそれぞれ普通の高校生としての生活を送って良いと言っている。


本人たちはその要望に対して首を縦に振ってくれる感じがなかったが、僕が『命令』だと一言いえば素直に従ってくれる。





僕以外は誰も知らないだろうが、このクラスには執事とメイドがいる。高校では関わりがないように振舞い、繋がりがないようにしている。あいつらも僕と近しい人間だと思われれば折角の高校生活が台無しになってしまうだろうしな。一応、これは四人を雇っている者としての配慮だったりする。







話は戻して僕が不安を感じているのはメイドと執事たちなのだ。


仕事中はしっかりとそれぞれの役割を全うしてくれているので別に文句などはない。むしろ給金以上の働きをしてくれると評価してもいいぐらいだ。



高校でも僕が関わりを持たないようにしていることに気付き、しっかりとそれぞれの高校生活を謳歌している。


なら何が不安なのかと聞かれるかもしれない。





それは四人の言動だ。


四人は高校の中で二人きりだったり、俺を含めた5人が何の因果か集まってしまい、周りに人がいない時などにすごく甘えて来るのだ。


それもスキンシップが激しい。



家では執事とメイドとしてしっかり仕事をしているし、自室で二人きりになるタイミングもゼロではない。でも、その時はスキンシップをしようとしていないのに高校の中ではしようとしている。


これは本当に分からない。









執事もメイドたちも高校ではそれなりに有名人だ。


それは元々のスペックが高いことが一因。


執事の煉谷ねりや宰早つかさは一言で言ってしまえばイケメンだ。モデルとして活動していてもおかしくないぐらいの容姿。そして分け隔てなく、どんな相手でも接しているので必然的に人気が高くなる。運動神経も抜群だが、執事としての仕事があるため部活動には所属していない。




メイドの一人こと倉角くらすみ光凜ひかりは黒髪ショートで品行方正という言葉が似合うような人。規律を重んじて行動するので委員長タイプと言った方がいいかもしれない。前に倉角が「生徒会からの誘いが多いんです。断るのも大変なので声を掛けないでくださるとありがたいんですけど」と話していた。それぐらいに信用されているような人でこちらも容姿が整っていることもあってファンクラブがあるぐらいの人気だ。部活動に関しては煉谷と同じでメイドとしての仕事があるため所属していない。




次のメイドは沖丸おきまる幸愛ゆきなは黒髪ロングでとても大人しい。クラスにいる時は本を読んでいたり、勉強をしていたりとあんまり人と絡もうとするようなタイプの人間ではない。だからと言って人気がないわけではなく、『孤高の姫』などと呼ばれて人気がある。僕も本人に聞いたわけではないが、クラスの奴らが噂しているのを聞いた感じだと二桁以上の告白を断っているらしい。別に恋人を作ることなどは自由なのだが、未だに執事もメイドたちも恋人を作ったという話を全く聞かない。もしかしたら、僕に言っていないだけかもしれないけど。最後に部活に関しては前の二人と同じでメイドとしての仕事があって所属していない。





最期のメイドは村宮むらみや夏梨かりんは金髪のベリショート気味の髪型で他の二人に比べれば活発が似合う。勉強はそれなりできるけど、それ以上に運動神経の良さが人間離れしている。それも相まってよく部活動の助っ人として話し掛けられている姿を見るが、メイドとしての仕事があり断っているようだ。前に『別に多少仕事を休んでも大丈夫だぞ』と言ったが、村宮は「ウチは主のメイドだからさ。いつでもどんな時でも助けになれるように側に居ないといけないから」と言われてしまった。性格が姉御肌のような人間なだけに頼みを断るのは辛いだろうと僕なりに推測できる。もちろん、部活に関してはメイドとしての仕事があるため所属していない。










そんな執事とメイドたちはスキンシップを注意しても止めることはない。大概の命令には従ってくれるんだが、これだけはどうしても従わない。





それは今も。


ちょうど今は移動教室でクラスはもぬけの殻になっているはず。それなのに僕はまだ教室に居て、メイドと執事たちもいる。いや僕を含めて五人という状況。



「なんで煉谷は僕の肩を揉んでくるんだ?」



「肩を揉みたいと思ったからです」



「今する必要はない。少なくとも僕はそれを望んでいない」



「…いえ、健太様が気付いていないだけで疲れが溜まっています」



「そうだとしても今はそれを望んでいないと言っている。僕とお前に繋がりがあることは伏せている。こんなことでバレるのは僕の望むところではない」



「自分はバレても別に構いません」



「僕が嫌だ」


クラスで人気者の煉谷と関わりがあることを知られれば色々と面倒だ。それに俺は案外、この孤立している状況が予想以上に気分がいい。家に帰れば桜小路家の次期当主として振舞わなければいけない。なので、嫌でも人が寄って来るし、こんな穏やかな時間が流れることはない。



「離れろ」



「離れません」


もうこいつに何を言っても無駄だな。僕は視線を自分の足元に向ける。



「お前もだぞ。そろそろ俺の足を離せ」



「私があなたの腕を離すわけないわ」



「いや、離せ。こんなことを優等生である倉角がしていいわけないだろ」



「別に優等生でもそうじゃなくても関係ないわ。私はあなたの下僕よ。いつでも側にいて、あなたへ奉仕するのは当たり前のことだわ」



「奉仕をして欲しいと僕が言ったのであれば、俺が悪い。だが俺は何も言っていない。誰が足を揉めとお願いした?」



「言われなくても主人の願いを叶えるのが私の役目よ」



「それが主人の願いではないとしてもか?」



「いえ、あなたは心の底ではこうして欲しいと思っているわ」


こいつも人の話を聞かないタイプだ。こいつらが主人とか言うのは建前で俺に対して何かしらの復習をしようとしているんじゃないか。



次に自分の右手に視線を向ける。




「沖丸、離してくれ」



「だ、だめです。主様の手はぼくのものなんです!」



「いや、お前のものではない。俺の手は俺のものだ」



「いえ、主様の手はぼくのものです!」


こいつ出会った時はこんなに強情な人間じゃなかったと記憶しているんだがな。いつの間にか、こんなに図々しいメイドになってしまったんだろうか。



「離してくれ。聞き分けのいいメイドだと思っているんだ。頼む」



「…で、でも…だめです。ぼくの人生は主様の手を揉むためにあるんです!」


やっぱり僕のメイドって言うこと聞かない奴しかいないのか。メイドと執事ってもうちょっと主のことを考えて行動できるような人間だと思っていたんだけどな。



「ぼくはこれからも主様の手を揉み続けます。ぼくの命がある限りは!」


もうため息すらも出ないし、次の奴もどうせまともじゃないので聞く必要があるのかと思ってしまうが一応、一抹の希望を抱いて僕の脇腹を触っている人物に声を掛けてみることにした。



「村宮、お前は何をしている?」



「なにって主くんの脇腹を触ってるんよ」



「いや、なんで触っているんだと聞いている」



「触っちゃダメなの?」



「普通、他人の脇腹を触るという行為をしないだろ。何かしらの事情がなければ」



「べつにただ主くんの体を触っていたいなぁと思ったから触っているだけ。それにこうやって触ってるとさ、いつでも近くにいるって感じられるしさ」


こいつもおかしい。


人の肌を許可なく、触ろうとしてくるやつ。どうやってもおかしいし、なんでこいつらは俺の肌に触ろうとしてきたり、自我がこんなに強いんだよ。



「まずは離れてくれ」



「いやかな。主くんの体を触れるチャンスって高校しかないしさ」



「高校でもそんなチャンスはない」




これが僕の日常なのだ。

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