【2分で読めるシリーズ】第1弾『瞳に恋して』忍びが愛した金の瞳――素直すぎる行動の裏側とは⁉︎

いろは

【2分で読めるシリーズ】第1弾『瞳に恋して』忍びが愛した金の瞳――素直すぎる行動の裏側とは⁉︎

私は巴。忍びだ。

我が雲隠一族は、代々前川家に仕えている。


前川家当主のご子息――総二郎そうじろう様。

齢17歳の殿方。

私の任務はその方の護衛。

常時お側に控え、お命をお守りする。

そのために、今日も板の隙間から様子を伺う。


総二郎様のお部屋はお屋敷の離れ。

目の前の小さな庭が四季を感じさせる。

その北側の三畳ほどの空間が私の仕事場だ。


総二郎様は生まれつきお体が弱く、武には疎い。

寝込まれる事も多く、長男だが家督は継げないと聞いている。

しかし、端正なお顔立ちで、頭脳明晰。

家柄は申し分なく、女子おなごが放っておかない。

毎回違う相手を連れてくるのは仕方のない事とは思うが……総二郎様は驚くほどに女子の趣味が広い。

そんなこと、私ごときが口を挟めるわけもなく、逢瀬をただ見つめる。


それにしても、今日の相手は本当に酷い。

見せもの小屋から抜け出てきたのだろうか。

崩れ切った着物に、顔の原型がわかぬほどの化粧。


 あんな女が、総二郎様に手を……

 それならば、私でも……


自分の頬を叩くと、気を引き締めて穴に目を当てる。

総二郎様が女を抱き、肩越しに顔を上げる。

金色の瞳を光らせながら、こちらを見て艶やかに笑った。

思わず顔を背け、唇を噛み締める。

あの方は、いつもそうだ。

出会った時から私に意地悪ばかり。


 私の気持ちを知っていて……


金色の瞳は病に侵されている証。

昔々、前川家は妖怪と戦い封印することに成功した。

しかし、その代償に金色の瞳をもつ男子おのこが生まれるようになり、決まって優秀で体が弱かったそうだ。


 逢瀬まで見守る必要があるのか――


親方様の言いつけを思い出す。

「ご子息を――命を賭してお守りせよ」

私は首を小刻みに振ると、再び目を光らせる。


その時、珍妙な音と光が部屋を充した。


 敵襲――!


急いで、手裏剣を投げる。

村では一番の名手だった。

無事に的を得たようで、根源は力尽きた。

ひとたび安堵する。――しかし、

根源は、見せもの小屋の女だった。


 このような女に、総二郎様を渡せない。

 このお方を危険に晒すわけにはいかない!


私は、思いのまま壁を叩く――そして、ハッとすると、身をわきまえぬ自らの行いに項垂れる。


「もういい、帰るわよ!」

女は、私の気迫に押されたのか慌てて部屋を後にした。


壁の向こうで、総二郎様が近付いてくるのを感じる。

私は、三度穴に目を当てる。

総二郎様は、美しく輝く瞳を真っ直ぐに向けて微笑む。


 まるで、別人のような――清らかな笑顔……。


「ごめんね。ここは取り壊すことに決まったんだ」

「引越しですか?」

「……だから、出ておいで」 


彼の言われるがまま、隠し扉を開ける。

久々の陽の光を受けて目が霞む。


総二郎様の部屋に入るのは久々だ。

いけないと知りながらも目を四方に飛ばしてしまう。

しばらく見ないうちにだいぶ変わった。


「……君の反応が可愛くて、ついからかってしまった」

「……お戯れを」


やがて、部屋の上部に掲げられている写真に気づく。


「総二郎様――」


左から二番目の写真に、勝手に頬が緩む。

そして、その右、その右……続く写真に共通している顔立ち。


 金色の瞳――


咄嗟に跳躍し、長押に足をかけ天井にへばりつく。


「お前は……誰だ!」


その人物は、一番右側の写真を指さして私を見上げた。


「俺は、前川――総十郎そうじゅうろう

「な、に……?」


「うちの蔵から古い手記を見つけたんだ――君のことだけが気がかりだと、書いてある」

総十郎はカビ臭い古い日記を手にしていた。

その背には、前川――総二郎。


「総二郎は18歳で亡くなったよ。

 今までご先祖様を守ってくれて、ありがとう。

 もう――いいんだよ」


あの笑顔は、決して私には向けられなかったもの。

いつも意地悪だった総二郎様。

でも――


心と体がふっと軽くなる。

いつの間にが涙が頬を伝い、畳に落ちる前に消えた。


「お側に入れて……幸せだった」


なんの迷いもなく、光の方へ歩いていく。

その先に、きっと望む方がいるのだと期待を胸に――。


異常な光が消え、暖かな陽の光が差し込まれる頃、ドカドカと足音が響く。


「総十郎、終わった?」

見せもの小屋の女が、恐る恐る顔を出す。

そして、壁の向こうに目を見開いて口を押さえた。


「総二郎の死後、自害したらしいね」

そこには白骨が転がっていた。


「……成仏してね」

真面目な顔をして手を合わせる彼女に、優しい眼差しを向け肩を抱く。


「じゃあ――鏡花、続きしようか」

「はぁ? するわけないでしょ!?」

鏡花は、右眉を釣り上げた。


「恋人役兼、除霊アシスタント――スマホの修理代! きっちり払ってよね」

「――体で払うよ」

「いっぱい稼いでるんだから、お金で払って!」


クスクス……ありがとう――


「あれ?……今、彼女の声が聞こえた気がする」

耳を傾けると、鏡花は思い切り総十郎の頬を叩いた。


「あなた、霊の言葉――聞こえないでしょ?」


そのままドカドカと廊下を戻っていく。

「そうだけどさ……待ってよ、鏡花――」

「いやよ! 怖がらせて――」


二人の声が遠のいていく。

離れには燦々とあたたかな光が満ちていた。

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