少女は見られた

結弦

贈りもの

私、藤田アカリには熱心なストーカーがいる。

名前もわかっている。隣のクラスの木山って男だ。

まあ、彼が私を見ていたこと自体は、ずっと前から気づいていたけど。


金曜日の放課後、忘れ物を取りに教室へ戻ったときだった。

ドアのガラス越しに、誰かが私の席に座っているのが見えた。

息が詰まる。

私はとっさに廊下の角に身を隠した。

跳ねる心臓を押さえながら耳を澄ませていると、ドアの開く音が聞こえた。

そっと覗くと、木山が早足で教室を離れていくところだった。


教室に入ると、取りに来たはずの筆箱が引き出しから消えていた。


月曜日。

机の上には、筆箱が置かれていた。

放課後、私は木山を問い詰めることにした。


「お邪魔しまーす!木山くんっている?」

「ん、木山?荷物あるし、まだ帰ってないと思うよ」

「よかった!戻ったら、体育館裏で待ってるって伝えてくれない?」

「いいけど...アカリ、あいつのこと好きだったの?意外。だってあいつ、キモくない?」


5分もしないうちに、木山は現れた。

「あ、ど、どうしたの?僕に話があるって......」

「なんでだと思う?」

できるだけ冷静な声で言うと、木山は目を泳がせた。

「...ぼ、僕が盗んだから...。筆箱」

「正解。──なんで盗ったの?」

「......」

「答えないと、先生に言うから。」

「......! す、好きだから。」

予想外の言葉に、胸がドキリと跳ねた。

「はぁ?なにそれ」

「アカリちゃんのことが...好きで。...筆箱盗んで、ごめん」

「気持ち悪い。木山に告白されて、私が喜ぶと思った?」

「......ごめん」


頬が熱くなっているのが自分でもわかった。けれど、その熱を抑えられなかった。

「ねえ、今までもこんなことしてたの?」

そう言うと、彼は震える指でスマホを操作した。

差し出された画面には、私の写真がずらりと並んでいた。

「うわ......本物じゃん。マジできもいね」

「ごめん......」


にやけそうになる顔を隠すように、私は木山に背を向けて歩き出した。

「帰る。他の人にはそんなことしないでね」



帰り道、思わず笑い声がこみ上げた

木山は本当に気持ち悪いやつだった。

私を好きで。私の写真だけを何十枚も撮っていた。

木山にとって私は特別な女。

私は、木山の世界の中心だ。


翌日、学校を出る前に、私は自分の下着を脱いで引き出しの奥にしまった。


あいつは取りに来るだろうか。













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少女は見られた 結弦 @enamon

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