無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります！

第4話「奇跡は芽吹き、笑顔は咲く」

　リーシャの家に招かれた俺は、彼女の両親から涙ながらに感謝され、粗末ながらも温かい食事と寝床を提供された。久しぶりに屋根のある場所で眠り、人の温かさに触れた夜だった。

　翌朝、俺は村の再生計画に取り掛かることにした。まずは、全ての基本である食料の確保だ。

「リアムさん、畑仕事を手伝ってくれるんですか？ でも、うちの畑は…」

　俺と一緒に畑に来てくれたリーシャが、申し訳なさそうに言う。彼女の視線の先には、パサパサに乾き、ひび割れた大地が広がっていた。石ころだらけで、とても作物が育つようには見えない。

「大丈夫。ちょっと見ててくれ」

　俺は畑の中心に立ち、地面にそっと手を触れた。

【鑑定】

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【名称】痩せこけた土地

【種別】土地

【情報】長年、栄養分を吸い尽くされ、石ころばかりになった土地。作物の栽培には全く適していない。雑草すら生えるのが難しいだろう。

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『想像通り、いや、想像以上にひどいな…』

　だが、今の俺には関係ない。俺はウィンドウの情報を、迷いなく書き換えていく。

【名称】を「豊穣なる恵みの大地」に。

【情報】を「あらゆる作物が、植えただけで驚くほど良く育つ、生命力に満ちあふれた奇跡の土壌。太陽と水の恵みを最大限に吸収し、栄養満点の作物を実らせる」と。

　確定の念を送ると、足元から確かな変化が伝わってきた。乾いてひび割れていた土が、まるで生き物のように脈打ち、みるみるうちに潤いのある黒々とした土に変わっていく。ゴロゴロしていた石ころは砂のように細かくなり、土の中へと消えていった。

「うそ…土の色が…」

　隣で見ていたリーシャが、信じられないといった様子で目を見開いている。

「これでよし。さあ、種をまこう」

　俺たちは村に残っていたカブの種をまいた。本来なら、収穫まで数ヶ月はかかるはずだ。だが、俺が創り出した「豊穣なる恵みの大地」は、常識を遥かに超えていた。

　種をまいてから、わずか一日。畑には青々とした双葉が一斉に芽吹いた。

　三日後には、葉は人の手よりも大きく育ち、一週間後には、畑一面が赤ん坊の頭ほどもある、丸々と太った巨大なカブで埋め尽くされたのだ。

「こ、こんな大きなカブ、見たことない…！」

　村人たちは自分たちの目を疑い、収穫したカブの重さと大きさに狂喜乱舞した。一口食べれば、果物のように甘く、みずみずしい。村には何年ぶりかという、満腹の笑顔が溢れた。

　俺の奇跡は、それだけでは終わらない。

「リアムさん、このクワ、もう刃がこぼれちゃって…」

　村人が持ってきた、錆びてボロボロの農具。俺はそれを【鑑定】し、情報を書き換える。

【名称】伝説の開墾クワ

【情報】古代のドワーフが鍛えたとされる伝説のクワ。いかなる固い大地も、豆腐のようにたやすく耕すことができる。決して刃こぼれすることはない。

　すると、錆びついていたクワはまばゆい光を放ち、まるで新品のような、いや、それ以上の輝きを放つ逸品へと生まれ変わった。

「な、なんだこりゃ！ 軽く振るだけで地面が耕せるぞ！」

「俺のカマも頼む！」

「私のスキも！」

　鉄くず同然だった農具は、次々と伝説級のアイテムへと生まれ変わっていく。村の開墾作業は、笑い話のような速度で進んでいった。

　村の食料事情が安定すると、次は住居だ。崩れかけた家々の木材を【鑑定】し、「千年腐らない神樹の木材」に書き換える。脆かった壁は「ドラゴンの鱗より硬い石材」に。

　村は日に日に姿を変えていった。豊かな畑、頑丈な家、そして何より、村人たちの顔には明るい笑顔と活気が戻っていた。彼らは俺のことを「リアム様」と呼び、救世主として心から慕ってくれた。

　そんな日々の中で、俺とリーシャの距離も自然と縮まっていった。

「リアムさん、いつもありがとうございます。あなたのおかげで、村のみんなが笑ってる」

　夕暮れの畑で、二人でカブの世話をしながら、リーシャが嬉しそうに微笑む。その笑顔は、どんな報酬よりも俺の心を温かく満たしてくれた。

「俺は、リーシャが笑ってくれるのが一番嬉しいよ」

　素直な気持ちを口にすると、彼女は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。その仕草がたまらなく愛おしくて、俺は思わず彼女の手を握っていた。

「え…」

「これからも、俺のそばにいてほしい」

「…はい」

　小さくうなずいた彼女の瞳は、夕日に照らされてキラキラと輝いていた。

　裏切られ、蔑まれ、全てを失った俺が、こんなにも穏やかで、満たされた気持ちになれるなんて。王都にいた頃には、想像もできなかった。

　この幸せを、この村を、俺は絶対に守り抜いてみせる。

　俺は夕日に染まる村を眺めながら、改めて固く心に誓った。ここが、俺の新しい居場所だ。