ブライダル学園の贄婿

ハリエンジュ

その1 この傷痕は誇りの証

■ブライダル学園の贄婿


★その1 この傷痕は誇りの証





 彼女の小さく華奢で弱々しい身体を、僕の精一杯で抱き締める。

 この世の全てから彼女を覆い隠すように。

 彼女をこの世の悪意に1ミリだって触れさせない為に。


 僕の背中に衝撃が走る。


 衝撃だけじゃない。

 鈍く重い、耳を塞ぎたくなる音と共に、意識を飛ばしそうな程の激痛が走る。


 それでも、気をやってたまるかと歯を食いしばる。

 僕を確実に壊そうとする痛みに、確かな暴力に、ただ黙って耐え続ける。


 今の僕には戦う力なんてまだないから。

 腕の中のこの人を、完璧に完全に守れるヒーローめいた力なんて、僕はまだ持っていないから。


 だから今はせめて、この人を守る盾に、この人を覆う鎧になりたかった。


 抱き締める腕に、力を込める。

 恐怖で怯え切って、がたがたと震える小さな小さな女の子。

 僕の愛しい、たった一人の女の子。


 大丈夫です。守りますから。

 僕が全身全霊で、貴女を。


 ――貴女を、誰にも、何にも、穢させやしない。


 それは僕の、自我がはっきりした頃には既にこの胸に灯っていた、僕だけの誓いだった。





 枕元のアラームが鳴る数分前に、ふっとそれが定まっている運命かのように意識が浮上した。


 揺れるカーテンが、その隙間から差し込む神々しさすら感じる光が、可愛らしい小鳥の囀りが、心地良い朝の訪れを告げていた。


 比較的寝起きは良い方だ。

 僕は躊躇する暇もなく上体を起こし、予定していたアラームを全て止めてから朝の準備に取り掛かる。

 制服に着替えよう、とシャツを脱いだ時、丁度姿見に映った『それ』に、僕は一瞬動きを止めた。


 僕の背中には、ひどく痛々しい傷痕が残っている。

 幼少期に殴られ、蹴られ、危うく背骨に後遺症が残る程の暴力を受けた結果の醜い傷痕。


 だけど、僕の全てはここから始まった。


 この傷痕はただの傷じゃない。

 僕にとっては誇りの傷。

 僕にとっては――これ以上ない、勲章。

 自分の人生全てを捧げてもいいくらいに想っている、ただ一人の女性を守れた証。


 そうだ、全ては。

 この傷痕から始まったんだ。


 これは少し、不思議な恋の物語。

 異文化と異文化が手を繋ぐ世界の、恋の話。


 僕の名前は、那須島なすじま木折きお

 13歳になったばかりの、ただの人間の男。


 そんな僕は――花の女神様の血を引く、とても可愛らしいひとの婚約者だった。


 背中の傷を制服で隠し、ぱちんと両手で頬を叩き、本日も気合いを入れて。


 男・那須島木折、本日も大好きなあの人を世界の全てから守るべく。

 一生懸命、頑張ります!

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