転生濃姫、信長の暴走をなだめつつ天下取りをサポートすることになりました

藤乃つむぎ

プロローグ

 天文十八年二月、美濃の国の雪解けを待って、私は尾張に向かって旅立った。数え年十五(満十四歳)にして、二度目の輿入れである。ちなみに一度目の輿入れは十一歳の時で、一年足らずで夫に先立たれ、実家である美濃に戻っていたのである。

「ふぁあああああああ。」

 美濃から尾張までは、十里足らず。馬なら半日、徒歩でも戦場に向かうなら一日で駆け抜ける距離ではあるが、今回は、輿入れ。途中で一晩宿を取り、二日目、ようやく尾張の国に入った。

「姫様、なんとはしたない。もう尾張の国に入ったのですぞ。那古野なごやの城下の者に見られたら何と言われるか。」

 私の大あくびを聞いて、輿にぴったりとくっついて歩いていた、にたしなめられた。いとは、私が赤子の時から世話をしてくれている乳母である。今回も私の身の回りの世話をするために、尾張の国までついてきた。

「だって、ずっと座ってるだけで、疲れたんだもん。」

「姫様、またそのような妙な言葉遣いを。全く、どこで覚えていらしたのか。姫様は、斎藤家、ご正室の娘でいらっしゃるのですよ。武家の娘らしく、しゃんとしなされ。いとは、もう、なさけのうございます。」

 今度は、言葉遣いを注意された。なぜか、私は、周りの人とは違う言葉遣いをすることがあり、それをよくいとに注意されていた。自分でも、いつどこで覚えたのかわからない。

「人前では、ちゃんとできます。少し寝るわ。那古野城が見えたら起こしてね。」

 これ以上話をしていても、いとの小言が続くだけである。私は、いとの小言から逃げるように瞼を閉じた。

(前だったら、美濃から尾張なんて、車であっという間だったのに。)

 夢うつつにそう思った時だった。

(前って何? 車って何なの?)

 そう思った時だった。私の頭の中に、様々な情景が雪崩のようになだれ込んできた。

 家族で楽しくご飯を食べる女の子。

 マクドナルドでハンバーガーを食べながらおしゃべりする女の子。

 高校の合格発表で、友達と抱き合って喜ぶ女の子。

 男の子に告白する女の子。

 失恋して涙を流す女の子。

(この女の子って、私? これは前世の私の記憶?) 

 記憶はとどまることなく蘇る。

(古典と日本の勉強、好きだったな。)

 そこでハッとした。今の私は、美濃の斎藤道三の娘、帰蝶。またの名を濃姫。そして、向かっている先は、尾張の那古野城。そう、織田信長のところである。

 尾張の織田信長と言えば、この戦国の時代でも「大うつけ」としてその名を知られている。そして、前世の織田信長と言えば、「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」と言われるほど、荒々しい性格だったことで有名だ。

「なんでなのー。なんでよりによって信長なのー。」

 思わず大きな声が出た。

「姫様、またかような声を出して。」

 外でいとがまた怒っているが、前世を思い出し、混乱している私には、声が届かなかった。

 長旅と、前世を思い出したことによる精神的な疲労により、体力を一気に消耗した私は、輿の中で意識を手放した。

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