在りし日の『I wanna follow you』

@gagi

在りし日の『I wanna follow you』

 バンド仲間に高校の卒アルを見られた。


「やば、この写真。今と全然違うじゃん」


 そいつが見てるページには私の名前。


 そこに映るのは黒髪おさげな髪型の地味な女。


 対して今の私の格好は、大抵ギターを背負ってる。ボブヘアの髪を金髪にしたりインナーカラーだけ入れたり、その辺は時々の気分で。ハマってる曲にちなんだピアスをいつも耳につける。


 いるよね、こんなバンドマンてな風体。それが今の私だ。


「何、大学デビューってやつ?」


「そうなのかな」


 違う、と私は思う。


 むしろ高2デビューってやつだった。




 小さい頃から私は音楽が好きだった。


 それは親がアーティストAの曲を常に家で流していたからだろう。


 そんな私が高2の進級を機に文学少女への転身を図った。


 理由は『雪国』や『金閣寺』に心打たれたから…


 ではなく、


 気になる男子がいたのだ。


 そいつは同じクラスの山崎。


 山崎は同世代の男子共のくだらない雑談から一歩身を引いて小説ばかり読んでいた。


 他の男子共の幼稚さとの対比で際立つ、山崎の大人びた雰囲気が好みだと当時の私は感じていた。


 今思えば単純に顔が良かったから好意を抱いただけだが。

 

 とかく、高2の私は山崎とお近づきになりたくて文学少女のフリを始めた。


 そして山崎が部長の文芸部に入った。




 私がしていたのは本当に、文学少女のフリだけだった。


 高2の秋ごろ。放課後の部室。


 斜陽の差し込むその部屋で、山崎の視線はペーパーバックに落ちている。


 私も彼の対面に座って小説を読んでいた。


「やはり、夏目漱石は良いですね」


 山崎が顔を上げる。


 吸い込まれそうな瞳。


 夕陽を浴びる双眸に黄昏の橙が照り返す。


「漱石の作品は人間の心理が深く描き出されています」


 と山崎は言った。


「わかります。葛藤や複雑な人間関係の描写がとても繊細ですよね」


 と私が言った。


 『何言ってんのか全然わかんねー!!』と内心で私は叫んだ。


 漱石の作品は幾つか読んだが『このおっさんの文章ギャグセン高くね?』しか感想がない。


 私の文学少女は完全に猿真似だった。




 卒アルの写真を撮って少し後に私は文学少女をやめた。


 3年生が受験に専念するために部活を引退する時期だったというのもある。


 ただそれよりも、もう限界だった。興味がないのに興味があるフリをするのは。


 文学と疎遠になるのと同様に山崎とも話す機会が減った。


 共通の話題がなくなったのだから当然の成り行きだ。




 卒業式の日に私は思った。


 これは私の黒歴史だと。


 貴重な高校生活の半分近くを似非文学少女として、偽りの自分として過ごしてしまったと。


 私は高校時代の自分が嫌いだと。



 しかし、今の私はそう思わない。


 最近ハマってる曲にこんな歌詞がある。


 あなたについていきたいわ

 素敵なあなたのように、私も素敵になるから


 私は似非文学少女だった私に対して思う。


 あなたも本当の私なのだと。


 好きな人についていきたい。そんな恋心に全力で向き合っていた私なのだと。


 そして、そんなあなたを私は結構気に入っている。

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