第12話 : 魔法使いは強すぎる








 最初のアーツマスターであるお父さん曰く、



『魔法使い相手には100%勝てないと思った方がいい』



 いや当たり前なんだけどね。

 このミシェルさんも思う。魔法使いが強すぎる!!




 魔法使いとは、生きた攻城兵器である。


 射程で弓兵と同じ、防御力は盾持ち全身鎧の重装騎士、火力と速力でドラゴンと同レベル。


 そう思って戦うべきだし、誇張という物でもない。



「対して、私たちは素手が強い程度で、武器術使っても真正面から魔法使いには勝てない」


「だからこそ、最初に探しておくか」


「そんでもって、奇襲には奇襲を。


 ‪……‬フレちゃんいてくれてよかった」




 相手がマジでサモハンの『予想通り』魔法使い、それも単騎でくるレベルであろう実力者が来るとは。

 なんで分かるって?最悪の想定っていうのはそういうもん。


 作戦と言える作戦ではないけど、まずは魔法も使えるサモハンが表に出て注意を引く。


 そして、『鷲獅子拳グリフォンアーツ』の変わり種の技で密かに近づいたフレちゃんが、相手をこっちまでぶっ飛ばしてもらう!



「ぶっ飛ばせるかの、あの嬢ちゃんは?」


「‪……‬多分ね」



 おっと、早速コンタクト‪……‬あ!


 フレちゃんが、相手の飛行を司る魔法の杖の上を叩くよう片手を叩きつけて、反動を乗せて両足蹴りした!!


 相手が防御魔法ごと体が吹っ飛んだ瞬間、フレちゃんもそのまま一回転して空中を両足で蹴って飛ぶ。



 ズドドドドド!!


 あの連続蹴り、『鷲獅子雷鳴脚グリフォンライトニングソニック』!


 しかも、空中を蹴ってからのは鷲獅子拳グリフォンアーツの第4段階の技だぞ!!


「くっ!」


「はい、ご苦労さん!」


 防御魔法をフレちゃん側に全開にしてたせいで、後ろのがおざなりだった見たい。


 ────まるで、翼を閉じたように脇を締めて肘から正面に逆ハの字に構える。

 まぁ腕以上に重要なのは、足を内股気味にしっかり構えること。


 サモハンの『強鳥拳ラプターアーツ』がこの構えをとったなら、前に出ない方がいい。


 その時繰り出されるのは、拳にあらず。

 いわば嘴。ハゲタカやワシの鋭い嘴は、


 ズブッ、と肉に食い込む。



「────ッ!!」


 突き込んだ指先は、まるで槍。

 サモハンは、あんな身体つきなあってとんでもない怪力で、その上使うアーツは私より鋭く剛強。


 今、あのよく見たらハイエルフの魔法使いの、背中の肋骨の間からブッ刺さってる指が物語ってるほど。


「残念だったな。

 分身か転移の魔法使う暇は与えねぇよ、ハイエルフのよしみでもな?」


「が‪……‬ぐっ‪……‬ああッ!!」


「オイ今どさくさに紛れてなんか詠唱しようとしたな?

 今お前の背中にブッ刺してる手で分かんだよ、魔力の動き」


「‪……‬人の身体に手を刺して話すとは、同じハイエルフと思えないほどに野蛮な‪、ぎゃあッ!?」


「野蛮だぜアタシは?なんせ、『サモハン』なんてハイエルフとしては屈辱的らしいあだ名をそらまぁ喜んで名乗ってるぐらいだからな、同族ちゃんよ?」


 うわ‪……‬ありゃ中で骨掴んでるわ。

 まぁ、魔法使い相手に容赦はいらないか。



「終わったみたい。

 矢を使わなくてよかったー‪……‬地味に高いんだよ作るにもさ」


 とりあえず、私たちもこの魔法使いを囲むために改めてデッキに出る。



「ふぃー‪……‬過去最高の飛行時間かもです〜」


「お、フレちゃんもおかえり!」


鷲獅子拳グリフォンアーツの妙義、すごかったぞ嬢ちゃん?」


「なかなか辛かったですし、怖かったですね‪……‬」


 というわけで、全員合流。


 さて、とこの魔法使いさんを囲む。


「‪……‬寄ってたかって、一人相手にいじめとは。

 アーツマスターには誇りもありませんか」


「誇りで勝てるような魔法使いさんじゃないでしょ?

 アンタ相手には誇りも矜持も投げ捨てる」


「フッ‪……‬田舎エルフの褒め言葉は変わってます」


「なんだこの嬢ちゃんは。随分偉そうに」


「偉いに決まってるぜイグニスさんよ。

 少なくともアタシより2回り年上だね。

 600歳ってところか」


「若い子は、こんなおばさん相手にも全力ですか、ギッ!!」


 皮肉だけはやたら豊富なのは、ハイエルフっぽい。

 まぁ、サモハンの指がまた食い込んだ体内の骨を軽く掴んで黙らせるけど。


「またなんか声に混じって詠唱かコラ?

 おばちゃんよぉ、アンタあのテンプレア騎士団の関係者か?」


「だとしたら‪……‬なんの関係が?

 それとも、人の体の中に指を食い込ませないと質問も出来な、」


「同じ『サモハン』のよしみで優しくしてりゃあよ」


 おっと、それ言っちゃう!?

 ほら‪……‬サモハンったら『サモハン』なんてごく一般的ハイエルフの人に言う!?凄い顔で見てくるじゃん。


「は?今なんて言った??」


「なんだサモハンちゃんよ?アタシみたいな身体しててまだ気にしてんのかい?

 あ、お腹はアタシのが引き締まってるかなもしかして?」


「‪……‬‪……‬殺すぞクソガキ。

 感性まで劣等種に染まったかこのサモハンが」


 目がマジで見開いてます。

 静かなのは、もう怒り通り越して殺意湧いているからです。


「‪……‬なぁ、もしかして、サモハンってなんかの悪口か?」


「そうだぜイグニス爺さん。

 ハイエルフにとっちゃひでぇ悪口さ」


 まぁ、サモハンことサリア・モルガーン・ハントレス以外には言えない。


「ハイエルフは、『枯れ枝エルフ』とも言われるぐらいに長身痩躯が種族の基本。なんなら、肋骨が浮き出る程度の肉の無さこそ美しいとか言ってるぐらいだ。


 そんな前提でアタシやこの人見なよ‪……‬

 色々、肉乗ってるだろ?」



 言っとくけど、この魔法使いさんは大変スタイルのメリハリ付いてるし結構色々大きい。

 でも引き締まってるかな、お腹とかは比較的に。



 でも、ハイエルフから見たら、つまりは‪……‬





「サモハ、で『デブ』。

 ンはドラゴンなんか見たいな、大型のモンスターの意味で、転じて大きなモンスター見たいって意味だ。


 強いて大陸の人間の言葉で言うなら、サモハンは、


 『デブゴン』


 ってのが訳すなら近いかな?」


 イグニス爺さん、思わず吹き出す。

 つられてフレちゃん、口元抑えて震えている。



「脳が我々ほど出来が良くない劣等種へのカスみたいな解説は楽しいか??」


 そんなわけで、目の前のハイエルフ基準のデブゴン魔法使いさんは、信じられないぐらいのさっきでサモハンのことを見てました。


「アンタって、心が広いんだねサモハン」


「だって、多少デブゴンちゃんの方が健康的だろ?

 それに、デブゴンって愛称可愛くね?


 どう思うデブゴン魔法使いさん?」


「殺してやる‪……‬!」


「どうやってさ?」


 瞬間、このハイエルフの魔法使いは‪……‬笑った。


「‪……‬サモハン、多分なんか保険かけてるよこのおねーさん!」


「分かってるさ。けど何してるかが掴めねぇ。

 コイツの魔法は封じてる。

 となるとなんだ?援軍か?」


「私の魔法を封じた‪……‬?

 所詮、2流ですねぇ‪……‬ふふふ‪……‬」


「‪……‬しまった!!

 もしや何か召喚を事前に!」


「「それかっ!?」」


 なんかきた気がする、で回避は正解。

 直後、何かがこっちに突っ込んできた!!


 ドゴォン!!


 船の壁がー!!


「ルイスさんごめーん!!」


「ああ!修理費は王国につけとくよ!!

 それよりなんだその化け物は!!」


 操舵室まで丸見えの穴を作ったのは、まさに化け物。



 まるで、全身鎧の2足歩行の亀の怪物

 コウモリみたいな、カミソリの刃が連なった明らかにヤバい翼が背中から生えた人型の怪物

 そして、シンプルな人形で下半身が毛深くてヒヅメのツノ持ち



「魔神じゃねーか!」



 魔の戦神ゼルド様の血から生まれた分身である恐ろしい存在の『魔神』達。

 案外、ゼルド様自身は恐ろしいイメージと違い話が分かる神なので、それなりに代償を払えば召喚魔法で呼べちゃうやばい存在、魔神。




「なんだよ、そんな珍しいかよ」


「こっちとしちゃあ、フェレーナ以外にええ女なハイエルフいる方が珍しいよ」


「我ら、もう大きな戦で呼び出されることも少ないからなぁ‪……‬珍しいかぁ‪……‬」


「しかも意思疎通できるって、3人とも高位か!」



 まさか、そんな高位の魔神を事前に呼んでおいた!?


 恐るべし凄腕魔法使いだ‪……‬やっべぇ、時代じゃないからとか嫌だからって言う前に殺すべきだったかもしれない‪……‬!!



「グッ‪……‬!」


「おー、なんだ派手にやられてんのな嬢ちゃん!

 ちょっと血貰うわ」


「俺も俺も」


「ちっとは労わってやれよ。そりゃあ血は良い味だけどよ」


「魔神の皆さん、よかったですね。

 呼ばれ損じゃない上に、勝手にオヤツをもらえる事態で」


 す、と相手方の視線全部がこっちにくる。


「で、全員殺せば良いのか」



 一言で、ああやばいなって分かる感覚。

 基本的に、生物としてはあっちが強者。

 見る目は基本‪……‬獲物相手の品定めの目。




「まぁ、そうくるよね」


「‪……‬ん?おい待て、そこのエルフ!

 お前見覚えあるぞ!」


 ふと、あの角人魔神が私を指差す。


「‪……‬?」


「思い出した。お前確か、あのアーツマスターとか言う異世界人の弟子だったチビのエルフだ!!」


「何!?

 じゃああっちの良い体してるハイエルフ‪……‬

 あの時のチビデブちゃんか!!」


 どうやら、ヤバい翼の方も昔馴染みらしいね。


「何、200年前に会ったことあるってワケ?」


「あるもクソも、酷い目にあわせたのお前だろ!

 アーツマスターも強かったが、お前チビのくせにオレに勝ちやがって!」


「お前、チビに負けたって嘆いてたっけか。

 オレは美人で気の強い獣人の尼さんに負けただけマシか」


「‪……‬あんときは武器ありとはいえチビのエルフに負けちまったからなぁ‪……‬

 こりゃあ、油断してられんぜ」


「それもそうだな。

 亀公、気をつけろ。人間の爺さんでも、俺たちレベルと思ってやるべきだぜ?」


「亀公言うなよ‪……‬まぁ、ごもっとも」



 あ、空気変わっちゃった。

 ───捕食する目から、敵として対峙しちゃったよ。


 こっちの方が、ヤバい。


「‪……‬‪……‬なぁよ、チビミシェルちゃんよ」


「言うなって、嫌になる」


「何言うか分かってるとか、アタシの母ちゃんか〜?」


「アンタだってそうでしょ‪……‬!」



 ここで‪……‬やるのか?



「あー!!待ってくれアンタら!!」


 ふと、運転席近くのルイスさんが叫ぶ。


「床が抜けるぐらいなら良いけどよ!!

 アンタら、どうせ相手はバカスカ魔法やら何やら撃ってくんだろ!?

 浮遊ガスとかエンジンとか、まぁその色々爆発したらまずいのあんだよ!!

 このままじゃ共倒れだぜ!!」


「じゃあ何、他所でやれって?」


「できればそうしてくれ!!

 そこに、落下傘なら二つある!!」


 いやいや、気持ちはわかるけど、え?ここで降りるの?


 落下傘‪……‬大昔エルフのいる暗い森の大きな木からやらされたな‪……‬いまはバックなんだ。使い方は?コレ引っ張るだけ?へー、絵で説明あるんだー、今時ー。


「‪……‬‪……‬らしいけど、飛び降りたらアンタら追いかける?」


「‪……‬どうなんだよ、契約者のフェレーナちゃんよ?」


「当然全員殺します。頼まれた以上に、私をサモハンデブゴンと少しでも思ったやつを殺す!」


「「「死にます」」」


「死ぬならこいつら殺してから!!脳筋魔神にもそのぐらいの分別はあるでしょう!?」


 へいへい、と魔神たちも向き直る。


「‪……‬じいちゃん、一個はアンタがつけて」


「まぁ、オレは飛べんからな」


 とりあえず、イグニス爺さんにこの背負うタイプの落下傘を付ける。


「どう使うんだ?」


「ジャンプしたらすぐはダメ。

 ただし地面とキスする前に、この紐を引く!

 ジャンプしてから、でもすぐはダメ!」


「‪……‬初めて、死ぬかもと思うぞ」



 イグニス爺ちゃんにしっかり落下傘を固定して、私も背負う。


「オイオイ、チビちゃんアタシの分は?」


「がんばれ!

 フレちゃん、そっちもごめん!」


「いえ!」


「‪……‬てなわけで、あの空いてるところから空へ飛び降りるワケだけど、誰が先に行く?」


「若もん優先だろ!」


 と、イグニスお爺さん、早速飛び降り。


「じゃあ、俺は楽そうな爺さんを」


 亀の魔神、続いて飛び降りる‪……‬飛べるの亀って?


「若者優先らしいので!!」


 フレちゃん、行きました。鷲獅子拳グリフォンアーツの歩法便利だな。


「お、ありゃ因縁の動きだ。

 嬉しいねぇ、俺はちょっと幼い人間が好きなんだよ!」


 そしてあのヤバい翼の魔神がロリコン発言してから追いかけていく。



「‪……‬さて、まぁ‪……‬」


 そして、まず私は、

 隠してた、エルフ伝統の武器投げ矢であの魔法使いを襲う。


「!?」


 やっぱりと言うか、矢避けの魔術を無詠唱でやってきた。


「サモハン!!」


「応よ!!」


 なんで、続いてサモハンに蹴りを入れさせておいた。


「魔法使いは任せたからね!!」


「アタシだけ生身で降りろってか?

 じゃあ、お前付き合えや!!」


「あっ!!」


 

 まぁあだ名が『サモハンデブゴン』なだけあって、あの身体でパワーあるから魔法使いさん抱えてタックルでそのまま空へ飛び出せるんだよね、サモハンは。


「じゃ、私も!」


 てなわけで私も落下傘背負ってダーイブ!!



 みんな生きててくれー!!

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