第3話 放課後、またダンジョンで

授業中。

黒板に先生が数式を書いている横で、俺はひたすらノートに落書きをしていた。


――ゴブリンのドヤ顔。


「ギィ!」

丸い顔に牙を描き、ドヤァとした表情。


……気づけば、無意識に何度も同じ顔を描いていた。


「……くそ、また思い出しちまった」

思い出すだけで胸の奥がむずむずする。あの妙に楽しそうなゴブリンの顔。


隣の席の山田がのぞき込む。

「お前、何描いてんの?」

「な、なんでもねぇ!」

慌ててノートを閉じた。


“ゴブリンとカートで何十戦もやったけど、結局俺が負け越しました”なんて、誰にも言えるわけない。

あんなの、絶対笑われる。


昼休み。

教室の隅でパンをかじりながら、スマホでゲームニュースを開く。

某有名レースゲーム的なやつの最新作発売まで、あと二週間。


「……あぁ、予約したい。でも金がねぇ」


頭の中をぐるぐる回るのは、ゲームとゴブリンのことばかり。

勉強なんか手につくわけがない。


放課後。

チャイムが鳴ると同時に、俺はランドセル……じゃなくて鞄を掴んで立ち上がった。


「おい鈴木、今日はゲーセン?」

クラスのやつに声をかけられたが、即座に否定。

「いや、ちょっと用事」


自転車を走らせる。

家とは逆の方向。

行き着く先は、昨日と同じ――ダンジョン。


「……何やってんだ俺」

自分でも呆れる。

ゲーム代稼ぎが目的だったはずなのに、足は勝手にここへ向かっていた。


本当は分かってる。

また、あいつに会いたかったんだ。


洞窟の入り口に立ち、深呼吸をひとつ。

昨日の激闘がフラッシュバックする。

負け続けて、疲れ果てて、それでも何故か笑ってた俺。


「……よし」

俺はスキルを発動した。


【スキル:クラッシュサーキット】


視界が切り替わり、轟音と振動が身体を包む。

サーキットのスタートライン、煌々としたライト、並んだカート。


そして――。


「ギィ!」


いた。

昨日と同じカートに腰掛け、こちらを見つけると手をぶんぶん振るゴブリン。

どうやら、スキルの中でずっと走り続けていたらしい。


「……お前、ホントにずっと走ってたのか」

呆れる俺に、ゴブリンは満面の笑みでカートを指さした。


「またレースかよ!? 好きすぎだろお前!」


次の瞬間、俺の視界にウィンドウが浮かぶ。


【ゴブリンは“もっとレースがしたい。一緒に走りたい”と言っている】

【仲間にしますか?】


「……仲間?」

俺は思わず声を漏らした。


ゴブリンはニカッと笑って、両手をバタバタ振る。

「ギィギィ!」(一緒に走ろう!)


どう見ても「俺と友達になろうぜ!」のジェスチャー。


「おいおい……モンスターが仲間志望とか聞いたことねぇぞ」


昨日のゴブリンは、ただの敵モンスターだったはずだ。

でも、こいつはもう“敵”って感じじゃない。

一緒に戦った――いや、一緒に走った仲間、みたいな存在だ。


「……しゃーねぇな。いいぜ。仲間になろう」


俺が言葉を口にすると、ウィンドウが光った。


【ゴブリンが仲間になりました】


「ギィイイ!」


ゴブリンは飛び跳ねるように喜び、ハンドルをガチャガチャ動かす。

その姿を見て、俺は頭を抱えた。


「俺の初ダンジョン攻略……なんでこうなったんだ……」


でも、不思議と嫌じゃない。

むしろワクワクしている自分がいた。


俺とゴブリンの奇妙なコンビ。

次は一体、どんな冒険になるんだろうか。


――第3話、完。

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