現代ダンジョンでゲームプレイ
ヨムヨム
第1話 俺の初スキルは……なんか変なのだった
俺の名前は鈴木たける。
茨城県北茨城市にある県立〇〇高校の一年生だ。
朝の通学路、潮の香りがほんのり漂う海沿いを、自転車でガタガタ走る。
見える景色はいつもと変わらない。灰色の校舎と、騒がしいクラスメイト。
「おい、たけるー! 今日放課後ゲーセン行かね?」
「やめとく。金欠」
俺は財布を取り出して見せる。小銭数枚。笑えない。
本当はゲーセンどころか、新作ゲームの予約すらできていないのだ。
「お前んち小遣い少なすぎだろ」
「……うるさい」
授業も終わり、部活にも入っていない俺はそのまま帰宅……のフリをして、自転車を別の道へ走らせる。
向かう先は――ダンジョン。
今や全国各地に“ダンジョン”が出現して、ニュースは毎日その話題ばかり。
モンスターを倒せば換金アイテムが出る。
しかも入った人間には必ずスキルがひとつ与えられるっていうオマケ付き。
「よし、ゲーム代くらい稼がせてもらうぜ」
俺は自転車を止め、洞窟のような入り口を前に息をのんだ。
冒険が始まる――なんて大げさな気分じゃない。
ただ、欲しいゲームのために。
俺のダンジョン初挑戦が始まった。
中に足を踏み入れた瞬間、視界にウィンドウが浮かぶ。
【初回特典:スキルを一つ付与します】
「……来た!」
知ってた。これがあるって分かってた。
【スキルタイプ:ゲームプレイ】
「……ゲーム?」
いやいや、火球とか、剣術とか、そういうのを期待してたんだけど?
ゲームってどういうこと?
さらに説明が流れる。
【敵と自分をゲームの中に引き込み、そこで勝負する。勝者が現実でも勝利扱いとなる】
「……マジでゲームで戦うのかよ」
ファイアボールぶっぱとか、剣でズバッとかを夢見てた俺は、軽く絶望した。
しかし次の一文に俺の目が輝いた。
【初回特典:スキルポイントを消費せず、1つのゲームを獲得できます】
「……おぉ、無料ガチャ!」
リストが表示される。
じゃんけん
コイントス
ブラックジャック
クラッシュサーキット
「……クラッシュサーキット!?」
俺の視界に、最愛の文字が飛び込んできた。
某有名レースゲーム的なアレ。俺が毎日走り込んでる、唯一の得意分野。
「これしかねぇ!」
迷わず即決した。
【スキル「クラッシュサーキット」を獲得しました】
「ふふふ、これで俺無双確定だろ……」
「ギィイイイ!」
その時、緑色の小さな怪物が現れた。
手には棍棒。牙をむき出しにして威嚇する。
「ゴブリン! はい、定番きたぁぁぁ!」
よし、相手は決まった。
俺とゴブリンの――初勝負だ!
第1戦
スキルを発動した瞬間、視界が切り替わった。
サーキット場、轟くエンジン音、並んだ16台のカート。
俺はハンドルを握り、隣には困惑した顔のゴブリンが座っている。
「ギィ?」(なんだこれ)
「いや俺も知りたいわ!」
上空にスタートランプが点滅する。
3、2、1――GO!!
レース1
スタートダッシュを決めて飛び出した俺。
……のはずが、後ろからNPCに体当たりされ、即スピン。
「おい! なんでこのタイミングで突っ込んでくんだよ!」
その隙に、フラフラ運転してるだけのゴブリンがなぜか先頭でゴールイン。
【結果】ゴブリン1位10pt(10pt)/俺0pt(0pt)
「……ゴブリンつえぇぇ!」
ゴブリン「ギィ!」(ドヤ顔)
だが俺は負けを認めない。
「ふ、ふん! このゲームは三レースの合計ポイントで勝負なんだ!
一回勝ったくらいで調子に乗るなよ、ゴブリン!」
レース2
俺はアイテムボックスを取った。
出てきたのは――赤いボール。追尾性能付き。
「……おお、これ絶対当たるやつだろ!」
投げると赤い光をまとってカーブし、ゴブリンに直撃!
派手にクラッシュするゴブリンのカート。
「よっしゃあああ!」
【結果】俺1位10pt(10pt)/ゴブリン5位4pt(14pt)
「やっぱ俺つえぇ!」
……しかしゴブリンの目は妙にキラリと光っていた。
レース3
序盤からゴブリンもアイテムボックスを取っていた。
出てきたのは――緑のボール。
「まさか……」
真っ直ぐ転がった緑のボールに、俺のカートが避けきれず激突。スピン!
「ぐはっ!? お前も使うんかい!」
そのままゴブリンがトップでゴール。
【最終結果】ゴブリン1位10pt(24pt)/俺2位8pt(18pt)
俺、敗北。
「俺負けたった……終わった。普通なら、ここで俺はゲームオーバーだ」
心臓がドクンと脈打ち、体が重くなる。
そう、ダンジョンルールでは負け=死。俺はここで終わるはずだった。
――その時。
「ギィ!」
ゴブリンが俺を睨み……カートを指さした。
その仕草は、どう見ても「もう一戦やろうぜ!」というジェスチャーだった。
次の瞬間、目の前にウィンドウが浮かぶ。
【対戦相手からの再戦提案を受諾しますか?】
「は? そんなの――」
俺は食い気味に叫んだ。
「はいに決まってるだろーーー!!」
ゴブリンが嬉しそうに牙を剥き、再びエンジン音が轟く。
こうして、本来なら無いはずの 第2戦 が幕を開けた。
――第1話、完。
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