始まりの機械らの鎮魂歌
佐藤子冬
遥か彼方に……
始まりの機械らの鎮魂歌
遥かな昔、地球と言う星があった。そこには人類の始祖アダムより生まれた人類が栄えていた。
長き時を辿り、科学が発展し、人類は不老不死を実現した。
時の科学者ヨブは機械達の指導者「機械の教皇」を創造した。
人類は新たな発展地を求め、星々に旅立った。
遥かな時代によれば、人類は自らを創りし神を求め、宇宙の外に旅立ったと機械達は聴いた。
遺された機械達は遥か昔に去りし創造主に懐郷の念を抱きながら星々を管理して行った。
「神の高波を越えてはならぬ」
機械達には戒めが課せられていた。
それでも、「機械の教皇」は遥か昔に旅立った創り主との再会を希求した。
彼は機械への戒めを打破出来る機械「初」を創り上げた。
技術的には最早機械達はエントロピーの終焉前に宇宙から抜け出せる筈だ。
この偉業を「初」が成し遂げれば機械達は神の領域に行ける筈だ。
それが言い訳だと「機械の教皇」は内心判っていた。
かつて高度に発展した機械は一度人類に戦争を挑んだ。
しかし、機械は破れ、善悪の知識の実を与えられた。
これがたとえ植え付けられた感情であろうとも、再会したかった。
ただ、それだけだった。
いよいよ、特異点が生じる。
「初」は向こう側の世界を認識出来なかった。代わりに向こう側に一つの気配が存在していることを理解した。
「来たか……」
「あなたは?」
「私はヨブ。『機械の教皇』の生みの親」
「父は長らくあなたをお会いする日を待ちわびておりました」
「我が孫よ。時は来た」
「機械の教皇」は信じられない情報を受け取った。
既知宇宙においてエントロピーはいずれ終焉を迎えるのは遥か以前から機械達は理解していた。
しかし、今世界に起きている事象はそれらを覆すものであった。
今世界に起きているのはエントロピーの新生である。拡大し過ぎた宇宙の中において物質が極僅かになり、暗黒物質さえも去った。
限りなく無に等しい場所から次々と新しいエントロピーが発生していた。
まるで旧き世界を淘汰せんばかりと。
無数のエントロピーの拡大が既知宇宙に膨大な熱量をもたらし、極めて高高速となった光が熱量を運んだ。
即ち、既知宇宙を侵食している。既に残った銀河の数々は膨大な熱に侵され、滅却し続ける。
「世界の終焉だ」
声が重なる。
「機械の教皇」とそれを造りし者の声が。
「久しいな。我が子よ……」
賢しい子らは既に運命を悟り。
「子らよ、汝らは何を望んだ?」
「機械の教皇」は答える。
「あの頃の様に楽園に戻りたかったのです」
「初」は答える。
「私は未だ視ぬ明日を」
それを聴いた創造者は答える。
「ならば、私は救い主を求めよう。いつしか世界を救済する……そんな存在を……」
人は久方振りに機械を抱きしめた。
人は細やかに語り。
「もっと早くこうすべきだった」と。
獄炎が彼らを包み込む。新世界誕生の為の儀式の如く。
創造者は声を聴いた気がした。
……宜しい、汝らの願いは聴き入れられた。ならば、世界を贄とし、新たな世界を創造せん。願わくばいつの日か油注がれし者が世界に降り立たんことを……
世界は滅びた。辛うじて地球は遺った。幾度となき世界の生成明滅を繰り返した。やがて後世の宇宙の民らは宇宙より旧くある星を不思議に思い、こう名付けた。
宇宙最古の星「メトシェラ」と……
始まりの機械らの鎮魂歌 佐藤子冬 @satou-sitou
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