第3話
夕食を済ませ、栞奈は一人で客室に向かおうとした。
だが、何故か瑚夏も付いてきた。
「あの、瑚夏?」
「何?どうかした?」
「あんた、何で付いて来てるの?」
「いやあ、母さんさ。黒羽さんのお布団とかを用意するつもりでしょ。手伝おうと思って」
「……珍しいわね、瑚夏が自分から言うなんて。まあ、手伝ってくれるんなら、有り難いに越した事はないけど」
栞奈は笑いながら、客室用の和室の襖を開けた。壁にあるスイッチを押し、明かりをつける。さくさくと押し入れに行き、敷布団や掛け布団などを出そうとした。すかさず、瑚夏が小走りで寄ってくる。言われずとも折り畳んである掛け布団を持ってくれた。敷布団は栞奈が抱えて出す。
てきぱきと畳に敷くとカバー用のシーツを被せた。瑚夏も掛け布団に同じようにする。
「瑚夏、枕も出してきて」
「はーい、枕もカバーを被せるんだよね?」
「うん、枕カバーも出してね。頼むわ」
瑚夏は頷いて押し入れに行った。しばらく、ガサゴソとしながら、枕やカバーを出す。持ってきてくれたので栞奈は枕を敷布団に置き、カバーを被せた。何とはなしに壁にある掛け時計を見たら。既に、時間は午後八時半を過ぎていた。栞奈と瑚夏は客室を出る。黒羽を呼びに行ったのだった。
入浴を済ませ、黒羽は賢太から服を借りてから、廊下にいた。栞奈はそれを見つけ、声を掛ける。
「黒羽さん、客室の準備が出来たの。そろそろ、寝ないと。湯冷めして風邪を引いちゃうわ。もう秋だしね」
「……谷野さん、飯や風呂まですまねえ。しかも、部屋や寝床まで。明日からは何かしらは手伝うぜ」
「ありがとう、じゃあさ。朝ご飯の準備や皆のお弁当作りがあるから、手伝ってもらえると助かるわ」
「うーむ、分かった。朝は早めに起きるようにする」
「無理はしなくても良いわよ、出来る範囲で構わないから」
栞奈が言うも、黒羽は考え込む。今、黒羽は黒装束でなく、賢太の服である黒の長袖シャツに同系色のスラックス、グレーの靴下と言う格好だ。頭巾を被っていたが、それも外している。意外に髪は白銀で瞳もグレーで名前にそぐわない。まあ、前髪などを下ろしているからか、和服の時よりは幼く見えた。
「……これから、あなたには世話になるからな。朝飯や弁当の用意や他の事も俺がやる」
「分かったわ、けど。しばらくは見習いで頼むわね」
「そうだな、俺は要領などさっぱり分からないんだった。なら、谷野さん。みっちりしごいてくれ」
「ははっ、しごきはしないけど。その代わり、やると言った以上は真面目にね。サボったりしたら、罰として廊下の床掃除を一ヶ月はやってもらうわよ」
「……了解、サボらないようにはする」
黒羽はそう言ってはにかむように笑う。もしかして、彼。最初に見た時よりはもっと、若いのかも?
黒羽の表情を眺めながら、栞奈は思った。
気がついたら、口にしていた。
「黒羽さん、あの。あなた、今いくつ?」
「ああ、言ってなかったな。俺は人で言うと、二十を三つは越したくらいだ」
「二十を三つね、て事は。二十三歳くらい?」
「おおよそ、そのくらいか。はっきりとは言いにくいがな」
「そう、答えにくい事を訊いたわね。ごめん」
「俺は気にしていない、謝罪は不要だ」
黒羽は真面目に言う。栞奈は苦笑いした。確かに、彼の言う通りだ。
「……まあ、それもそうね。長話をしてしまったわ、夜も遅いし。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
黒羽は優しげに微笑んだ。栞奈は内心で驚く。
(……こんな柔らかな表情も出来るのね)
ちょっと、不覚にもドキリとなる。いや、黒羽さんは私よりは一回り半近くは年下よ。そもそも、年下は圏外でしょうが。
自身に言い聞かせながら、栞奈は踵を返す。黒羽が目を細めながら、見つめていたのには気づかなかった。
栞奈も入浴を済ませ、午後十時半には就寝した。賢太や瑚夏も既に就寝中だ。特に、賢太は部活の朝練がある。寝不足は禁物だからと十時前には自室に向かっていた。
明日も早いから、寝よう。栞奈は自室の明かりを消した。ベッドに入り、瞼を閉じたのだった。
翌朝、夜明けと共に目が覚めた。スマホのアラームが控えめに鳴る。手早く起きてアラームをオフにした。うーんと伸びをする。
栞奈はベッドから降り、窓辺に向かう。カーテンを開け、日の光を取り入れた。
(あー、良い目覚めだわ。さ、顔を洗いに行かないと!)
自室のドアを開け、あくびをする。そうしながらも洗面所に直行した。ざざっと洗顔や歯磨きを済ませる。ついでに寝癖がついた髪もブラシで
夕暮れ時に会ったあなたは 入江 涼子 @irie05
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