第十三章 五つ星クロスロード
全国総合大会、通称「スターズカップ」。
複合スポーツ施設のすべてを使った、一年で最も大きな高校生の全国舞台。
会場全体が歓声と緊張に包まれ、まるで五人それぞれの夢が、ひとつの空に収束していくようだった。
【陽翔のバスケットボール】
屋内アリーナの熱気は最高潮だった。
陽翔はベンチから声をかけられ、コートへ駆け出す。
最後の数分。流れは敵チームに傾いていた。
パスを受けた陽翔は、迷わず3ポイントラインから放つ。
――ボールは弧を描き、綺麗にリングを通った。
会場がどよめく。
(やっと、本気の自分をここに置けた)
心の中で、そう呟いた。
【朱音のフィギュアスケート】
隣接するリンクでは、朱音が演技を終えようとしていた。
最後のスピンを優雅に回りながら、氷に汗と涙を落とす。
あの転倒から立ち直ってここまで来た。
「私は、またここに立ってる」
フィニッシュポーズを取った瞬間、拍手と歓声がリンクを包んだ。
【光輝の陸上トラック】
スタジアム。決勝の100m。
光輝はスターティングブロックに両手をつき、視界を絞る。
(俺は、俺のスピードで、ゴールに向かう)
スターターの号砲。
一瞬の加速、誰よりも早く風を切る。
ゴールの先で仲間の声が聞こえた気がした。
記録更新。やりきった顔で空を見上げた。
【澪の弓道】
武道館の静寂。
観客の声も、仲間の活躍も、遠くにある。
澪は一人、射場に立っていた。
一本の矢をつがえ、呼吸を整える。
足踏み──胴造り──弓構え──打起こし──引分け──会──離れ
――矢が放たれ、的の中央に突き刺さる音だけが、澪の世界を貫いた。
「よし」と口にせずとも、心の奥が静かにうなずいた。
(みんなも、戦ってる)
(私は私のままで、ここにいる)
【奏のサッカー】
屋外ピッチ。決勝戦、後半ラスト10分。
奏はボールを受け、ドリブルで相手を抜く。シュートモーションに入った瞬間、かつての仲間たちの声が心に響いた。
「行け、奏!」
「勝ってこい!」
迷いはない。振り抜いた右足。
ゴールネットが大きく揺れた。
それぞれの瞬間に、それぞれの“勝利”があった。
形式や点数では測れない、“自分との約束”を超えた者たちの強さ。
競技の終わり、五人は観客席の裏で再び集まった。
疲れていても、誰も倒れ込まない。
全員が、戦いを終えた目をしていた。
陽翔が口を開く。
「俺たち、ちゃんとやったよな」
「それぞれの場所で、ちゃんと輝いたよな」
朱音が頷く。
「約束は、過去じゃない。これからも続いていくって、分かった」
澪がそっと言葉を落とす。
「この一矢に、五人の時間が宿ってた」
「……今日の的中は、私ひとりの力じゃない」
五人は無言で、自然と拳を合わせる。
そして、声をそろえて――
「五つ星の約束、これからもずっと」
第14章 五つ星の約束、永遠に
全国大会の幕が下り、会場の灯りがゆっくりと落ちていく。
だが、五人の心にはまだ熱い光が灯っていた。
彼らはリンクの横、静かな控室で再び顔を合わせた。
光輝が口を開く。
「ここまで来れたのは、みんなのおかげだ。俺たちの五つ星は、ただの夢じゃなかった」
朱音が微笑む。
「どんなに遠く離れても、この約束は消えない。強さになる」
奏が拳を握り締め、力強く言う。
「俺たちはそれぞれの場所で輝く星だ。だからこそ、また集まって支え合える」
陽翔が照れくさそうに笑いながらも真剣な眼差しで続ける。
「今度は笑ってるだけじゃなくて、本気の俺たちで行こうぜ」
澪は静かに頷き、声を潜めて言った。
「五つ星の約束は、これからも私たちを導く光になる」
五人は中央に拳を重ね、心を一つにした。
「これからも、輝き続ける」――その言葉
が控室に響き渡った。
夜空には星が瞬き、彼らの未来を見守っているようだった。
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