不幸体質の私と婚約なんて正気の沙汰じゃないから冷静になりましょ?〜婚約破棄された男爵は灰かぶりの転生少女と出会い運命の恋を知る〜(攻略対象・おかん系男子の男爵)

第1話 不幸に慣れすぎた少女

———ディアマンテ王国。


 思い返せば、私は子供の頃から大事な物を失くしてしまう子だった。


 バシャアン!!


 ミアが家の近所にある、王都の中を流れる川に洗濯をしに行った時のことだった。

 突然誰かに背中を押されて、ものの見事に転落した。


 ちょうどしゃがもうとしたタイミングで、頭から、あられもないポーズで落ちてしまった気がする。

 幸い、川の深さはミアの太もも辺りまでで溺れることはなさそうだ。


「あらごめんなさい? ゴミが付いてたから取ってあげようとしたのだけど、力が入りすぎちゃった」

 声がした方を見ると、川岸で義姉であるイザベラが高笑いしていた。


「あぁ、ゴミは貴方自身だったわね! ま、そこにいれば少しは綺麗になるんじゃなくて?」

 そばにいた義姉の友人達も一緒になって笑う。


(………無い)

 胸に手を当てて、ミアはゾッとした。

 亡くなった母の遺品のネックレスが無くなっている。


 ミアは慌てて水底を探し始める。

 するとその時、ミアの近くにあった木の橋が音を立てて崩れた。

「んなぁ!?」みたいな変な悲鳴が聞こえた気がしたが、ミアはそれどころではなかった。


 昔からミアは運が無い。

 どうしてこのタイミングで、どうしてここで、どうして自分に、という事件が多すぎて慣れてしまっている。


 崩れた橋のそばでざぶざぶとネックレスを探し続けるミアに、「目の前で落ちてるのに無視か!」と男性の怒ったような声が届いた。

 見ると、ミアと同じように全身びしょ濡れの状態で川の中をこちらに向かって歩いてくる男がいた。


(橋と一緒に落ちたのか)

 この人も運が無いな、と思ったミアは、親切心から声をかけた。


「多分、こっちに寄らない方が良いですよ」

「あ?」

 途端、男の姿が水中にざぶんと消える。

(ほら)


 誰か助けてくれる人はと周りを見てみるも、さっきまでそばで高笑いしていた義姉達はもう居ない。

 ミアは考えて、近くに浮いていた橋の残骸の木材を男性が消えた場所に向かって思い切り投げた。

 それに掴まってくれれば良いと思っていたのに。


 ゴン!!

(やっぱりか……)


 男が水面から顔を出したタイミングでミアが投げた木材が着水した。つまり男の顔面にクリティカルヒットしたのだ。

 男は再び川に沈む。


(どうしてこんな時だけコントロール良くなるんだろ)

 普段は何かを物に当てようとしても、まるで当たらないのに。


(当てようとした訳ではないんです。どうか安らかに)

 命の無常さ、運命の理不尽さに思いを馳せ、ミアは祈りを捧げるポーズをした。


 ザバァ!と水音をさせて男が現れる。彼は物凄い形相とスピードでミアに近づいてきた。


「おいこら」

「ご無事でしたか、良かったです」

「無事じゃねえんだよ殺す気か」

「川は危ないんですよ、急に深くなるんです。こういう橋の下は特に水流が複雑なので」


 ミアは早口で言うと男から離れようとしたが、男が鼻血を出していることに気付いて考えを改めた。

(多分、私が投げた木材のせいだ)

「あの、よろしければ私の家について来てください。簡単に手当します」


 ミアの申し出に男は警戒した顔をしたが、しぶしぶと言った様子で頷いた。

 川から程近くにある自分の家に案内する。

 その間、ミアは周囲をキョロキョロと何度も確認していた。


「お前さっきから何してるんだ」

「気にしないでください安全確認です。はっ」

 ミアは手に持っていた洗濯桶を素早く自分の頭に被った。まだ洗えていない洗濯物がバサバサと地面に落ちる。


 べちょ。


「…………」

「ふう、何事もありませんでしたね!」

「何事も無かったことにするな! 俺の頭に水っぽいモノが降ってきたぞ!」

「それはァ」

 ミアの目が泳ぐ。


「何だ」

「鳥の落とし物と言われるブツです。庶民の間では、運が付く、なんて言われたりもしますよ、帰りに宝くじを買ってみたらどうでしょう?」


 言いながら、ミアは先ほど落としてしまった洗濯物を洗濯桶に入れ直す。

「ふざけてるのか?」

「すみませんふざけてます。それもついでにうちで拭いていってください」

 プルプル、と怒りで震え始めたらしい男に、ミアは「あ、ここです」と屋敷の勝手口を示した。

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