【短編集】ディアマンテ王宮恋物語

藤咲紫亜

導きましょう、死の運命から幼馴染を救う婚約破棄を〜転生した庭師、気まぐれに伯爵様を籠絡してみました〜(攻略対象・モテモテ爽やか伯爵)

第1話 舞踏会の日

 エレオノーラ・シレアは難しい選択を迫られていた。

 ここは『ディアマンテ王宮恋物語』という乙女ゲームの世界だ。魔法が存在する西洋風の世界で、『聖樹』と呼ばれる樹を育てながらディアマンテという王国の王宮で繰り広げられる恋模様を楽しむことができる。


 自分がこの世界に転生したと知ったのは、ゲームの始まりでもある、ベルナルディ伯爵家で開かれた舞踏会の日だった。

 それまでは、自分はただの男爵家の令嬢だと思っていた。


 舞踏会の始まりに、幼馴染のクラウディオ・ベルナルディが差し伸べてきた手のひらの上に自分の手を載せた瞬間、前世で夢中で攻略したディアマンテ王宮恋物語の記憶が一度に蘇って、ベルナルディ家の大広間でうずくまってしまった。


「エレオノーラ?」

 心配そうなクラウディオの声が落ちてくる。

「気分でも悪いのか?」

 エレオノーラは傍らに膝をつくクラウディオを見上げる。


(———ああ)


「少し休むか?」

 エレオノーラはぼろぼろと涙をこぼした。

「……エル」

 クラウディオはハッとして、エレオノーラを周囲の目から隠すように腕を回した。


(どうしたら貴方を)


 クラウディオに手を引かれ、庭園に連れ出されたエレオノーラは、彼にされるがままに涙を拭われた。

 それでも涙は後から後からこぼれ落ちる。


「何かあったのか? 公衆の面前で泣き出すなんて、エルらしくもない」

 子供をあやすような声で尋ねるクラウディオを見て、エレオノーラはもっと泣きたくなった。


(どうしたら貴方を救えるだろう)

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