第32話食事
大きい声で名前を呼ばれ、びくりと肩を振るわせる。それは、小動物みたいで不覚にも笑みが漏れる。
「なんだ、ルミナスか…もうちょっとでできるから食堂で待ってて。」
そして、冷たくあしらってくる態度に、あぁ、お前はこういうやつだったな、と思う。
「では、ルミナス様食堂へ向かいましょうか」
後ろから神父様に呼ばれ背筋を伸ばす。
「はい、神父様。」
食堂に着くとすでにパンとサラダが用意されていた。だが、それらはどう見ても三人で食べる量ではない。神父様もそう思ったのか首を傾げている様子だ。少ししたらカウンターにスープが揃えられて、リトがこちらへやって来た。
「お待たせしました。あの、他の方はいらっしゃらないのですか?」
何を言っているのか理解できなかった。だってこいつは誰よりもこの島に詳しいはずだと思っていたから。俺が指摘しようとしたが先にフィル様が答えていた。
「これは、失礼。教えていませんでしたね。今回こちらの島に赴いたのは私と彼の二人だけなんです。」
「ここで働いている方もいますよね?」
「リトお前は何言ってるんだ。ここには俺たち三人しかいないだろ?」
この神殿に限らず、この島には住民が一人しかいない閉ざされた土地だということは周知の事実だ。だから、この島に住んでるのは……。自分の考えついたことを信じられず、顔を上げ、二人の顔を交互に見つめる。俺の思考を読み取ったのかフィル様は静かに首を横に振った。
(この人最初から知っていたんだ…。)
唾を呑み込む。そして、食事を摂る。隣ではフィル様とリトが楽しそうに会話している。俺もそこに混ざろうとするが、その光景を受け入れられなくて、食事を摂るだけで精一杯だった。
「生命が失われた島"ロスト島"。」
船の上から島を眺める。
「十年前、魔獣が大量に現れてその島は一晩で闇となった。その原因は今でも不明……実に面白い。」
「フギーちゃんは昔から勉強熱心よね。私感心しちゃうわ。」
「ミラさん、フギー。食事の時間だ」
遠くからマーキュリーの声がする。
「さぁ、食事に呼ばれてしまった。食事はとても大切な行為だからね。さっさと行こう。」
二人はいつも通り、それぞれが同じ席に座るが、食事は始まらない。
「……マーキュリー。クレラゼはどうした?」
「ボス!すいません、さっきから呼んでるんですが……」
「君が呼ぶから来ないんじゃないか?」
「はぁ?!俺のせいって言いたいのか?」
「うるさいな。静かにすることを覚えたらどうなんだ。」
騒ぐ二人に残りの二人はうんともすんともしないで、まったりしている。
「俺の質問にも答えないで…!」
「お待たせしました、ボス。」
最後の一人が食事の席につく。
「全員揃ったか。では」
そう言うと五人が同時に手を合わせる。
「日々の食事と生活に感謝を。いただきます。」
四人は復唱してから食事に手をつける。カトラリーと皿の擦れる金属音が響く。
「クレラゼちゃんは外で何をしていたのかしら?」
「なにも」
「さながらあの少女のことだろう?」
「おっ、なんだぁ、クレラゼ恋の相談か?この天才恋愛マスターマーキュリー様にになんでも聞けよ!」
「ただのチャラ男の間違いだろう」
「………あの時勧誘したかったと思うか?」
クレラゼの顔が一瞬曇る。
「お前の言う少女が彼女であったかどうか分からない。違う可能性の方が高い。」
「ボスが心配してくれてるのはわかるよ。僕が過去に囚われていることも。でも……。」
「すまないな、クレラゼ。お前の望みを中々叶えられなくて。」
「そうよぉ。ボスはもっとクレラゼちゃんに優しくしてあげないとぉ。だけどそれで卑屈になることもないと思うわ。明日の早朝にはロスト島に着く。結果はどうあれ新しい情報は必ず手に入るわ。」
「そうだぜ、ボス。俺らの教訓は"仲間に対して全力であれ"だからな。」
「………あぁ。そうか。」
「ボス、僕さぁ〜こういう空気苦手なんだけどぉ。ご飯は楽しく食べたぁい。」
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