第31話神殿


家に帰ると、お父さんが出迎えてくれる。

「リト、おかえり。今日は早かったな。父さんな、今日夜飯作っとこうと思ったんだが」

「「食料全部ダメにしちまったぁ。だから今日は父さんが夜、本を読んでやろう。」」

私はお父さんと全く同じ言葉を言う。もう何回も聞いたセリフ、いやでも覚えてしまった。私は今日、街の人たちから貰った食材を適当に火にかけくちにほおる。疲れた私は軽く体を洗い、ベッドに身を投げる。すると、お父さんがこっちに来てお話をしてくれる。

「今日のお話しは踊り子と勇敢な戦士の恋愛話だ。」

(今夜は恋の物語か……)

私はワクワクしていた。なぜなら、お父さんは毎日同じようなことを言うのだが、唯一夜の読み聞かせの内容だけは、被ったことがない。

「ある街に美しい踊り子が舞を踊りにやって来ました。音楽に乗って踊る姿はとても美しく、街にいた恐ろしい戦士をも魅了したのでした。その戦士は気づいたら踊り子の前にいって手を伸ばしていた。踊り子はクスッと笑うと手を取り、踊る。いつまでも、足が冷えて汚れて周りに誰も居なくなっても、二人は踊る。相手が居なくなっても踊り子は戦士を思い出して、ずっと踊る。美しい姿で……。」

物語は終わる。何を示唆しているのか、何も示唆していないのか分からなかった。

(踊り子と騎士の物語これで何個目なのかな)

だけど、お父さんの話してくれる物語には大体騎士か踊り子が出てくるから、お父さんと奥さんとの冒険談なのだろう。でも、なんでそんな大事な話を私に残そうと思ったのか、私は今でも分からないし、分かっている自分を想像することもできない。


一晩が経ち、日が上ると同時に神殿に向かう。早朝であっても人気のない神殿を見て、何をしようかと考える。私の仕事としては、神父かルミナスの元へ行くべきなのだろうが……埃の被っている廊下を目の前に私は足を止める。

(昨日来た時はもう少し綺麗だった気がするんだけど……)

数分考えた結果、箒を持って掃除を始めた。


静寂に満ちた広い部屋で少年は、像に向かって祈りを捧げていた。少年はゆっくりと瞼を開ける。すると隣から声をかけられた。

「ルミナス様おはようございます。本日も朝早くから祈りを?」

それは神父だった。いつもなら神父に限らず人が来たら気付くのだが、今日は途中から祈りに来ていたことに気付かなかった。自分が祈りに集中できていたことに喜びを覚える。

「フィル様……おはようございます。はい、聖女様に三時間ほど祈りを捧げておりました。」

「忠誠心、信仰心ともに素晴らしい物ですが……お身体に無理のないよう。そろそろ朝食の時間ですね。行きましょうか、ルミナス様。」

「はい。」


キッチンへ向かう途中昨日と違った神殿の雰囲気に気づく。

「昨日に比べて全体的に明るくなりましたね。」

神父も気づいたのか、そう話す。

「神父様もそう思いますか?」

「そうですね、長年蓄積された誇りがなくなり、手入れもされず無法地帯と化していた庭園や緑が全体的に綺麗に整えられている。」

「どういうことか調べる必要がありますね。」

「ふふっ。ルミナス様どうやら答えはすぐ目の前にあるらしいですよ。」

神父の言ったように前から良い香りがしてくる。そーっとのぞいて見ると、そこにはよく知った少女がいた。

「リト?!」

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