僕が勇者に殺された件。
フジミサヤ
第一章
00 序幕
──新月の夜は魔物が跋扈し、その闇の力が強大化するから、外へ出てはいけない。
幼い頃から何度も母親にそう言い聞かされて育ち、自分はそれを忠実に守ってきたけれど──その夜、僕はどうしても星空を一目見たくなったのだ。数百年に一度の流星群。これを逃すと生きているうちに見ることは叶わないだろうと思ったら、いてもたってもいられなかった。
月の灯りも届かない真っ暗闇の中。かつて勇者が封印したと言われる魔族の領域へ踏み入り、魔物を避けながら目的の場所までたどり着く。その場所で空を見上げれば満天の星々が流れ落ちてくる。
これほど美しい景色を見たことがなかった。
「へえ、やっぱり凄いなあ」
言葉を失う僕の隣で、大好きな彼が感嘆の溜め息を漏らす。新月の夜、この場所に行きたいと言った僕の提案に、彼は危険だからと最初は反対したのだ。けれど、僕が一人でこっそり抜け出そうとしていたところを発見され、「仕方ないなあ」と苦笑しながら彼は一緒に来てくれたのだ。
光り輝く星の粒を浴びながら、この体験を彼と共有できたことを、その瞬間は幸せに思っていた。
しかし、代償が大き過ぎた。
神聖な力を持つ彼は魔物に狙われてしまい、その夜、彼は僕を庇い、僕の代わりに魔物から襲われた。僕はその事実を受け入れられず、叫び声をあげながら半分錯乱してしまったので、正直そのときのことはよく覚えていない。
動かなくなった彼を胸に抱いて、泣き崩れる幼い僕の前に、美しい悪魔が現れた。
悪魔は微笑みながら、僕に取引を持ち掛けてきた。そしてそれは魅力的過ぎる提案だった。
僕はその取引を迷うことなく受け入れた。僕にとって一番大切な彼を取り戻せるのであれば、何を犠牲にしても構わないと思っていたからだ。
「お前の大事な者の魂を呼び戻すためには、それなりの対価が必要だ。お前にそれが準備できるのか?」
「……できるよ」
迷いなく即答した僕を見て、相手は少し意外そうな顔をしてから満足げに笑った。
「……なら、取引成立だな。お前の大事な者を取り戻す術を授けよう。……対価は、すぐに準備することは困難であろうから、お前が成長するまで少し猶予を与えてやる」
こうして、契約は成立した。
僕が悪魔に騙されていたことを知るのは、もう少し時間がたってからのことだ。
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