第6話 仲間
「こいつらが、さっき紹介したいって言ってた日本人! 鳴神響と朝火冬香だ!」
龍雷は笑顔で肩を組みながら紹介する。
「よ、よろしく!」
――龍雷の時もそうだったが、自分が設定した外見や性格、その他諸々を全部知っているはずなのに、目の前にすると全く別物だ。
胸の奥がざわつく。懐かしさなのか、感動なのか――言葉にできない感情が込み上げてくる。
思わず息を呑み、視線を彷徨わせる。
「んん? お前、その見た目、日本人か!?」
「本当だ! そんな感じがするー!」
2人の目がキラキラと輝き、まっすぐにこちらを見つめてくる。
あまりに眩しい視線に、俺は思わず目を逸らしたくなる。
「えーっと、西園寺大和、日本人です」
自己紹介すると、2人は距離を詰めて歩み寄ってきた。
「おお! それなら仲間だな! 一緒に協力しよう!」
「そうよそうよ! 仲間になりましょ!」
――距離感の詰め方がすごい。まぁ、俺が設定したんだけど。
「おいおい、大和が困ってるだろ」
龍雷が穏やかな口調で二人を制した。
「あら、新しいパーティーメンバーですか?」
宿の奥から、茶髪の少女がこちらに声をかけてきた。
「それは今から決める! 宿泊と食事を一人分、追加で頼む!」
龍雷は親しげに話しかける。
あの少女は、この宿の看板娘──ティーシャだ。
元気はつらつとした性格で、誰にでも親しく接する。
けれど、彼女の両親は病を患い、倒れていたところを龍雷たちが救った。
……たしか、そんな設定だったはずだ。
それ以来、この宿は龍雷たちの行きつけになっている。
「よし、飯の時間にしよう!」
龍雷が席に腰を下ろし、俺たちもそれに続いた。
「じゃあ、改めて自己紹介といこうか」
龍雷の声を合図に、順番に自己紹介が始まる。
「俺は東 龍雷。得意な戦い方ってのは特にないが、やろうと思えば大体なんでもできる。
俺は、この世界を“幸せ”で満たしたいんだ!」
「俺は鳴神 響。龍雷は得意なもんがないとか言ってるけど、実際はなんでもできる万能野郎だ。
俺の能力は──倒した相手の力をコピーすることだ!」
「私は朝火 冬香。二人みたいに派手な技はないけど、炎と氷の魔法を使えるよ!」
三人がそれぞれに名乗りを上げる。
……まぁ、俺は彼らのことを、本人たち以上に知っているんだけどな。
「俺は、西園寺 大和。」
言葉が、そこで詰まった。
俺は何ができる?
この世界で、俺にできることなんてあるのか?
「得意なことは……ない。龍雷と違って、本当に、なにも……。」
沈黙を破るように、龍雷が口を開いた。
「そんなしけた顔すんなよー! 俺たちだって、この世界に来たばかりの頃は何もできなかったんだぜ?
俺なんか赤ん坊だったし、響なんて二年間も“最弱”って呼ばれてたんだぞ!」
「やめろよ、それ言うなって……!」
響が頭をかきながら苦笑いする。
その光景に、思わず息が詰まる。
――そうだ。彼らも最初は、何も持たずにスタートした。
けれど、彼らには“強くなる”と決められた未来があった。
俺が、そう設定したからだ。
……じゃあ、俺には?
この世界で、そんな“保証”はあるのか?
「じゃあ、四人でパーティー組もう! 大和ともっと話したいし、一緒にミッションこなしてる間に大和も得意なこと見つけられるだろう!」
龍雷が真っ直ぐに言った。声には迷いが無く、無邪気さと信頼が混ざっていた。あぁ、本当にいい奴だな——と、胸がじんと熱くなる。
「そうだな! 日本の話も聞きたいし!」
「そうね! 仲間は多い方がいいもんね!」
響と冬香も口々に賛成する。空気がふっと明るくなるようだ。
俺は一瞬、自分がこの物語で彼らをどう扱ってきたかを思い出した。駒のように動かして、笑わせて、泣かせて——そんな“作者の都合”で彼らの運命を決めていたんだ。
罪悪感が、また胸を締めつける。
――このままじゃいけない。
この罪を償うために、俺はこの人たちを守らなければならない。誰よりも強くならなきゃならない。
小さく、でも確かな声で俺は言った。
「わかった。よろしく、みんな。……俺、頑張るよ」
四人の輪の中に、静かに決意が溶けていった。
「よし! じゃあ今この瞬間から、俺たちは仲間だ!」
――仲間。
その言葉が胸の奥で静かに反響する。
温かくて、少しだけ痛い。
俺の中の何かが、ゆっくりと溶けていくのが分かった。
「早速明日、大和の冒険者登録と初ミッションするぞー!」
『おー!!』
笑い声が宿の壁に反射して、灯りのように部屋を満たす。
この時、俺の人生で初めて――
心から“仲間”と呼べる存在ができた。
◇
夜。
自分の部屋に戻り、机の上にノートを広げる。
【設定帳】――この世界のすべてが詰まった、俺の罪と希望の塊だ。
「この中に……何か、強くなるヒントがあるはずだ」
ページをめくる音が、やけに大きく響く。
俺はこの世界を作り込んだ。常人が気にも留めないような細部まで。
魔法体系、武器の歴史、種族の系譜、都市の地下構造――
どれも、俺の頭の中にしか存在しなかったものだ。
「何か……何かないか!」
焦燥と決意が入り混じった声が漏れる。
ページの隅、見覚えのある一文が目に止まった。
【クライズオリジン:王都。武器屋の最奥に“隠し武器”あり】
息を呑む。
「……これだ。」
強くなるための第一歩。
俺は、確かにその道筋を掴んだ気がした。
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