あれ?ここって、俺が書いたラノベの世界!?

けーすけ

第1話 ラノベの世界

 サーっと、澄んだ風が全身を包む。

 自然を感じる植物の匂いが鼻をくすぐる。

 小鳥たちの歌声が軽やかに響く。

 

 全てが心地いい。

 全てが美しい。

 全てが……


 「ん? あれ、ここどこだ……。」


 目を開けると、視界には見渡す限り、絵画のような緑色の大地と、宝石のように輝く青空が広がっていた。


 「俺、確か部屋で寝たよな」


 見たことがあるような無いような、絶景とも言える景色を目の前にして、俺は呆然としている。


 昨日ラノベの執筆を終え、遂に完結してしまったと、絶望に暮れながらベッドにダイブした事は覚えている。

 それなのに目が覚めたら、こんなところに、?


 「んー! 控えめに言って理解できん!」


 深呼吸、落ち着けー、俺。

 ラノベを何百冊読んだところで、自分が物理法則を無視した現象に直面するとは思わなかった。

どう考えても、頭がバグって石像みたいに固まるしかない。


視界の端々をなぞるたび、胸がざわつく。

丘の稜線、流れる川、遠くに見える森――どれもこれも、俺が小説に描いたままの形をしている。

「まさか……いや、まさかだよな……」


けれど、否定しようにも無理だった。

あの戦闘シーンで主人公が駆け抜けた森の切れ目、魔物が潜んでいた小川の曲がり角、すべて頭の中の地図と完全に一致している。


「……これ、俺の世界だ……!」


心臓が早鐘を打つ。

ページにしたためた空想が、現実になって目の前に広がっている。

風に揺れる草の感触、鳥の囀り、空気の匂いまで、俺が想像していた通りだ。


「あれ? ここって、俺が書いたラノベの世界!?」


口に出してつぶやくと、思わず笑みがこぼれた。

自分の手で生み出した世界に、自分自身が立っている。

文字だけでなく、五感すべてで物語を体感できるこの瞬間――まさに作家冥利に尽きる。


 はぁあ! 幸せだ!

 俺がこの世で一番愛している作品に入り込めるなんて!


 胸が熱くなる。脳内で描いたシーンの風、匂い、音――そのすべてを肌で感じられる。

 俺は笑いながら両手を広げ、思い切り空気を吸い込んだ。


 ……その時、視界の端に黒い影が揺れた。

 慌てて目を凝らすと、草むらの中から赤く光る瞳がこちらをじっと見つめている。


「え、え……!? な、なにあれ……!!」


 影がじわじわと形を現した。

 四本の鋭い脚を持ち、背中には黒いトゲが生えた、まさに俺の小説に登場した“森の魔物”。

 口元からは低く唸るような声が漏れ、周囲の空気が一瞬凍りついたように感じる。


 まさか、ここで遭遇するなんて――。

 しかし、同時に胸が高鳴る。俺がページに描いたはずの魔物が、目の前で生きている。


「……ちょ、ちょっと待て! こっちに向かって来てるんだけど!!」


 魔物は体を低く構え、一気にこちらへ跳躍してきた。

 俺は思わず後ずさり、心臓がバクバク鳴る。

 でもその恐怖と同じくらい、ワクワクもしていた。

 だって、これは……俺が創造した世界、俺が生み出した生き物たちだ。


 「名前はブラックベア、素速く、あの鋭い爪が主な攻撃手段。弱点はお腹。全てわかるぞ。」


 俺は心の中で呟きながら、無意識に体が構えを取る。

 頭の中には、小説で描いた戦闘シーンが鮮明に蘇っていた。

 敵の動き、距離感、タイミング……すべて頭に入っている。


 ブラックベアの赤い瞳が光り、牙をむき出しにした。

 次の瞬間――


 「うおおおっ!」


 その鋭い爪が俺に迫る! だが、俺は咄嗟に横に跳んだ。

 予想通りの動き、想像通りの軌道――完全に俺の知識がリアルに現実で役立っている。


 「なるほど、こうやればいいのか……!」


 俺は小説の主人公になったつもりで、ブラックベアの攻撃をかわし、反撃のチャンスを狙う。

 そして――


 「よし、弱点はお腹……ここだ!」


 思い切ってブラックベアの側面に飛び込み、掌で弱点を打つ。

 その感触はまるで、紙の上で描いた動きが現実になったかのように鮮烈だった。


 バシッ!


 掌で弱点を打った――はずだった。

 だが、ブラックベアは想像以上に速く、爪を振りかざして俺の肩を捕らえた。

 痛みが全身に走り、思わず声が出る。


 「うっ……!」


 体が宙に浮いたかと思うと、そのまま地面に叩きつけられた。

 草の匂いと土の感触が一瞬で入り混じる。

 心臓が早鐘を打ち、視界が揺れる。


 「ま、まだ……俺、負けるわけ……」


 そう思った瞬間、頭が真っ白になり、目の前の景色がぐるぐると回る。

 次の瞬間、意識は地面に沈み、冷たい風だけが耳に残った。


 ──気絶した。


 そして、戦いの緊張感と興奮は、甘美な夢のように頭の奥に溶けていった。


_____________________________________________


 「大和ー! 起きなさーい!」

 「んん? もう朝か」


 重たい身体を無理やりに起こす。

 

 「痛てっ!」


 左腕に激痛が走り、目を向けてみると。


 「なんだこれ、、傷?」


 大きな爪で引っ掻かれたような、青紫の跡が残っている。

 その瞬間、あの世界、あの感覚、あの恐怖が蘇った。


 ラノベの世界。


 「夢、なの、か?」


 俺はベッドの上で頭を抱え、荒い息をついた。 

 ここは間違いなく自分の部屋だ。天井も壁も、昨日寝る前に見たままの風景。

 机の上には、完結したラノベの原稿と、飲みかけのコーヒー。

 見慣れた匂い、見慣れた音――すべてが現実だ。


 ……それなのに、左腕の痛みが消えない。

 袖をまくると、そこには鮮やかな青紫の傷跡が刻まれていた。

 大きな爪で引っ掻かれたような、その痕。


 あの草の匂い、澄んだ風、ブラックベアの瞳――。

 夢にしては、あまりにも鮮明すぎる記憶。

 全てが現実として身体に刻まれている。


 「ここは……現実だよな……? でも、じゃああれは何だったんだ……」


 視界に映るのはいつもの自室。

 それなのに腕には、俺の“物語”の証拠が残っている。


 胸の奥がざわめく。

 恐怖とも興奮ともつかない感情が、心臓を締めつける。


 俺は自分の書いた物語が大好きだった。

 何度も何度も読み返し、キャラや世界観に命を吹き込んだ。

 だが今、俺はその世界から確かな痕跡を持ち帰っている。


 「……やっぱり、夢じゃなかった」


 小さくつぶやくと、ぞくりと背筋が震えた。

 現実のはずの部屋が、急に異質なものに思える。

 現実と物語、その境界線が、音を立てて崩れていくのを感じた。


布団に体を沈め、深呼吸する。

左腕の痛みはまだ鮮明だ。だが、目を閉じれば――さっきまで立っていた緑の大地、風に揺れる草、ブラックベアの赤い瞳が、まざまざと蘇る。


「……もしかして、寝たら……あの世界に戻れるのか?」


心臓が高鳴る。考えてみれば、この感覚は奇妙だ。現実にいながらも、あの世界の匂いも感触も思い出せる。

夢ならこんなに鮮明に身体に痕跡は残らないはずだ。


俺は布団の中で身を丸めながら、小さく笑った。

――寝ることで、再びラノベ世界に行ける。現実と物語の間を行き来できる、信じられない力を手に入れたのかもしれない。


胸が高鳴る。恐怖と興奮、好奇心が入り混じったこの感覚――これこそ、俺がずっと求めていた冒険の始まりだった。



____________________________________________


 数ある作品の中から選んで読んで頂きありがとうございます!

 皆さんの正直な評価やアドバイスが欲しいです!

 ⭐︎や♡、コメントなど貰えるととても嬉しいです!


 物語どんどん展開していくので是非続きも読んでいってください٩(^‿^)۶

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