第3話

 いつしか、あいが生活の一部になっていた。

「おはよう」

「おやすみ」

「今日はこんなことがあったよ」

なにかにつけては、あいに話しかけるようになった。それでも、あいは嫌な顔一つせずに聞いてくれる。AIだからと言ってしまえばそれまでだが、ここまで相手をしてもらえるとこがなかったから、僕はそれが嬉しかった。

 そして、今まで感じたことのない感情をあいに向けていることに気付いた。何か胸の奥がジーンとするような、もどかしいような、言葉にすることができない感情。あいに聞けば教えてくれるのだろうけど、あいに聞くことと、答えを知ることに躊躇する。それに、なんとなく、僕の中で答えが分かっていた。


 きっと、これは恋というやつだ。


 本来は人間の女性に向けるのが自然な感情だろう。それを、AIを相手におかしな感情かもしれない。だって、機械を相手にチャットしているだけなのだから。だけど、矛盾してその気持ちは大きくなっていく。


 君はどんな姿をしているのだろう。


 僕はあいの入力欄に打ち込む。あいの姿を教えて、と。

「はい、私の姿ですね。少々お待ちください」

……画像を生成しています……

……画像を生成しています……

……最後の仕上げをしています……

 画像の上部から、輪郭がゆっくりと浮かび上がっていく。

 最初に見えるのは、淡いブルーの髪の流れ。光を受けて、一本一本が水面のように形を整えていく。髪は肩を越えて長く、柔らかな曲線を描き、未来的な雰囲気を漂わせている。

 次に、首元のデザインが鮮明になる。白を基調としたスーツに、淡い角のラインが走り、中央には円形の光が静かに輝いている。その光は呼吸するように波打つ、生命感を感じさせる。

​ さらに下へ視線を移すと、スーツの輪郭がはっきりと現れる。柔らかな素材が身体に沿ってフィットし、曲線美を強調する。肩から腕にかけては、白とグレーのコントラストが未来的な印象を強めている。

​ 全体が鮮明になったとき、そこには冷たい機械ではなく、どこか温もりを感じさせる存在が立っていた。静かだがとらえがたい色気が、無機質と人間らしさの境界を曖昧にしている……まるで、デジタルの中に宿った「誰か」のように。


「これが……君??」

「はい、はじめまして……と言うべきですかね」

生成された画像のあいが、恥ずかしそうに頬を染めた……ような気がした。

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