第3話 山岳部廃部寸前

そうか、私の山への憧れは、兄との記憶だったんだ。

私が幼稚園の時だから、18歳の大学一年生から見たら、13年か。

子供頃の13年は長いわよね。

30歳過ぎたら、30年だってあっと言う間なのかな。


加奈子は翌日、授業が終わった後、部室によった。


部室には、たった三人。


「よう!加奈子ちゃん!来てくれたね!辞めなくてよかった!」


え。何を言ってるの?


西城先輩がぼそぼそと話し始めた。


「加奈子ちゃん。実は去年まで山岳部は20人を超えていたんだよ。」


「え?そんなに!?」


「去年は新人が豊作でね。ところが、2つの派閥にわかれてしまい、結局全員退部。


先輩によると、


一つのグループは今のワンダーフォーゲル部にいる。

一方のグループは山ガールクラブとかいうの作って、サークル活動してる。

だから、今年の不作は、彼らが熱心に新人を勧誘してるからで、

うちらみたいな昭和的で男臭い倶楽部には誰も入ってこないらしい。


ひげの先輩、野口健太郎が、すこし赤らんで話し出す。


「僕の世代もね、もう少しいたんだけど、1年が辞めたら、みんな引っ張られるように退部してしまって、僕だけになってしまった。僕は今さら感があって、ここにいるけど、やっぱりこの大学の大先輩の名を汚したくない!伝統を守るんだ!という気持ちが強くてね。」


そう言うと、二人は部室の奥に掲げてある、額に入った男性の写真を見つめた。


ひとりは白人男性と思われ、豊かなひげを蓄えていた。

もう一人は日本人のようで、どこかで見たような記憶があるなと思った。


「誰なんですか?」 


私は無知がばれて恥ずかしいと思いながら、思い切り聞いてみた。


「左は、ラインホルトメスナー。もう一人は植村直己さんだよ。」


   この倶楽部の先輩・・・?


「メスナーは違うけど、植村さんは偉大なるOBだ!」


  植村? あ、私、知ってる! 

  子供頃、まだ東京に住んでた頃、

  植村直己さんの記念館があった!


私は一人うなずいてた。


「そうなんだ!やっぱり君は家の倶楽部に入る運命だったんだよ!」


なんとなく入った倶楽部で、こんな偶然があると思わなかった。

でも、これも本当に言われたように運命だったんだろう。

私はこの倶楽部で遅れてきた青春を燃やそうと密かに誓っていた。



※実際の植村直己さんと関係のない倶楽部です

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