第5話 陰陽寮再試験、努力チートの制度化
夜が明けた。
神域の裂け目は消え、世界は再び静寂を取り戻した。
だが、俺の中の何かは――もう元には戻らなかった。
〈努力は孤独ではない〉
神の声が、まだ耳の奥に残っている。
「主サマ、起きた?」
掌の光がふわりと浮かぶ。
小狐丸の魂が、珠のように回転していた。
「ボク、まだ完全には戻ってないけど……主サマの努力、見てたよ」
「……ありがとう」
蘭華は隣で眠っている。
氷の指がまだ俺の手を握ったままだった。
体の奥から、霊力が静かに共鳴している。
――努力値共鳴。
新しい力が、確かに芽吹いていた。
数日後、陰陽寮。
試験を中断したはずの広場には、なぜか人だかりができていた。
安倍晴臣が、壇上で笑っている。
「試験の続きを行う。もっとも、今度は“競争”ではない」
ざわめく見習いたち。
彼は静かに巻物を開いた。
「――努力値測定制度を導入する。
霊力や血筋に頼らず、修練によって上昇する値を数値化し、陰陽師の実力として評価する」
その瞬間、空気が変わった。
努力が、制度になる。
神に届いた“努力”が、今度は“世界のルール”になる。
晴臣の視線が、俺を真っすぐに捉えた。
「桜庭陽真――お前が、その証明者だ」
試験が再開された。
今度は「霊力の総上昇値」で競う。
才能ではなく、成長量が評価対象だ。
「陽真くん、ほんとに制度になっちゃったね」
蘭華が隣で笑う。
「バカにしてた私が言うのもなんだけど……あんたの努力、すごいわ」
「いや、まだ途中だ」
「そういうとこ、ほんとズルい」
頬を赤らめた蘭華が視線をそらす。
小狐丸がくすくす笑う。
「主サマ、モテ期到来〜」
「うるさい」
俺は再び座禅を組む。
呼吸を整え、内なる数字を感じる。
MP:120 → 121 → 122。
ほんの少しずつ、霊力が積み上がっていく。
周囲では、他の受験者も同じように修練している。
最初は半信半疑だった連中が、今は真剣だ。
誰もが、自分の数字を見つめている。
――努力は、伝染する。
ウィンドウの端に、新しい表示が現れた。
[System Update]
努力値制度(β)稼働開始
導入者:桜庭陽真
範囲:陰陽寮全体
報酬:権限【支援科創設】
「……支援科?」
目を疑った。
同時に、安倍晴臣がゆっくりと歩み寄る。
「陰陽師は戦う者だけではない。
努力を“支える者”がいてこそ、世界は回る。
桜庭陽真、貴様に“支援科”の創設を命ずる」
――支援科。
戦わずして戦場を変える部署。
俺がこの世界に来てから感じていた“陰陽の偏り”を、正す場所。
胸が熱くなった。
「……はい。必ず、作ってみせます」
その夜。
小狐丸が、肩の上で丸くなった。
「主サマ、“支援科”って、どんなトコ?」
「努力する全員が集まる場所だよ」
「ふふ、ボクもがんばる」
月が光る。
境内に響く鈴の音が、まるで祝福のようだった。
そして、ウィンドウが静かに光った。
[Status Window]
レベル:12
職業:陰陽師(支援科長)
特性:努力値共鳴(Lv2)
スキル:数値再生・努力分配
称号:【努力の象徴】
「努力が、世界を動かす」
俺は、拳を握った。
これはただの“成長物語”じゃない。
努力が制度となり、社会を変える――それが、俺の戦いだ。
次回 第6話「支援科始動、努力は連鎖する」
――努力は個から、世界へ。
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