ファンタジーが廃れた異世界で復興サバイバル始めます!
みたらし
プロローグ
「八雲、悪い、メロンパン買ってきて!」
「俺、コーヒー牛乳!」
「俺はプリントのコピーお願い!」
「……はいはい、まとめて承りました」
八雲一世(やくも いっせい)、十七歳。
気づけばいつも“便利屋”を押しつけられる。
断る勇気もなく、嫌われたくもなく、つい「いいよ」と言ってしまう。
そんな、よくある平凡な少年だった。
財布を握りしめ、廊下を歩き出した――その瞬間。
足元が淡く光った。
「……え、なにこれ?」
床に複雑な紋様が浮かび、白い光が一気に広がる。
まるで漫画の魔法陣みたいだ、と思った時にはもう遅い。
足元が消え、身体がふっと浮かんだ。
「ちょ、待って!まだパン買ってないんだけど!?」
叫びが光に呑まれる。
世界がぐるりと反転した。
――目を開けたとき、そこは見知らぬ大地だった。
地面はひび割れ、建物は崩れ落ち、空は灰色。
風が吹けば砂塵が舞い、どこまでも死の匂いが漂っている。
「……夢?」
そう口にしても、頬を刺す痛みが現実を告げていた。
学校も、友人も、声もない。
震える手の中にあったのは、一冊の本。
『これで君もサバイバルマスター!』――やけに場違いなポップな表紙。
「……なにこれ、俺、アウトドアとか無理なんだけど……」
思わず笑いながら、喉の奥が乾いていることに気づく。
視界の先には、割れた水道管、干上がった川、そして――静寂。
そのとき、頭の中に声が響いた。
『聞こえるか、八雲一世』
「……うわっ!?だ、誰!?」
『私はクレティス。この世界を見守る神だ』
神?
あり得ない言葉に、彼は思考を止めた。
『数年前、この地は空から降り注ぐ星々によって滅びかけた。
大地は裂け、魔法は消え、魔物も姿を消した。
人々は飢え、わずかな生存者だけが息を繋いでいる。
私は星を止めるために力を尽くしたが、それ以上は世界に触れられない。
――だから、頼みたい。この世界を再び生かしてほしい』
「……俺に?なんで俺?」
『お前はお人好しだ。困っている者を放っておけない。だから選んだ』
「理由、それだけ!?」
『それで十分だ。』
一世は頭を抱えた。
笑うしかなかった。
「……パン買いに行くだけだったのに、世界救えって?」
風がページをめくり、本の最初の項目が目に入る。
『まずは水を探せ。水がなければ三日と生きられない』
喉の渇きが一層増した気がした。
手を見下ろす。
土の感触。埃の匂い。心臓の鼓動。全部本物。
――帰る方法は、ない。
そう気づいたとき、胸の奥に何かが静かに沈んだ。
恐怖でも諦めでもない。
ただ、「今ここで生きるしかない」という現実。
一世は本を抱え、ひび割れた地平線を見据える。
「……神様、俺にできることなんて、せいぜい人の世話くらいだぞ」
『それでいい。お前の“優しさ”が、この世界の最後の火種になる。』
その言葉を最後に、声は消えた。
乾いた風が頬を打つ。
八雲一世は息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「――わかった。やるしかないんだな」
その掌に、小さな火花がぱちっと弾けた。
かすかな光が、滅びた大地に温もりを落とす。
それはあまりにも小さく、儚い火。
けれど確かに、そこからすべてが始まった。
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