メンヘラちゃん

月詠兎

第1話 影

 気が付いたらいつも近くにいる。

 洗いざらしのシャツに、太陽と汗の匂い。

 日に焼けた腕。

 下手くそなヘアーセット。


 私服のセンスは終わってる。

 いつも履いてるダボパンはボロボロなのに、スニーカーは真っ白で眩しい。


 優しいのが取り柄って?

 ただの八方美人じゃん。

 小学校の時のかけっこは、いつも1番だったなんて、その武勇伝だけでいつまでマウント取るつもり?

 財布の中はレシートだらけでパンパン。金ないくせに奢りたがるのやめな?

 調子に乗るスピードは光速なくせに、鈍感。

 女子からのLINEの返信、ハートの数かぞえて、いつもにやけてる。


 すれ違いざまに「おつ」とか、声かけてくるくせに、また、あの子の所へ行っちゃった。

「おはよ」だって。

 私より1文字多いだろーが。

 明るくて、よく笑う。わたしとは正反対の女の子。

 そりゃあ、あの子の方が可愛いもんね。

 別にいいよ。わたしにはいつもの居場所があるし。

 教室の隅、窓際、君の斜め後ろ。

 まるで空気みたいに気づかれない席。


 体育の授業でぶつかったとき、ちょっと笑ったでしょ?

 「ごめん、ごめん」って言ったその顔、反則。

 わたしの顔、ちゃんと見たでしょ。

 目を細めて、優しく笑いかけたよね?


 それなのに……。

 なんで、あの子のインスタには「いいね」して、私のはスルーなの?

 投稿したよ? 君が好きな歌の歌詞つけて。

 さっさと気づいてよね。

 はっきり言うけど、あんたの事好きなの、私だけよ。


 窓から夕陽が差し込んで、私の影が彼に重なった。

 頭を傾けたら、背中に寄り添ってるみたい。

 

 このままずっと、陽が沈まなければいい。


 神様お願い。

 もう少し、このままでいさせてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る