032 青髪の少女
初めて寄ったその辺りの町を旅立ち、帝都に来て早くも二週間余り。
俺は今、絶賛迷子になっていた。
一人で森に出て、剣を振るのに夢中になっていた俺は気が付けば帰り道を見失っていた。
仕方が無いので雨風でも凌ごうと、近くにあった大きめの穴に入れば、そこは別世界。
洞穴の中だと言うのに青空が広がり、樹々も生い茂っている。
この空間に興味が湧いた俺はちょっと探索するだけのつもりだったのだが、気が付けばここでも帰り道を見失っていた。
どうすんのこれ。
食料も大して持ってきていないし、川が流れているから水だけには困らなさそうだ。
一応魔物も出てくるのだが、その殆どがデータ君が召喚した騎士の様な人形の魔物なのだ。
しかも倒したら石になって消えてしまう。
動けば動く程お腹は減るし、でも出口は分からないし、もしかして俺ピンチ?
なんでこんな事になったのかなぁ。
俺は空いた腹を押さえながらその辺の町を旅立った日の事を思い出していた。
――――――――――――――――――――
「さて、準備も出来たしそろそろ出発しようか」
ブレイブは自分の荷物を背負いながら言う。
「…ああ」
俺も自分の荷物を背負う。
荷物を背負っている為にノノが背中に乗ってくる事はないが、その代わりと言ってはなんだが手を握って離さない。
子供かな?
「…マリーは?」
「一応、今日答えを出すとは言っていたけど」
あの日からマリーの姿をあまり見ていない。
旅の支度で忙しかったし、時間が余れば素振りタイムに勤しんでいたので会う機会が無かったのだ。
忘れ物が無いか一通り確認をして、俺たちは部屋を後にする。
部屋の鍵を受付に返して宿の外に出る。
そこには大きな荷物を背負ったマリーが立っていた。
「おはようございます!私もししょーたちと帝都に行きたいです!!」
俺たちの姿を見るなり少し緊張した面持ちで、勢いよく頭を下げながらマリーはそう言った。
いつもの元気一杯の大きな声は少し震えている様な気がした。
「…ああ」
「勿論大歓迎だ、一緒に行こう」
「はいっ!」
顔を上げたマリーの顔からは先程までの緊張は消え去っており、いつも通りの溌剌とした笑顔に戻っていた。
そんなこんなでマリーを含めた四人で帝都に向かう事となったのだ。
歩きと馬車とを乗り継いで約十日間。
遂に俺たちは当初の目的地であった帝都に辿り着いたのだ。
初めて見た帝都は凄いの一言だった。
小高い丘から見渡しているのにも関わらず端が全く見えない程に大きかったのだ。
その辺の町も初めて見た時には衝撃を受けたのだが、今回はその比ではない。
人の数、建物の数、広さ、全てにおいて上なのだ。
それは帝都の中に入ってから更に感じる事になった。
大通りは歩くのも大変な程人で埋め尽くされている。
こんなに大勢の人間が何処から出てきたのだろうか。
「ししょ〜!人が多いですぅ〜」
人波に流されそうになっているマリーの手を取りこちらに寄せる。
「ありがとうございますししょー!」
「…ああ」
山育ちではないマリーからしてもこの数の人間は普通ではないのだな。
この人の数に戸惑っているのが俺だけでは無いと分かって少し安心する。
「皆、こっちに来て」
流石に慣れているブレイブの指示で通りを抜ける。
一つ通りが変わるだけで一気に人通りがなくなり、普通に歩ける様になった。
「いやぁ、凄い人だったね。いつもはあそこまでじゃ無いんだけど今は武闘祭も近いからね」
「そうだったんですね、いつもあの量だったらどうしようかと思いました!」
どうやらブレイブから見ても人の数は多かったみたいだ。
武闘祭、少し気になる響きだけど出るのはめんどくさいから観戦だけしたいな。
「…荷物置きたい」
「確かにそうだね、ここからは少し遠いけど冒険者向けの貸し家があるからそこまで行こう」
ノノの言葉にブレイブが同意し、先ずはその貸し家へと向かう事になった。
「そう言えばブレイブさんは帝都に前に居た時もその貸し家で暮らしてんですか?」
「いや、その時は知人の家に住んでいたよ、でも今回は俺も皆と貸し家で暮らそうと思ってるよ」
「そうなんですね!私皆で一緒に暮らすの楽しみです!」
「実は俺もそうなんだよ、かなり楽しみにしていてね!」
そんな二人の会話を聞きながら歩いていた時、ふと左側に大きな道場が見えた。
その道場の中からは頻りに大きな声が聞こえてくる。
何となくその道場を見ていると、俺のその様子に気が付いたブレイブが声を掛けてきた。
「あの道場、実は俺が入門している道場なんだ」
「…ほぅ」
「あそこには俺の師匠も居てね、明日にでも紹介するよ」
「…ああ」
「ブレイブさんのお師匠さんですか!私も会うのが楽しみです!」
そうして道場の前を通り過ぎようとしたその時、目の前から明るい青色の髪をした少女が歩いて来た。
長いストレートヘアに道着のような服を着た彼女は、ブレイブに気が付くと目を輝かせてこちらに走って来た。
「ブレイブ!帰って来てたのね!お爺様がイカナ山脈に向かったと言うから心配したわよ!!さぁ帰りましょ!!」
いきなり早口で捲し立てた少女に俺たちは困惑するしか無かった。
話振りからしてブレイブの知り合いではありそうだが…。
「ちょ、ちょっとシアン落ち着いて!」
「落ち着いてるわよ!貴方が私に黙って出て行くから心配したのよ!!さぁ帰りましょ!!」
ぐいぐいとブレイブを引っ張る少女。
段々とブレイブが引きずられて行く。
「それは悪かったけど!俺はパーティーを組んだんだ!これからは皆と暮らすから!」
「皆ァ?」
そう言って青髪の少女はそこで初めて俺たちを見る。
「そうそう、彼らとパーティーを組む事になってね、だからこれからは…」
「こんな弱そうな奴ら私は認めないわよ!」
そう言って少女は俺を指差す
「いやいや!シアン、クロはかなりの実力者だよ!」
「こいつがぁ?何も考えてなさそうな顔してるけど」
お、正解。少女は更にノノとマリーを見て言葉を続ける。
「まぁ100歩譲ってこの子供はいいわ、凄いマナを感じるし、でもあとの二人は筋肉だけの木偶の坊と乳がデカいだけじゃない!」
「乳っ!?」
少女の言葉にマリーがショックを受けている。
俺はまあその通りなのでどうでもいいかな。寧ろ俺の事をよく分かっていると言える。
何気にノノの実力を見抜いているのも凄い。
「さぁ!行くわよ!」
「ちょっ!やめっ!いやぁぁぁあ!!」
生娘のような悲鳴を上げてブレイブは少女に引っ張られて行った。
え、これからどうすんの?
田舎で剣だけ振っていたい.re 深海 星 @sinnkaisyou
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