間話 焼肉剣士ブレイブくん
クロたちがリヒトの塔から帰って来て三日ほど経ったある日。
ブレイブは一人考えていた。
(今回はデータロウやエノクにクロ、皆に助けられて何とかなったけど、やっぱり俺はもっと強くならなければならない)
強さの渇望。
ブレイブが本能的に求めるそれは、冒険者であれば皆追い求める物だ。
しかし、追い求めたからと言っておいそれと手に入る物でも無い。
簡単に手に入る物ならば皆悩む事は無いのだ。
(それにはやっぱり、この剣を使いこなさなければ)
ブレイブは手にする剣を見つめる。
それはあのリヒトの塔でクロから受け取った魔剣であった。
リヒトの塔から帰って来た後も何度か魔物の討伐を行った物の、今一使いこなせていない。
(これを使いこなせれば、俺はもっと強くなる筈だ)
そう考えるものの、自分では良い使い方を思いつかなった。
と、なればやはり自分以上の実力者に話を聞いた方が良いだろう。
そう考えたブレイブは剣を手にして宿を出た。
ブレイブが先ず向かったのはアキラの元だった。
「魔剣の使い方?」
「ああ、剣の扱いの上手いアキラなら何かヒントをくれるかもと思ってね」
「うーん、そうは言ってもなぁ…」
アキラは腕を組み考える。
「俺は魔剣は使った事ないしなぁ……炎が出るんだろ?やっぱり斬って燃やす!これがシンプルで一番だぜ!!」
「まあそうだよね」
「第一、クロに聞けばいいじゃないか、俺よりも良い案をくれると思うぜ」
「ああ、まあそうなんだけどね、最近気が付いたら姿が見えないんだよ。それに…」
「それに?」
「いや、あんまり彼に頼り切りになるのも何だか、情けなくてね」
「成程な、その気持ち分かるぜ!」
アキラは大きく頷いた。
次にブレイブが向かったのはエノクの元だった。
正確にはデータロウを探しにギルドに来たのだが、その姿が見つからず、偶々出会ったエノクに相談する流れになったのだ。
「魔剣の使い方、ですか」
「ええ、少しでも出来る事を増やしたくて…」
「ふむ…」
ブレイブのその言葉に一瞬眉根を寄せるエノク。
そのまま少し考えた後、口を開いた。
「魔剣の使い方に付いては余り詳しくはないですが、一つアドバイスをしましょう」
「アドバイス?」
「ええ、出来る事を増やすのも良いですが、今自分の出来る事を貫き鍛える事です」
「自分に出来る事…」
「ええ、クロの様な強者に憧れるのも良いですが、貴方は彼ではありません」
エノクのその言葉にブレイブは何も言えなかった。
「道筋を飛ばして強くなる事など出来ません。今貴方がやるべきは土台作り、基礎を極める事だと僕は思いますがね」
「…確かにその通りです、ありがとうございます」
尤もなエノクの言葉をブレイブは正面から受け止めた。
強くなりたい余り、近道をしようとしていたのかも知れない、そう考えた。
踵を返しギルドを去ろうとしたブレイブに対してエノクは口を開いた。
「僕は君の事を少し見縊って居ました。イカナの地から生還したのはマグレだろうと、しかしリヒトの塔での貴方を見て考えを改めました、貴方はきっと強くなる。だから今は焦らない事です」
「エノクさん…ありがとうございます、貴方の心遣い確かに受け取りました」
そうしてブレイブはギルドを後にした。
宿に戻ったブレイブは再び考える。
(エノクさんの言う通り、俺は少し焦りすぎて居たのかも知れない)
クロの側に立ちたい、その気持ちばかり先行して大切な事を見落としていたのかも知れない。
そう考えて素振りでもしようと部屋を出ようとした時、丁度扉を開けてクロが入ってきた。
その背中にはノノも付いている。
ダンジョンから帰って来て此の方ノノがクロから離れている瞬間を見た覚えが無い。
寝る時もこの部屋に居るので隣の部屋代が勿体なく感じていた。
(まあクロが消えた時の反応を見るに、きっと過去に何かあったのだろう。ノノに付いては今は放っておこう。それよりも…)
「クロ、今少し良いかな?」
「…ああ」
いつもの様に短く答えるクロ。
ブレイブはその自信に満ち溢れた返答に安心感を覚えながら続けた。
「実はあの魔剣をもっと上手く使えないか考えていてね、何かいい案は無いかな?」
「…成程」
そう言ってクロは部屋のノブに手を掛けた。
「…なら森に行くか」
「えっ、今からかい?」
「…ああ」
そう言って部屋を出たクロの後をブレイブは慌てて追いかけた。
――――――――――――――――――
背中にノノを引っ付けながら素振りに良さそうな場所を探して宿に戻ると、ブレイブが魔剣の良い使い方を聞いて来た。
この数日間、狩りに行った時からちょっと気になってたんだよな、炎の魔剣。
と言うわけでやって来ましたいつもの森。
ここなら魔物も多いし試すには持ってこいだ。
丁度角が生えた兎の魔物が居たのでブレイブに斬ってもらおう。
「…あの魔物を、炎で斬ってくれ」
「あ、ああ分かったよ」
そう言ってブレイブは魔兎を両断した。
炎を纏っての斬撃だった為、斬った後は焼けている。
うーん、でもこれじゃあちょっとなぁ。
「…もっと炎を強く出来ないか?」
「もっとかい!?試してみるよ」
先程よりも気合を入れて魔兎を両断するブレイブ。
おお、本当に火力が上がってる気がする。
「はぁ…炎を強くする事は出来るみたいだけど、かなり疲れるね、これは」
切断面を見ると、先程よりもしっかりと焼けている。
ふふ、俺の見立て通りだな。
そう、俺は炎の剣を見た時から思って居たのだ。
これは焼肉に最適だと!
しかも斬りながら焼ける!最強の焼肉剣だ!!
だが、これでは表面が焼けただけだ、もっとこう、中から焼かないと生焼けになってしまう。
そうだ!
「…ブレイブ…魔物に剣を突き立てて中から炎を出せないか?」
「ええっ!?まあやってみるよ!」
ちょっと戸惑っては居たものの、チャレンジしてくれるみたいだ。
成功したら焼肉食べ放題じゃ無いか!
少し離れた場所で鹿の魔物を発見した俺たちは、その魔鹿で試してみる事にした。
「じゃあ、やるよ」
そう言って魔鹿との距離を詰めるブレイブ。
相手が気が付いたら頃には既にブレイブの間合いに入っていた。
「フッ!」
剣を魔鹿に向かって突き立てる。
「ハァッ!!」
そのまま剣からは炎が溢れ出し、瞬く間に内を焼いた。
魔鹿が声を上げる間もなく火は外にも溢れ出し、全身を焼き焦がした。
辺りには肉の焼ける良い匂いが漂う。
「お、おお!これは中々攻撃力が高いね!」
「…ああ」
「流石はクロだね!これならかなり使えそうだよ」
「…ああ!」
そうだろうとも。これは焼肉でとっても使える最強の攻撃なのだ!
魔鹿の死体に近づいてナイフで捌く。
中はめちゃくちゃに生焼けだった。
駄目じゃん。
「…威力は高いけど…これじゃ素材も駄目になる」
「あっ」
そのノノの一声でこの攻撃は強敵以外との戦闘では禁止される事となった。
うん…まぁ……どんまい!
こうして俺の焼肉剣士ブレイブ計画は失敗に終わったのだった。
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