031 報酬
ダンジョンから帰ってきて早くも一週間が過ぎようとしていた。
その間、魔物を狩ったり皆で修行したりとなんだかんだ忙しくしていたが、遂にギルドからダンジョン調査の件の報酬が確定したとの連絡を受けたのだ。
ブレイブとノノ、それからマリーと共にギルドへと向かう。
ダンジョンから帰って来てからノノは前にもまして俺の側を離れなくなってしまった。
前は一応マナが回復するからとか言っていた気がするんだが、最近はそれも無い。
別に嫌では無いのだが、素振りの時間が取れなくなってしまうのが少し、いやかなりしんどい。
寝る時も毎回同じ布団に入ってくるし、昨日遂にお金が勿体無いからと部屋を一つに纏めることになったのだ。
お陰で更に自分の時間が無くなってしまった。
まあ剣を振る以外にやる事も無いので構わないのだが、その剣を振る時間がもう少し欲しいものである。
「おお、お前たちよく来てくれた」
ギルドに入るとギルド長が直々に出迎えてくれた。
今回の件は一応公にはしていないらしく、支部長室へと場所を移す。
「さて、時間が掛かって申し訳なかったな。あれから調査を進めお前たちへの報酬が確定した」
ギルド長は俺たちをぐるりと見渡すと話を続けた。
「まずは金だ。一人一五万ドルゴー、合計して六十万ドルゴーだ」
「そ、そんなに貰えるんですか!?」
マリーが驚愕の声を上げる。
相変わらず俺は金の価値は全く分からん。またブレイブに管理してもらおう。
「ああ、これに関しては寧ろ安い位なんだが、まあ値段分は他の物で払わせて貰う」
「他の物と言うと?」
ブレイブが聞き返す。
「ああ、おい、あれを持って来てくれ」
「はい、畏まりました」
ギルド長が後ろに控えていた職員に声を掛ける。
職員は部屋を出て行き、少ししてワゴンを押しながら部屋へと戻って来た。
「まずは金だ、四袋にそれぞれ金貨が一五枚ずつ入っている、確認してくれ」
ギルド長はワゴンから四つの小さな麻袋を取り、俺たちの前に置いた。
受け取ったブレイブが中身を確認する。
「確かに、間違いないです」
「そしてここからだが…」
ギルド長はワゴンから四つのカードを取った。
「残りの報酬はお前たちの冒険者ランクの上昇と言う形で払わせて貰う」
「成程、それは有難いです」
―クロは知る余地も無いが、冒険者ランクの上昇とは本来ある程度の功績を上げた冒険者に対して、ギルドから昇格試験の通達が来て初めてそのスタートラインに立てる物なのだ。
ランクによって試験の内容は違うが、上に登れば登るほどその内容も難しい物になる。
その試験をすっ飛ばしてのランクの上昇はギルドから破格の評価を受けたと言う事に他ならないのだ。
「それでどの位上がったのですか?」
「ああ、それはデータロウやエノクたち四級冒険者の意見を元にしながら決定させて貰った」
そう言ってギルド長は一人一人の顔を見ながら順番にその手に持ったカードを渡した。
「まずはマリーだな、ランク八に昇格だ」
「ありがとうございます!」
「次にブレイブ、お前はランク六だ」
「はい、ありがとうございます」
「そしてノノ、お前は二ランクアップだ。今までも実力は十分でも試験を受けていなかっただろう?その分も合わせてのランクアップだ」
「…うん」
ブレイブとマリーは嬉しそうだが、ノノは少し不満そうに受け取った。
まあランク上がると余計なしがらみも増えそうだしめんどくさそうなのは分かる。
俺も出来るなら低くて良い。まあ俺は今回途中で穴に落ちて最後まで大した事してないし上がっても一つとかだろう。
それにしても今回って宝石持ち帰らずに食人族倒しただけだったのにランクとか上がるんだな、意外だ。
あ、もしかして食人族が宝石泥棒だったとか?そしてその食人族を倒したから褒められてるのか。
そう思えば納得がいくぞ。
待てよ?それなら宝石を破壊した俺も食人族と同罪なのでは?そうなるとギルド証剥奪とかもあり得るんじゃ無いのか?
…まあそれなら村に帰れば良いだけだし意外と悪く無いな。
ギルド長は最後の一人である俺を見た。心なしか少し表情が硬い気もする。
こりゃ間違いない、ギルド追放ですわ。
「クロ、お前は今回特例だ、このギルド支部初の四ランク上昇、つまりお前は今からランク六だ」
「……ああ」
ん?なんで?
「お前のした事を考えればランク四でも可笑しく無いんだがな、流石に六個飛ばしは前例が無くてな、申し訳ないが今回はこれで許して欲しい」
「…………ああ」
なんだ特例って、今回何もしてないどころかマイナスだった俺のランクが上昇?
「すごいです!ししょーなら納得です!」
「……………………ああ」
何が納得なんだ何が!
いや待てよ?そう言う事か。
このクロ・スミス、完全に理解をしてしまいました。
つまりこれはランクを上昇させて無理やりギルドの仕事を押し付け、馬車馬の如く働かせる気だな?
クッ!これがギルドのやり方かよ!汚い、汚いぞギルド!
まあまあまあ、落ち着こう。
あ、そうだギルドから仕事押し付けられたら村に帰ろう。うんそうしよう。
その為にも今は従うフリをしておくか。
「…有り難く受け取ろう」
「そう言って貰えると助かる」
俺がギルド証を受け取ると、ギルド長は少しホッとしていた。
多分受け取らずに逃げられる可能性もあると思ってたんだろうな。
「まさかこんなにお金を貰えるなんて…!本当に受け取って大丈夫なのでしょうか?私役に立てなかったのに……」
報酬を受け取った俺たちは適当な店で食事を摂っていた。
食事もひと段落し、ブレイブが報酬の袋を各自に配った所でマリーがそう発言したのだ。
「良いに決まっているじゃ無いか、それに余り役に立てなかったのは俺も同じだ。それでも俺たちは自分に出来る事をしたんだ」
「…ブレイブの言う通り、それにマリーが居なかったら、もっと苦戦してた」
「ブレイブさん!ノノちゃん!…ししょーもそう思いますか?」
マリーが俺に視線を向け、控えめに聞いてくる。
まあ俺の見た限りだが、マリーなりに頑張ってたし報酬を得る権利は当然あるだろう。
一番権利がないのは宝石を壊した俺だし。
「…ああ」
「ししょー!…分かりました、私しっかりと報酬を受け取ります!!」
そう言ってマリーはブレイブから麻袋を一つ受け取り、大切そうに抱えている。
ノノはその光景を柔らかな笑顔で見ていた。
マリーが麻袋をしっかりと仕舞うと、さて、と前置きをしてブレイブは新たな話題を切り出した。
「今回の件で帝都へ向かう資金は十分になったし、来週にはこの町を立とうと思う」
ブレイブは俺とノノの顔を交互にみる。
「…良いと思う」
「…ああ」
まあ俺はその辺りは完全にブレイブ任せなので反対意見など有りはしないが。
その発言を聞いて、先程までニコニコと笑顔を浮かべていたマリーがしゅんとする。
「そうですよね、皆さんこの町を出て行かれるのですよね……」
マリーのその言葉を聞いてブレイブとノノも寂しそうな顔をする。
「…マリーは来ないのか?」
「えっ」
俺は思った事を遂口にしてしまった。
嫌だって寂しいなら一緒に来れば良いじゃんって思っちゃったから…あ、でもマリーが来たら唯でさえ少ない俺の素振りタイムが減るのか…。
まあ彼女に寂しい思いをさせるよりは良いか。
「で、でも私は、家族の為に稼がないといけないですし……」
あ、そうか。マリーは家族の為に冒険者になったんだっけ?
それなら難しいよなぁ。
更にしゅんと縮こまってしまったマリーを見て、何やら考えていたノノが口を開いた。
「…ギルドから他支部にお金を振り込んで貰えた、筈」
「そうなんですか?」
「ああ、可能だね。それにここで一人残るよりも、俺たちと、クロと一緒にいた方がしっかりと稼げると思うよ」
そうなの?お金に関して疎い俺にはよく分からないが、ブレイブがそう言うならそうなんだろうな。
「皆さんからそう言って頂けて、私凄く嬉しいです…でも……」
「…すぐに決めなくて良い、よ、まだ一週間はこの町に居るから…その間に決めて」
「ノノちゃん…!分かりました!私しっかりと家族と相談して決めます!!」
「…うん」
そう言ってマリーは走り去って行った。
俺たちも宿に戻ろう、そう席を立とうとした時ウェイトレスがやって来た。
「お待たせしましたー、スペシャルグレイトベリーベリーパフェです」
「あ、ありがとうございます」
「それではごゆっくりー」
あ、これマリーが頼んだやつじゃん。
その二分後、パフェの存在を思い出したマリーが恥ずかしそうに店に戻って来たのだった。
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