023 データってなんだ
「あ、クロ!何処に行ってたんだい?」
用を足して戻るとブレイブがこちらを見て声を掛けてくる。んもう!何処に行ってたか聞くなんて…乙女に失礼よ!まあ、乙女じゃ無いけど。
まあ用を足してたって言うのもなんか恥ずかしいから適当に言っておこう。
「…少しな」
「そうか、あれ?その手に持っているのは何だい?」
ほほぅ、流石はブレイブ殿。目敏くコレを見つけたかい。ヒッヒッヒッ!これはお前へのプレゼントだよ!
…まあ少しおしっこ付いてるかもだけど。
「…これは…ブレイブ、君が使え」
手に持っていた剣を軽く投げ渡す。ブレイブは少し驚いていたが、問題なく剣をキャッチした。
「こ、これは!?こんな物を…本当に貰って良いのかい?」
「…ああ、俺には使えない」
ちょっと軽すぎて素振りには不向きだったんだよね〜。今ブレイブが持っている剣よりも、少し短いけどまあ彼ならすぐに使い熟せるだろう。
ブレイブの太刀筋ははっきり言って悪くは無い。だが、どちらかと言えば対人戦を意識した剣技であり、魔物相手に向いていない様に思える。
もしブレイブが、対魔物の剣技を覚えればすぐに強くなるだろうな。
「!まさかあの時言っていたのはこの事だったのか!ありがとうクロ!本当に感謝するよ」
「…ああ」
あの時とは何のことかさっぱりだが、ブレイブはかなり喜んでくれている様だ。まるで子供の様なはしゃぎ様だ。
分かるぞ!新しい剣ってテンション上がるよな!見た目だけならカッコいいしなその剣は。
それにしても、ここまで財宝のざの字も出て来ないけど、本当に財宝が有るんだろうか?
まさか無いのか!?もう全部取られたのか!?
「…無いか」
「…何が無いの?」
「…宝石が、な」
うーん、あ!そうか!こう言う時、財宝があるのはダンジョンの最奥だと相場が決まっている!
俺とした事が、少し焦っていた様だな。
「…クロ、その宝せ」
「ああ、クロ!戻って来ていたのか。データ的にも十分な程休憩も取れているだろうし、先に進もうか!」
ノノが何かを言おうとして居た様だが、データ君の大きな声で掻き消される。まあ、重要な事ならまた聞いてくるだろう。
俺たちはデータ君に続いてダンジョンの探索を再開する事となった。
三階では特に魔物との戦闘が起こる事も無く、俺たちは順調に探索を進めていた。
三階も同じ様に広間があり、その奥に階段がある構造となっていた。
「データに寄れば、このダンジョンは六階が最上階になっている。先程の魔物は通常より強くはあったが、地竜が外に出る原因とは思えないな。あれ以外の魔物も現れない、何かが可笑しいな」
「…私もそう思う、でもマナの流れが…変、常に警戒した方が、いい」
「その意見には賛成だな。データ的にもそう出ている」
前から思っていたのだが、こいつの頭にはなにか声が聞こえているのだろうか?まさかデータが一人称な訳じゃ無いよな?
常にデータと名乗る何者かの声が聞こえているのでは無いかと思うくらいにデータデータと言っている。
その所為か全く話が入って来ない。きっとその所為だ。
気が付けば、階段は終わりを告げ、次の階へと到着していた。またさっきも見た様な広間だ。
「…マナが濃い、注意して」
ノノの言う通り、マナが少し濃い気がする。実家と同じぐらいの濃さだ。その所為か警戒心よりも郷愁の念の方が湧いてくる。
念の為、警戒しながらゆっくりと広間を歩く。特に魔物の気配は感じない。その時、暗闇の中に何かがきらりと光った様な気がした。
その次の瞬間、辺りに魔物の気配を感じる。
「!来たぞ!」
「…また囲まれてる」
「この反応は間違いない。恐らくこの魔物たちは“今生まれている”んだ!」
「そんな事があり得るのか!?」
「データには無いが…状況証拠的にそうとしか思えない。見えて来たぞ!」
データ君の言葉の通り、魔物が見える距離まで近づいて来ていた。今回は魔鹿に加えて熊型の魔物も居る様だ。
それぞれ六体ずつ、合わせて十二体と言ったところか。魔熊も鹿同様に通常の個体よりも大きい様に見える。
「グレイトホーンに…こいつはデータに寄るとグレイトグリズリーだ!やはりデータの物よりも大きいぞ!“
グレイトばっかりだな。名付けた奴が面倒臭かったか単純なんだろう。
データ君は先程と同じく騎士を召喚して、魔熊を攻撃し始めた。俺も取り敢えず、一番近くの魔熊に斬りかかる。おりゃー。少しの抵抗感の後に首を切り落とせた。
うーん。こいつはもしかしたら普通のやつよりも頑丈なのかも知れない。
「…硬い」
「ああ、データの物よりも頑丈な様だ!気を付けろ!データ魔法“
データ君が魔法を唱えた後からやたらと騎士の動きが良くなった。恐らく強化の魔法なのだろう。魔熊にも軽々と傷を与えていた。中々の強化量だ。
ノノも相変わらず魔物を軽々と吹っ飛ばしているし、ブレイブとマリーも協力する事で戦えている様だ。
順調に魔物を斬り伏せ、もう後残り少ないだろうと思った時だった。
「ッ!クロッ!!」
珍しくノノが大きな、切羽詰まった声を上げた。後ろを振り向けば、魔熊がこちらへと突進して来ており、目と鼻の先まで迫っていた。
油断していた訳では無いのだが、剣を振り終わった直後であり満足な体制で防御をする事が出来なかった。
(うおお!)
攻撃を剣の腹で受け止めたは良いが、踏ん張れる体制では無く、更に魔熊の想像以上の力によって、防御姿勢のまま勢いよく後ろへと押されて行く。
そのまま勢いが衰える事は無く、気が付けば壁際まで押されてしまっていた。だが、壁を上手く使えればこの窮地を脱す事も可能かも知れない。
そう思っていたのだが、壁にぶつかった瞬間に想定外の事が起こった。
壁を支点にして相手の力を逃す事も、押し返す事もする間もなく呆気なく壁が崩れ去ったのだ。
(うそーん)
魔物と共に壁の先へと押し出される。その先には地面は無く、底の見えない暗闇が広がっているだけだった。
その奈落へと落ちる瞬間に勢い余った魔熊の爪が肩に刺さる。
「ささっ!いっ…てぇ!!」
幸いにも少し掠った程度の傷だが、思わず声が出てしまった。
「クロッ!クロォッ!」
やけに悲痛なノノの声が聞こえるが、落ちているのでそれも段々と聞こえなくなる。
と言うか結構な速さで落ちてるんだけど、これ大丈夫かな。このまま落ちたら骨折れるかも。
周りを見れば魔熊君は哀れにも空中で踠いていた。まあ俺も踠くしかやる事が無いんだよなぁ。
地面に落ちた時の痛みに耐えようと覚悟の準備を始めたが、周りに蔦が生えている事に気が付く。
よく見れば思いの外この空間は狭い事が分かった。壁から生えた蔦が、あちらこちらに生えてぶら下がっている。
丁度良いのでその蔦を伝い速度を落とす。流石に登るにしては落ち過ぎているので、素直に下へと向かう事にする。
どれ程の距離落ちたのか定かでは無いが、体感的には登って来た階層以上に降りた様な気がする。
無限に続く様に感じていたが、遂に底が見えこの降下の終着点が在った事に安堵する。
蔦を使いゆっくりと地面へと降り立つ。そこは十メートル四方程度の正方形の空間だった。
近くには魔熊君が落ちたと思われる凹みがあり、その中心には小さな石が落ちている。恐らく核の魔石だろう。
今し方自身が体験した事なので当たり前だが、頭上は天井が見えぬほどの高さだ。登って戻る選択肢は無いも同然だ。
登る選択肢は捨てて、辺りの壁を見渡すと一つだけ扉を発見した。
何処にでもある様な平凡なただの扉だ。ダンジョン内のこの様な場所に存在する事が平凡では無いが、今はこの扉の先へと進むしか選択肢は無い。
取り敢えず俺は、その扉の先へと歩みを進める事にした。
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