015 怪しい影
魔物を倒したいと言うので、倒すだけなら簡単に出来ると言う事を実践させてみる。
少し危ない所もあったが、上手い事倒す事が出来た。
「本当に私に倒せるなんて…」
「…毒や罠を使えば、倒すだけなら簡単だ」
「凄い…凄いですししょー!」
少女は少し呆けて居たが、段々と自分の力で魔物を倒せた事実を受け入れられたのだろう。凄い凄いとはしゃぎ始めた。
「…良くやったな」
「!はい!ありがとうございますししょー!!」
つい、妹にするのと同じように頭に手を置いてしまった。だが、彼女は嫌がってはいない様なので大丈夫だろう。
「そう言えば、まだ自己紹介をしてませんでした」
魔物の血抜きをしていた時、横で珍しそうに見ていた少女がふと思い出した様に話しかけてきた。
その少女の言葉で初めてまだ名前を聞いていない事に気が付く。
「私はマリーって言います!」
「クロだ」
「はい!改めて、よろしくお願いしますししょー!!」
ニコニコと嬉しそうな顔で話す少女、改めマリー。よっぽど魔物を自分の力で狩れたのが嬉しかったんだろうな。
血抜きも終わり、今度こそ俺たちは帰路に着いたのだった。
魔物の足を縛り、担ぎながらの帰路だったが、何とか完全に日が沈む前に街に着くことが出来た。
町に帰ってきた俺たちは、まずギルドで素材を買い取ってもらう事にした
「全部で一万ドルゴーになります」
一体丸々の買取だったが、毒を使っての討伐の為、肉に食用としての価値が付かずこの値段と言う事だった。
正直未だにお金の価値が分かっていないので、これが高いのか安いのかさっぱり分からない。基本的に全部ブレイブにやってもらってるし。
「ほ、本当に半分も頂いて良いんですか?」
「…問題ない」
俺は倒し方を教えただけで、実際に倒したのはマリーだ。
本当は全部あげても良い位なのだが、前にブレイブにちゃんと報酬は受け取った方が良いと教えられたのだ。
金銭のやり取りは何かとトラブルを生み、報酬を受け取らないと周りから舐められるのだと、だから旅に必要な分以外は三等分にされているらしい。
結局俺の分の金銭を管理している(してもらってる)のはブレイブである為、正直良く分かってなかった。
まあ、面倒事を避けられるのならば、分けておけば良いだろう。
「…自分で討伐したんだ、正当な報酬だ」
「はい!」
取り敢えずそれっぽい事を言うと、マリーは嬉しそうにお金の入っている袋を抱きしめていた。
そろそろお腹も空いてきたし、宿に帰るかなと考えていると、先程までの笑みとは打って変わって、少し不安げな顔をしたマリーが話しかけてくる。
「あの、明日もまた、剣を教えてくれますか?」
最初は断ろうと思っていた師弟関係だが、今日一日を通して俺も楽しくなってきていた。
少なくともこの町にいる間は剣を教えても良いだろう。丁度明日も休みの予定だ。
「…ああ」
「あ、ありがとうございます!!」
再び笑顔に戻った彼女に宿の場所を教えてその場は解散し、俺は宿への帰路に着いたのだった。
宿に着き食堂に入ると、丁度ブレイブとノノが食事を取っていた。
「やあクロ、おかえり」
俺に気が付いたブレイブが軽く挨拶をしてくる。
「…ああ」
俺も食事を注文して、同じ席に着く。程なくして注文した料理が届く。
「朝も言ったけど、今日は帝都に行くのに必要な物を見てきたよ」
「…どうだったの?」
「そうだね、帝都に行くのに必要な資金と物資を集めるのに、このペースだと一週間あればいけそうだね」
「…思ったより順調」
ブレイブとノノが何やら話しているが、朝からここまで何も食べていなかった俺はそれどころでは無かった。
話半分に食事を取る。
「やっぱり、クロの持ってた皮が大きかったよ。あれが無かったら一ヶ月は掛かっていたかもね」
「…ああ」
何やら呼ばれた気がしたので、相槌だけは打っておく。
「ノノの方は何かあったかい?」
「…あの赤龍の事調べてた」
「ああ、確かに俺も赤龍の事は気になってたんだ。何か分かったのかい?」
「…詳しい事は分からなかったけど…伝承に出てくる守護龍とは別みたい」
今日のメニューはチキンとパン、それに野菜のスープだった。
二人前頼んでおいて良かった。一人前だと絶対に足りなかったな。
「そうなのか…守護龍と言えば、クロの村にあった遺骨、守護龍の物だって聞いたけど何か知らないのかい?」
「…ああ」
「クロも知らないか」
「…後、イカナ山に詳しいゴブリンのおばあちゃんにも会った」
このチキンめちゃくちゃ美味いな。
「ゴブリンの?それは珍しいね」
「…うん」
ああ、美味しかった…ここの宿はご飯が美味い。疲れた体に栄養が染み渡る様だ。
「クロは何かあったかい?」
俺が丁度食事を終えたタイミングでブレイブが話しかけてきた。
今日あった事か…マリーの事があったけど説明するの面倒くさいな。まあ大体でいいか。
「…森で剣を振っていた」
「そうか、クロらしいね」
俺がそう答えると、ブレイブはにこやかに頷くのだった。
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クロたちがソノーヘンへと辿り着く、その一ヶ月前の事である。
城塞都市ソノーヘン。その近くにある冒険者が寄り付かなくなって久しいダンジョンが有る。
古くは強く珍しい魔物も生息し、アーティファクト等も発見されていたダンジョンではあるが、近年は弱い魔物しか生息しておらず、アーティファクトも発見されなくなった事でわざわざ近づく者も居なくなってしまったのだ。
そんな寂れたダンジョンに二つの人影が有った。その内の小柄の男がが、長髪の男の顔色を伺いながら問いかける。
「神官様本当に私に、この様な重要な拠点を任せて下さるのですか?」
問われた長髪の男は、顔色を変える事なくそれに答える。
「ええ、勿論ですよコソクザくん」
コソクザと呼ばれた男は、それでも不安があるのか更に言葉を続ける。
「で、ですが私にはとても」
しかしその言葉は、長髪の男によって遮られる事になる。
「コソクザくん、これは神の意志によって決められた事です。貴方は神に逆らうのですか?」
瞬間、長髪の男から強烈な圧が発せられる。
「い、いえ!まさか!あまりにも光栄な事でつい…」
「気を付けて下さいね?まあ、今回は神もお許しになるでしょう。しかし神もそう何度もお許しにはなられません。次はありませんよ?」
普段から細い男の目がさらに細められる。その奥にある瞳には一切の光が無い。
「は、はい!この命に変えてでも使命を果たしてみせます!!」
果たしてその言葉は神への信仰に寄る物か、男への恐怖から来る物なのか。コソクザ本人も分かっていないのだった。
「そうでした、コソクザくんこれを」
そう言って長髪の男は、二十センチはあるだろう楕円形の宝石をコソクザに手渡す。
「神官様、これは一体…?」
「これは神の力の増幅器です」
「おお!神の!」
「これをダンジョンの誰にも見つからない場所に置きなさい。そうすればダンジョンのマナは変容し、君に力を与えるでしょう」
「おお!おお!!ありがとうございます!!」
コソクザは感謝のあまり、頭を地に付く勢いで下げる。
「感謝は神にして下さい」
「おお!神よ!ありがとうございます!!」
「では任せましたよ。必ず使命を果たす様に」
「はっ!必ずや神の使命を果たします」
そう答えると、コソクザはダンジョンの中へと消えていった。
「ああ、神よ。復活の時はもうすぐです」
長髪の男は気味の悪い笑みを浮かべながらその場を去っていった。
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