006 深い山の木の下で

 自分が行くと言ってしまった(覚えてないけど)ので、しょうがなくロン毛君と共に、帝都とやらに向かっているのは良いのだが…

 どっちに向かえば帝都とやらに辿り着くのか、さっぱり分からん!

 そもそも生まれてこの方、自分の村から出た事が無い。

 たまーに村に帰って来る、旅好きのババアから一番近くても一週間は掛かる、と聞いた事があるだけなのだ。


「いやあ、クロが居てくれて良かったよ。俺だけだと迷って帰れなかったかも知れないよ」


「…ああ」


 ロン毛君の信頼の眼差しが痛い…なんか道が分からないなんて言える雰囲気じゃ無いのだ。

 まあ真っ直ぐ歩いていれば、その内何処かに出るだろ。何とかなる何とかなる!!







 なりませんでした。ここ何処?さっぱり分からん。

 あれから道中に見かけるトカゲを追い払う度に、ロン毛君から向けられる信頼の眼差しは、強くなる一方だ。

 だが、既に村を出て一週間。流石にロン毛君も多少疲れが出て来た様だ。


「なあ、クロ。何だかどんどん山の深くに来ている気がするのだけど…」


 うーん、俺もそう思います。

 少なくともこのまま進んだ所で、すぐに人里に出そうな気配も無い…ま、でもその内何処かには出るっしょ!


「…問題ない、その内着く」


「そうかい?まあ君がそう言うのならば、そうなんだろうね」


「…ああ」


 それにしても、この辺り…来た事が無い筈なのにやけに見覚えがある様な…ま、気のせいか。村からこんなに離れた場所に来る機会なんて無いしな!ガハハ!


「…日も落ちて来た。ここらで野営としよう」


「ああ、分かったよ」


 最初は野営の準備もぎこちなかったロン毛くんだったが、流石に一週間も毎日していると慣れてきた様だ。

 手際よく準備をしている。

 俺も、自分の出来る事をするか。

 背負っていた荷物を置き、少し狩りに出る事にする。村を出てから保存食と果実しか食べていなかったので、久しぶりに新鮮な肉が食べたくなったのだ。


「おや?何処かに行くのかい?」


「…肉を少しばかり取って来る」


「おお、それは良いねぇ!村を出てから保存食ばかりだったからね」


 ロン毛君も、この保存食生活に飽きが来ていた様だ。

 ならば、新鮮な肉を獲って来ないとな。大剣とナイフセットだけを持ち、獲物を探しに出る。

 十五分程森の中を探索すると、兎を発見した。サイズ的にも二人で食べるのに丁度良いだろう。

 気取られない様に近づいて、機会を伺う。

 兎はこちらに全く気が付いていない様だ。呑気に木の実を食べている。

 腰のポーチからナイフを一本取り出して、構える。獲物が一番無防備になる瞬間を狙い…投げる!


「シッ!」


 ナイフはそのまま喉元に刺さり、しっかりと一撃で仕留められた様だ。下手に傷を付けるだけだと、そのまま逃げられて無駄な苦しみを与えるだけになってしまう。

 命を頂くのであれば、無駄な苦しみは与えたくは無い。

 仕留めた獲物に近寄ろうとしたその時。

 頭上から“何か”が降って来た。その“何か”、はしっかりと両足で着地し、立ち上がる。

 それは人間の女の子だった。

 青みがかった銀髪が特徴的で、その背丈は俺の腹程までしか無く、かなり小柄だ。

 しっかりと短く整えられている髪のお陰で、二つの綺麗な瞳としっかり目が合う。

 何秒間そうして居ただろうか、何を言おうか悩んで居ると、彼女の方からとても可愛らしい腹の鳴る音が聞こえた。


「…一緒に食べるか?」


 もしかすると、彼女も同じ獲物を狙って居たのかも知れない。

 二人でも食べ切れる量だが、分けた所でどうと言う事もない。足らなければ他の物を食べれば良いだけだ。


「…良いの?」


「…問題無い」


 とても可愛らしい声で応えた彼女に、こちらも返答する。


「…ありがとう」


 すると、彼女はとても可愛らしい笑顔で、感謝を述べてきたのだった。なんか、妹の小さい頃を思い出すなぁ。

 その後、獲物を回収してロン毛君の待つ野営地へと二人で向かう。その最中彼女は自分の名前を教えてくれた。


「…私ノノ、貴方の名前は?」


「…クロだ」


「…そう、クロ。よろしくね」


「…ああ」


 その後、野営地に着くまでお互い口を開く事は無かったが、その距離感は不思議と居心地の良い物であった。

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