カンカンカン

白川津 中々

◾️

 カンカンカンと鳴り響く音が耳障りだった。


 踏切での待ち時間ほど鬱陶しいものはない。この技術が発展した時代になぜ地続きに線路があるのか。高架線にするなり地下に通すなり方法はあるだろうに、それをしないのは怠慢である。俺は怒りに任せ、黒と黄色の遮断機を潜って駆け抜け家路についた。


 それで終わりだと思っていた。

 なんでもない事だった。

 なんでもない、はずだった。


「昨日、急停車した電車の中で乗客が転倒し、死亡する事故が起こりました」


 翌朝。朝食を摂りながら眺めていたニュースの報道に体が固まった。


「昨日午後七時ごろ、⚪︎⚪︎線において踏切での異常を検知した車両が緊急停車し、中にいた乗客が転倒。意識不明となり病院に運ばれましたが、間も無く死亡が確認されました。死亡したのは……」


 表示される、死んだ人の顔。

 もしかしたら俺のせいだろうか。いや、きっと俺のせいだと、嫌な確信があった。止まった路線もその時間帯も、何もかも、一致していたのだ。


 取り返しのつかない事をした。そう思うと、急に胃が締め付けられ、その場で吐き戻してしまった。頭の中ではごちゃごちゃと考えがまとまらず、そのくせ、ニュースで流れた、死んだ人間の顔がずっとチラついて離れない。俺のせいで死んだ。俺が殺したと思うと、また胃液を吐き出す。片付ける気力もなく、布団に入った。仕事に行くどころか立って歩く事も困難で、自然と身体中が震えだす。自分が命を奪ってしまった。軽率な行動で人を殺した。そんな罪の意識もあったが、徐々に、時間の経過によって色濃く想起されていくのは罪の対価である。どれ程の罰を背負わなくてはいけないのか、何十年かけて償うのか、そんな不安がずしりとのしかかって、潰れそうだった。もしあの踏切にカメラが設置されていたら、すぐに特定されてしまうだろう。警察はいつ来る。今日、明日、分からない。ただ、ただ待つのが、恐ろしい!  


 堪らず家を出て、行き着いた先はあの踏切だった。遮断機が、ゆっくりと降りてくる。


 そうか、それでいいんだ。


 レールが振動している。

 電車がこちらにやってくる。


 カンカンカンと鳴り響く音が耳障りだった。

 けれど、これで楽になれる。


 俺はゆっくり、前に出た。

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