ご褒美はデートらしい

「よし。顔合わせは済んだところで、改めて我が部の部員を紹介しよう。左から二年生の「森山 薫」。そして一年生の「西宮 千歳」だ。そして君のクラスの担任の「岸 穂乃果」先生。そして私が二年生兼生徒会長兼部長の「神崎 栞」だ。これからよろしく。」


神崎部長は血のりでベトベトの右手を僕の前に差し出した。一瞬、躊躇したがこの状況で握手しないわけにもいかないのでおとなしく握手を交わそうと右手を伸ばした。


お互いの手のひらが触れ合おうかというその瞬間。彼女は流れるように僕の右腕を掴み背後に回って関節を決める。


「え?ちょっと!何するん・・いたたた!」


わけも分からないまま見事に関節を決められ身動きができない。


「今だ!お前たちかかれー!」


部長の号令とともに残りの三人が一斉に飛びかかって来た。そしてそのまま叫ぶ暇もなく縄で縛られ椅子に固定された。


「もう!何なんですか!何するんですか!」


僕は必死にもがくが椅子ががたがたと揺れるだけで到底ほどけそうに無かった。僕の前に机が運ばれ四人で僕を見下ろしている。すると部長が真っ白の紙とペンを机に置いた。


「よし。君には今から・・・」


妙な静寂が教室を包み込む。一体何をやらされるんだ?


「君には今から。この部員の中で一番可愛いと思った人をこの紙に!・・って痛!」


「違うでしょ!契約書よ!契約書!」


ふざけた部長の後頭部にギャルの素早いツッコミが入った。神崎生徒会長は想像しているより随分親しみやすそうだ。鋭いツッコミを見せたギャルは西宮という名前らしいがこのままギャルと呼ばせてもらおう。


「その。契約書とは何ですか?」


「文字通り契約書だよ。この探偵部の活動において見たり聞いたりしたことを他人に口外しないという契約書さ。読んで納得したらここに血判を押してくれ。」


先ほどの真っ白の紙を裏返すと契約書というタイトルとともに、長たらしい文章が書いてある。要は誰にも言うなということらしい。


「でもまだ僕入部してないですけど」


「その契約はこれから実施される入部テストのためでもある」


「ちなみに入部テストを辞退とかって・・・」


「できるわけないでしょ。殺すわよ」


ギャルは机に脚をのせて威圧してくる。もはやヤクザにしか見えない。


「はーい。じゃあチクっとするぞー」


森山先輩が拘束されて後ろ手に縛られている親指に針を刺す。血が垂れているのが分かった。僕はただ無の感情でこの時間が早く過ぎることを願っていた。もうどうにでもしてくれ。


「そして、この誓約書を押し付けて・・・よーし。もういいぞー」


勝手に血判を押された後、ようやく縄がほどかれて自由の身になれた。いや囚人生活がこれから始まる予感がするのは気のせいだろうか。


神崎部長は腰に手を当てて高らかに宣言した。


「という訳で早速入部テストを始めようと思う!」


「すみません。ちょっといいですか?」


「・・なんだ。いいところなのに」


僕が口を挟むと部長は不満そうに頬を膨らませた。ミステリーが好きなのもあり、正直探偵部には少し興味があるが入部テストを受けてまでとなると怪しい。あと一歩理由が欲しいところだ。


「正直、入りたい訳でもない部活の入部テストなんてやる気がでないです。もし入部テストに合格したら何かもらえないでしょうか?」


「そうだな。うーん。」


部長はあたりを見回して報酬を探している。そしてなぜかギャルのところで視線が止まった。何だろう嫌な予感がする。


「分かった!もし合格したら、千歳が君とデートしよう!」


「はあ?!何で私が・・」


「いや。それは別に要らないです。」


丁重にお断りすると、ギャルがすごい勢いで近づいてくる。やばいと思ったときにはすでに自分の頬が叩かれていた。そしてギャルはそのまま胸ぐらを掴んだまま離さない。


「・・光栄です。とてもうれしいです・・」


僕は右頬に痛みを感じながらなんとか言葉を紡いだ。憎悪の目を感じながら部長に助けを求めるために目配せをした。


「千歳。そのへんで勘弁してやれ。そうだな、今度駅前のシュークリームを買って来てやろう。」


「え!いいの?!」


彼女は目を輝かせて部長に駆け寄った。良かった、危うく頬がなくなるところだった。


「うーん。じゃあ、ご褒美は私とのデートということで」


「やります」


こうして入部テストが始まった。

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