探偵は吸血鬼

@nasshi1984

プロローグ

プロローグ①

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人生が変わる瞬間というのは総じて当人は自覚していないものだ。その瞬間がいつなのか、いつだったのかは死の後にしか分からないだろう。


だが僕には確信があった。それが今だと。


夜の誰もいない教室で見目麗しい女子生徒と二人きり。僕には確信があった。目の前の美しい女性が人間ではないという確信が。


「あなたは何者。いや、あなたは何なんですか?」


彼女は動揺など微塵もせずに不適に笑う。


「私が何者か。それは君が知っているはずなのだけれど・・」


まっすぐに見つめられた瞳が赤く輝いていた。


「私の正体は・・・吸血鬼だ。先ほども言ったが、君は知っているはずだ。なぜなら・・」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


放課後になり皆が部活や自宅に向かう中、僕は部活に行くでもなく自宅に帰るでもなく一歩一歩階段を上っていた。


時刻は夕暮れ時。


照りつける西日によって目に映るものがオレンジ色に染め上げられ、外からは運動部の掛け声がかすかに聞こえていた。


「もう一か月か・・」


高校に入学してから早一か月。中学時代に想像していた華やかな高校生活とは無縁の日々を過ごしていた。


多くの高校生は部活に入り青春の汗を流したり、恋に情熱を注いだりと大忙しだろう。だが自分はというと、諸事情があり運動部には入れないのでどうしようかと悩んでいる内に、完全にタイミングを逃していた。女子との関わりもない。


そうして暇な生徒に与えられることと言えば先生の手伝いでクラスの小テストを空き教室まで運ぶことである。


本日の物理の授業の後。物理の担任の岸先生が授業の片づけをしながらこう言った。


「佐藤。放課後にこの小テストを第二校舎四階の奥から二番目の教室に持ってきてくれ」


はいと返事する間もなく、岸先生は小テストを教卓に置くと教室からさっさと出て行ってしまった。


「こんなことなら適当な部活にでも入っておけばよかった」


廊下の窓から聞こえる掛け声につられて横を見ると、野球部、サッカー部、テニス部が各々青春の汗を流しているのが見えた。


僕はグラウンドを横目に見ながら目的地の教室を目指した。しばらく歩くと奥から二番目の教室にたどり着いた。


「ここだよな?」


明らかに通常の教室とは異なる雰囲気に一瞬立ち止まる。


教室の廊下側の窓には黒いカーテンが引いてありドアについている窓には白い紙が貼られていて廊下から教室の中の様子が見えないようにしてあった。


普段何に使っているのだろうか?


少し怖くなったが思い切って教室のドアをスライドさせる。がしかし動かない。


「あれ?鍵がかかってる」


てっきり岸先生が先に教室にいるものだと思っていたが、まだ来ていないのだろうか?


もしかしたらすでに教室の中にいて僕に気づいていないだけかもしれない。僕はドアをノックして、少しだけ声を張った。


「佐藤です。小テストを届けにきました。」


しばらく待ったが返事は無く物音一つ立たない。岸先生はまだ来ていないみたいだ。


仕方ないので職員室まで鍵を取りに行こうと、教室を離れようとしたとき、ガタンとドアの鍵が開く音がした。


「あれ?誰もいないと思ったのに」


いるなら返事するなり、足音を立てるなりしてほしい。僕は先生がそのまま出てくるのを待ったが、一向に出てこない。


僕は仕方ないのでゆっくりとドアを開け教室に入った。


「失礼します」


次の瞬間。


鼻をつんざくような強烈な匂いが鼻腔をくすぐった。鉄に生ごみが混じったような匂い。


これはそう。血の匂いだ。


教室を見渡すと奥に血にまみれた女子生徒が見える。


僕はその様子を確認すると、そっと教室の扉を閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る