第16話 とりあえず……神託。
いやマジでもういやだ、この都市。どうなってんの。
新しく預かった5人の子どもたちも、ちゃんと祈りを捧げて食事をしてる。
子どもたちは素直だ。実によろしい。
それに……親がいない孤児だから、援助は絶対に必要だろう。
それは、いい。
でも……親がいるのにまともに食べられない4人の子どもたちの方はちょっとちがうだろう?
助けるのはいい。
ここは子ども食堂的な何かだと思ってるし。
だけどなぁ……親がちゃんと子どもの世話をしないとか……。
治安が悪いし、きっとまともな仕事もないんだろうとは思うけど、それでも酷い。酷すぎる。
「……かえりたくないよぅ……」
「ツィンテ……明日はまた、ゼノおじさんが食べさせてくれるから……」
ツィンテって女の子をギレンが慰めてる。
親がいるのに帰りたくなくなる家とはいったい……?
思春期じゃなくて!?
はるかに小さな幼女が帰りたくない家とは!?
……食べられないなら家には帰りたくないよな、それはそうだろう。
やっぱりウェヌスーラがいってるように神罰や天罰が必要ってことなんだろうか?
……子どもを食べさせてないのか、食べさせることができないのか、でちがう気もする。どこに責任があるのか、という問題だろう。
それとも……大人も含めて食べられるように炊き出しみたいな感じのことを……やった方が?
そこまでやってしまうとキリがないってのは、ある。
いやもうマジで統治者は誰だ、統治者は?
税金をもらって何もしてないだろう?
行政担当はどこのどいつだ!?
「……あ、あの。ゼノ、おじさん……」
「うん? どうした? チョリース?」
「ボク、おかあさんにも……たべてもらいたいんだ……」
チョリースも親がいる子どものひとりだ。
どうやら、食べさせることができないパターンらしい。
……うぅ。泣ける。
ガリガリにやせた子どもが、自分だけじゃなくて母親のことまで!?
なんていい子なんだ!?
「おかあさん、びょうきでずっと……ねてるから……」
「そう、か」
オレは神力を使って、何を出すべきかを悩んだ。
持ち帰れる食べ物で、病気で寝てる母親でも食べられそうなものって何だろうか?
やっぱり果物か?
普通に桃とか、みかんとか、バナナとかでいいのか?
ビタミンとか考えたらみかんだろうか?
……一瞬、仙桃のことが思い浮かんだけど、あれはダメだな。何が起きるかわからない気がする。
食べた瞬間に病気が治って踊り出しそうな感じ。
とりあえず、みかんをポチってチョリースに渡す。
「これを持ち帰って、お母さんに食べさせてあげなさい」
「あ、ありがとう……ゼノおじさん……」
「いや、いい。それよりも新たな都市神ゼノデウスに祈ってくれ」
「うん。うん。ボク、祈るよ。ありがとう都市神ゼノデウスさま……」
うぅ……どっちかっていうと、いいことしてるのはまちがいない。
でも、こんな苦労してる子たちの純真な心に付け込んで祈らせてるってのはちょっと、な。
神力は必要だから仕方ないってわかってても、ちょっと……。
コスパがいいんだ! コスパがいいのが悪いんだ!?
みかん1個で0.0001の神力とかコスパがよすぎて!?
オレは悪くないはず!?
都市神としてできることは神託と神罰っていわれてもなぁ。
確かに……統治者とか犯罪者には神罰も必要な気はしてきたけど……。
何も悪いことしてないはずの子どもたちに責任とかないだろうし、一部の貧しい親もそこまで悪くないはず。
むしろ……少々悪いことでもやってないとまともに食えないって感じなのかもしれない。
せめて治安をもう少しよくしないとダメか。
うーん。
ここはやっぱり……。
☆☆☆☆☆
『新たな都市神ゼノデウスが告げる。治安だ! 治安をよくするのだ! 弱き者を守れ! 貧しき者を助けよ! この都市は乱れている! とにかく治安を立て直せ! そして真剣に祈りを捧げよ! 神殿からの祈りが足りぬ! 全然足りないぞ! どうなってんだ神殿は!? おまえらいい加減にしろ! 飢えて死にそうな子どもたちの方がよっぽど真剣に祈ってるじゃないか!? それでも神官か! ちゃんと祈れ! もっと真剣に祈るのだーーっっ!』
その神託にイスラフィールは思わず姿勢を正した。
これで3回目の神託だ。
御言葉の乱れ具合から都市神ゼノデウスの怒りを感じざるを得ない。
イスラフィールの背筋もピンと伸びるというものだ。
「ぐわぁぁ……」
「痛い、痛い……あ、頭が、割れる……」
「ぐおぉぉ……し、死ぬ……」
イスラフィールが周囲を見回すと、エクセル以外の神官たちはみんな痛みに苦しんで倒れている。
背筋が伸びるどころか、全身をくの字に曲げて苦しんでいる。
イスラフィールには彼らがあまりにも愚かに思えた。
(……まさか、この人たち……ゼノデウスさまへの祈りを……本当に、ちゃんと祈っていないのではないかしら……? しかもそれは神殿長も含めて……?)
「……エクセルさま?」
「イスラフィール殿。また、神殿長がお倒れになるやもしれぬ」
「それは……」
自業自得では、といいかけてイスラフィールは口を慎んだ。
思っていたとしても、口にしていいかどうかは別なのだ。
「この前も商人たちを呼んで寄付を要求していたらしい」
「……寄付は、必要ではあります……」
「そうだな。その寄付を……弱き者を守るため、貧しき者を助けるために使え、ということではないだろうか? 寄付だけでなく、もちろん税も、だが……」
それを聞いて、やはりエクセルはまともだとイスラフィールは思った。
「それは、その通りですね。ぜひ、神殿長に提案を……」
「聞き入れて下さるといいのだが……」
(聞き入れて下さらない可能性の方が高いでしょうね……)
神殿長のでっぷりと太った姿を思い浮かべて、イスラフィールはため息を吐いた。
集まった寄付の使い道はまさに、私腹を肥やすことだろうから。
「……少なくとも、あの痛みは……神罰とでも思いたいものだ……」
「ええ、そうですね。大きな声ではいえませんけれど……」
イスラフィールとエクセル以外の神官たちはみんな痛みを訴えている。
そのせいで新たな都市神ゼノデウスへの怒りや恨みを持つ者もいるくらいだ。
(悪いのは……真剣に祈っていない方なのではないかしら……? どうして……)
そんな簡単な理屈が理解できないのか、イスラフィールにはわからない。
実際のところ、この神殿内でまともに祈っていそうなのはイスラフィールとエクセルだけだというのは事実でしかない。
これまでの神託でそのことはイスラフィールにも理解できた。
ここにはまともな神官など、ほとんどいないのだ。
(ゼノデウスさまの御言葉だけで変われないとは……神殿は腐り切っているのかもしれない……)
もっと真剣に祈りましょうと訴えたところで、神官たちが祈るかどうかは疑問だ。
イスラフィールは悲しい現実からそっと目をそらした。
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