転生したらライオンだった!?〜サバンナの王目指します!〜

@kuro0320

第1話 転生したら……ライオンの赤ちゃんでした

……暑い。

 眩しい。

 そして、なんか臭い。


 目を開けた瞬間、鼻を突くような生臭い匂いと、むわっとした熱気が俺を包んだ。

 寝起きにしてはずいぶん過酷な環境だ。

 いや、そもそもここどこだ? 俺、昨日まで会社で――。


 そうだ。

 俺はブラック企業の営業職、田中健太。

 三日連続の徹夜で意識を飛ばしたところまでは覚えてる。

 そのあと、目覚めたら……。


 ……前足?

 なにこれ、毛がふさふさしてる。

 手のひらがない。指が短い。

 しかも体が妙にちっちゃい。


「……ガウ?」


 自分の口から出た声に、俺自身がびっくりした。

 いや待て。ガウってなに!? 言葉になってないじゃん!


 慌てて周囲を見渡すと、そこには――。


 巨大な金色の塊。

 いや、塊じゃない。毛むくじゃらの――ライオンだ。

 しかも四匹もいる。

 で、そのうちの一匹が、俺をペロリと舐めてきた。


「うわっ……な、なんだこの舌のザラザラ……!」


 けど、不思議と怖くはない。

 むしろ、温かくて、安心する。

 その瞬間、頭の奥で声が響いた。


『転生が完了しました。新しい種族:ライオン』

『転生特典 記憶保持 カリスマ』


 ……え? 転生? 種族? 特典?

 は? まさか、流行りの異世界転生ってやつ?異世界かどうかは分からんが……


 しかも、どう見ても子どもだ。

 母ライオンの足元で、他のちびっ子ライオンたちがじゃれ合ってる。

 つまり――俺、ライオンの赤ちゃん!?


 どうやら俺は、サバンナのど真ん中で生まれたらしい。

 青空は果てしなく広く、草原は風に波打ち、遠くでシマウマの群れが駆けている。

 これは……本物のサバンナだ。

 ゲームでもVRでもない。現実感が半端ない。


 ただ、問題がひとつ。

 俺、人間の言葉が通じない。

 いや、そもそも喋れない。


 他の子ライオンが「グルル」「キャウキャウ」と鳴きながら取っ組み合いしてる。

 俺も参加してみるけど、まだ足腰が弱くてコロンと転ぶ。

 そのとき――。


「グル……(大丈夫?)」


 隣で心配そうに覗き込んできた一匹のメスの子がいた。

 毛並みが少し淡い色で、瞳が琥珀のように澄んでいる。

 まだ幼いのに、どこか落ち着いた雰囲気を持っていた。


 俺は思わず、その子を見つめ返した。

 すると彼女は小さく首を傾げ、尻尾をふわりと揺らした。


「……ガウ(ありがとう)」


 意味は通じないけど、不思議と気持ちは伝わった気がした。


 日が暮れると、群れは木陰に身を寄せて休む。

 母ライオンたちが子を舐めて毛づくろいし、オスが少し離れた丘の上で見張っている。

 そんな中で、俺は考えていた。


 これから俺、どうやって生きるんだ?

 ライオンって、狩りとか、縄張り争いとかあるよな……。

 俺みたいな元社畜が、そんなサバンナ生活に耐えられるのか?


 でも、胸の奥に奇妙な感覚がある。

 恐怖ではなく――燃えるような闘志。


 そういえば転生時に何か特典があったはずだ。

 そうだ、“記憶保持”と“カリスマ”って言ってた。


 つまり、俺はこの世界で、知恵と存在感で群れを導くライオンになれるってことか。


 ……なんか燃えてきた。

 サバンナの王。悪くない響きじゃないか。


「ガウ!(俺、絶対生き抜いてやる!)」


 そう心の中で叫んだとき、リアが隣で眠そうに欠伸をした。

 小さな体を寄せてくる。

 毛の温もりが、やけに心地いい。


 前世では、誰かの温もりを感じる暇もなかった。

 残業、上司の怒鳴り声、深夜のコンビニ飯。

 そんな生活から、今は――草の香りと、仲間の寝息に包まれている。


 不思議だ。

 今のほうが、ずっと幸せだと思ってしまった。


 サバンナの夜空に、星が瞬いている。

 どこかで遠く、ハイエナの笑い声が聞こえた。

 明日から、本当の戦いが始まるだろう。


 でも、俺はもう逃げない。

 逃げるために転生したんじゃない。


 この世界で――

 サバンナの王を目指してやる。

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