第41話 呼び出し
「グロブナーさんが来る前に、聞きたいことがある。二人がお前の後を追っていたはずだが、何をした?」
「俺の後を付け回していた奴なら、西門を出て南の森で迷っていると思うよ」
「殺したのか?」
「まさか、俺にそんな腕はないよ。森の奥の方へ行くように仕向けただけさ。途中で気づくだろうが、今夜は戻れないだろうね」
「なら、コルシェの五人はどうしたんだ! 己のようなチビに負けるはずがない奴らだぞ!」
いきなり背中を蹴られて吹っ飛んでしまった。
周囲が殺気全開の奴らばかりだと、誰が攻撃してくるのか全然判らないや。
いきなり殺される心配がないので油断していたが、そっちがその気なら、俺も好きにやらせてもらおう。
〔つむじ風! 回れ!〕
俺を連れて来た三人と、屋敷の護衛らしき男五人をつむじ風で包み、全力回転させる。
俺を見て『そいつは?』と聞いてきた男だけは、目が回った所でつむじ風の魔力を抜く。
よろりふらりと酔っぱらいのように、平衡感覚がおかしい歩き方をする男を蹴り倒す。
マジックポーチからロープを取りだして手足を縛ると、口の中にボロ布を突っ込んでおく。
三分経って消滅したつむじ風から崩れ落ちた男達の息の根を止めると、薬草袋を切り裂き覆面をする。
その間に意識がはっきりしてきたのか、縛られた手足を何とかしようと焦っている男。
後ろ手に縛り、そのロープの先は足を縛ったロープに結ばれているので、そう簡単には外せないだろう。
鼻先に小さなフレイム浮かべてやると、動きが止まった。
「自己紹介の必要はないだろうがお招きされてここへ来たので、支店長にご挨拶がしたい。支店長の部屋がどこにあるのか教えてもらえるよね。その火は当分消えないよ」
警告してから脇腹に蹴りを入れ「此の部屋の作りはお前の方が良く知っているだろう」と囁いてやる。
「支店長の部屋の場所を喋る気になったら頷け。それまでは少々熱い思いをしてもらうよ」
拷問部屋、便利な部屋を各支店に設置しているのなら、相当闇が深そうだ。
うつ伏せなので尻にフレイムを乗せてやると、直ぐに異変に気づいたようだ。
気づいた所でどうにもならないのに、転がって逃げようとして横向きになる。
ちょうど良い体勢なのでズボンの前を引っ張り、その中にもフレイムを放り込んでやる。
転がって逃れようとしても、後ろ手に縛られ足と結ばれて海老反りになっているので、足が邪魔で横向きにしかなれない。
ズボンの股間が燃えてフレイムが転がり落ちるが、フレイムなんて幾らでも作れる。
身体の周囲に、次々とフレイムを並べて丸焼きだ。
必死で頷き始めたのでフレイムを消し、床板が焦げているのでウォーターで消しておく。
「支店長の居る部屋は何処だ? 此の部屋を出てからの順路を教えろ。嘘を教えても良いが、別な奴にも聞くのでよーく考えてから喋れよ」
滝のように汗を流しながら必死で頷いているので、口に突っ込んだボロ布を引っ張り出してやる。
「誰かー、敵だー」
大声にびっくりしたが、口を蹴り上げると歯を撒き散らして静かになった。。
「お前、この部屋の造りを忘れたのか。喋る気がないのなら死んでもらうぞ」
念のために気配察知で通路の様子を探るが、人の気配はな・・・誰かがやって来る。
気配は一つで、部屋の前で止まりノックをしてきた。
足元に転がる男の顔が勝利を予感して勝ち誇った顔になっているが、扉の外には一人しかいない。
もう一発蹴りを入れてから扉に向かい、無造作に引き開ける。
扉の外の男は俺を見てぎょっとした顔になるが、口を開く前につむじ風で包み室内に引き入れる。
目を回してゲロを吐く前に消滅させ、ふらふらの間に縛り上げる。
蹴られた男は俺の手口を見て、目をバチクリさせている。
縛り上げた男を、口が裂けて血塗れの男がよく見えるようにして「騒いでも良いが、此の部屋の造りを知っているな。その男は俺の質問に答えなかったので今から死ぬ」
それだけを告げ、血塗れの男の周りにフレイムを並べていく。
どう転がっても逃げられる範囲は決まっているが、熱さから逃れようと必死だ。
「よーく、見ておけ。次はお前に質問するが、答えなければああなるんだぞ」
押さえつけた男の震えが手に伝わってくるので、此の男は荒事になれていないようだ。
長引かせるのは不利なので、暴れる男の口内にフレイムを放り込み死なせてやる。
「この支店の支店長の部屋は何処だ、順路を喋れ!」
「こっ、殺さないで下さい」
「死にたくなければ嘘を言わずに喋れば良いだけだ」
「しゃ、しゃ喋ります。此の部屋を出て右です。右に行くと階段があります、階段を上がって左に行き、二つ目の部屋が支店長室です」
「左に行って二つ目の右か左、何方だ?」
「右です、街路に面した部屋です」
「護衛は何処にいる。知っているよな」
護衛の事を訊ねると、身体がビクリとする。
「支店長室に二人います。向かいの部屋にも・・・四人くらい」
「くらい?」
「もう遅いので、部屋に戻っているかと」
ここに来るまでに大分時間を食ったので、使用人達は自室に戻り休んでいるのか。
「お前は何でここへ来た?」
「レオンって言う風魔法使いの様子を見てこいと言われまして」
それじゃ早いところ戻らないとな、報告は俺がしておいてやるよ。
覆面を確認し、通路の気配を探り安全確認。
右ヨシッ、左ヨシッ。部屋の扉をきっちり閉めて、いざ行かん。
静かに無人の通路を進むみ、階段を上がって左右確認。
左に進んで二つ目の扉、左右の気配を探ると左の部屋に人の気配はなく、右の部屋に三人居る様子。
ノックをすると「入れ!」とのお言葉を受け、扉を押しあける。
気配で判っていたいた扉の左右に立つ護衛を即座に〔つむじ風!〕で回して無力化する。
「誰だ、お前は?」
「誰だって良いだろう。ウォーレンス様とやらのの居場所を聞きに来た。奴は何処に居る?」
「馬鹿が、ここを何処だと思っている」
「ん、ウォーレンス商会ザンドラ支店の支店長室で、護衛は・・・」
魔力が切れて崩れ落ちる護衛をチラリとみて、マジックポーチから短槍を取りだして男に歩み寄る。
「くっ、来るな!」
「ウォーレンス様とやらの居場所を教えろよ。言わなきゃ死ぬことになるぞ」
「ウォーレンス様は、王都のお屋敷だ!」
「通りの名と番地は?」
「北区、ビュールラント通り15番地右だ。お前のような男が近寄れる場所じゃないぞ」
「そう、でもそんな心配をしてくれなくて結構」
生かしておいては俺の目的を知られるので、喉の奥にウォーターボールを詰め込んでやる。
驚き口に指を突っ込み掻き出そうとしていたが、白目を剥いて崩れ落ちた。
倒れている護衛も後を追わせてやり、これから出会う人は勘弁なと心の中で詫びてから、元来た通路を引き返す。
最後の犠牲者は裏門の扉を警備している男二人で、静かに裏門の扉を閉めて灯りの少ない街路に踏み出した。
* * * * * * *
巡回の警備兵達を避けて東門に向かい、少し離れた広い場所で数個の穴を開けた大きな〔バルーン!〕に包まれると、静かに太い〔竜巻!〕を作り、街の外に向けて打ち上げる。
街の防壁を飛び越えて草原に降り立つと、竜巻とバルーンの魔力を抜き街から離れた。
* * * * * * *
「旦那様、ブライトン宰相閣下より書状が届きました」
「宰相閣下からか・・・フレミング侯爵様からの連絡は?」
「何度も書状を送りましたが、返事は届いておりません」
「クライスの各支店の事はどうなっている?」
「バーラント公爵様の警備兵達に完全に封鎖されていて、近寄る事すら出来ないとの報告です」
ロゥエルから受け取った書状を弄びながら考える。
呼び出しが掛かったが、これまで王城やバーラント公爵に何の動きもなかった、
だがバーラント公爵領の四支店は封鎖されたままで、フレミング侯爵様からは何の音沙汰もない。
呼び出しが掛かった以上、今動くのは不味い。
もっと早く逃げ出すべきだったかと後悔したが、自分が罰せられるのならフレミング侯爵も同罪だ。
フレミング侯爵が王城に呼び出されたとは聞かないし、王都屋敷に行かせた配下の者も、屋敷に変わった様子はないと言っている。
支店が押さえられても指示書や証拠となる物は渡してなく、全て手の者に持たせて読後焼却させている。
返書も小さな紙切れに書かせていて、受け取った後は燃やしている。
何か問い詰められる事があれば、支店の者が勝手にやったことだと押し通すことにすれば良いと覚悟を決めた。
開いた書状には、明日の午後、王城に参上されたしとの一文のみである。
「ロゥエル、明日の午後、王城に出掛けるので用意しておけ」
* * * * * * *
ウォーレンス会長は知らなかったが、フレミング侯爵は五日前から王都に来ており、 ウォーレンスと同時刻に呼び出しを受けていた。
そしてバーラント公爵はとっくの昔に王都に来ていて、ブライトン宰相と連絡を取り合い手筈を整えていた。
そしてフレミング侯爵がバーラント公爵領を通過して王都に向かった後、領境のヘリエントの代官屋敷には公爵家の騎士団が集結して決行の合図を待っていた。
そして三日前に決行日を通達されて、突撃準備を整えていた。
* * * * * * *
ウォーレンス会長は緊張の面持ちで王城に出頭し、子爵待遇の控えの間で衣服を改めて呼び出しを待っていた。
ジリジリと刻は過ぎていくが一向に呼び出しがなく、待ちくたびれてお茶を飲んでいたときに宰相次席補佐官が迎えに来た。
何度か宰相閣下に呼ばれて面談したが、何時も迎えに来るのは宰相次席補佐官の男だったのでほっとしていた。
だが何時もの面談室ではなく、宰相執務室よりも奥へと進み招き入れられた部屋は豪華だが家具類は殆ど無く、正面の一段高い所に豪華な椅子が置かれていて、壁際に近衛騎士達が並んでいた。
指示された位置に立ち、暫しお待ちをと言って次席補佐官の姿が消えた。
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