第33話 ご機嫌なサブマス
サブマスと一緒に現れた俺を見て、飛んでくる解体係の親父。
サブマスの期待のこもった目に睨まれて、鳥さんから並べることにした。
チキチキバード 18羽、俺の食い扶持まで出してしまった。
ランナーバード 14羽。
グリンバード 15羽。
レッドチキン 12羽。
ホーンボア大 2頭。
カリオン 9頭。
エルク中 1頭。
バッファロー 1頭。
ブラックウルフ 7頭。
グレイウルフ 4頭。
ブラックベア 1頭。
ハイオーク 2頭。
オーク 1頭。
「嘘だろう!」
「こんなチビ助が?」
「本当にソロなのか?」
声に振り向けば、お喋り好きな連中がついてきていた。
「お前らこれでもこいつとやるつもりか」
サブマスに声を掛けられて首を振っているが、獲物から目が離せないようだ。
「チキチキバードがこれだけ有れば、公爵殿もお喜びになるだろう。ウォーレンス商会の連中が悔しがるだろうし、子爵待遇程度じゃギルドに相手にされていないと判るだろう」
「おい、高値で買ってやれよ」
サブマスがご機嫌で査定係の親父に声を掛けて戻っていく。
隣街まで行かなくても良くなったが、なんとなくスッキリしないので一杯やることにした。
食堂に戻ってくると、なにか注目されていて背中がむず痒い。
* * * * * * *
「ギルマス、ウォーレンス商会の奴らに一泡吹かせる材料が手に入りましたよ」
「あーん、そんな都合の良い物があるのか?」
「コルシェでウォーレンス商会の使いの者が消えて、レオンって小僧を手配していたでしょう」
「おう、チキチキバードが何とか言っていたやつだな」
「そのレオンが下に来ているのですが、チキチキバードを18羽とランナーバードを14羽買い取りの査定に出しました」
「ほう、面白い事になりそうだな。さっそく公爵殿に知らせておくか。そのレオンって小僧は、ウォーレンス商会の奴らに引き渡すなよ」
「手配だけですので、直接あいつと接触しない限り大丈夫でしょう。それに奴が出した獲物を見れば、そう易々と奴らの手に落ちるとも思えません」
「それ程の腕なのか?」
「解体場に並んでいますが、見てみますか」
* * * * * * *
中途半端な食事の腹を満たすために、エールのつまみををパクついているとサブマスが又やって来た。
今度はビヤ樽のようなおっさんの後ろを一歩下がって歩いている。
「レオンと言ったな、ウォーレンス商会の者が来たらサブマスに知らせろ。それとブロンズの二級に昇格だ」
それだけ言って背を向けたビヤ樽親父と苦笑いをしているサブマス、二年も経たずにブロンズの二級になっちまったぞ。
周囲からは「ギルマス直々に昇級だとよ」なんて声が聞こえてくる。
風魔法なんて地味な魔法なので、目立たず静かに稼いでいれば安泰だと思ったが、世の中そうは上手くいかないようだ。
と言うか風魔法は水魔法と同じく役立たずと揶揄される魔法だが、チキチキバードで稼ぎすぎたかな。
欲しい物を手に入れるためにせっせと稼いだのが徒になったようだが、今更隠すことも出来ませんとも言えないので諦めるしかないか。
チキチキバードは1羽、78,000ダーラ。
ランナーバードは1羽、40,000ダーラ。
ブラックウルフは1頭、35,000ダーラ。
グレイウルフは1頭、40,000ダーラ。
ブラックベアは1頭、260,000ダーラ。
ハイオークは1頭、115,000ダーラ。
それぞれ一羽当たり過去最高の査定になっていて、他の獲物も奮発してくれている。
総額に至っては4,247,000ダーラと、ちょっと恐くなる金額になっている。
手持ち資金が11,000,000ダーラを越えるので、服と武器を新調する事にして精算カウンターに向かい金貨で42枚と銀貨4枚に銅貨7枚を受け取る。
買い取りカウンターに居た連中から響めきがあがるが、無視を決め込み程度の良いホテルの場所を尋ねてギルドを後にした。
* * * * * * *
今回は金魚の糞は居ないようなので、気持ち良く教えられたホテルに向かえた。
アデリアナ通りのアデリアナホテル、中堅ホテルって教えられたがちょいと寂れた感じのホテル。
薄汚れているのは承知しているので、カウンターの小母さんに冒険者ギルドで教えられたと伝えて、二、三日泊まりたいと告げて銀貨を二枚置く。
「一泊銅貨四枚で食事は食堂で別料金になりますが」
それで了承して、明日魔道具商の所に行きたいので辻馬車の手配を頼んでおく。
今回も服が後回しになったが、金貨を見せて通してもらうことにして、明日の予定は魔道具商、鍛冶屋、ブーツを誂えてから服を買いにと決めた。
母さん達の
話から、服は古着や吊るしの服を買うのでも寸法合わせや、時にはサイズ調整で結構時間が掛かると聞いているので最後だ。
* * * * * * *
通用門の門衛が、冒険者ギルドから執事宛の書状が届いたと持ってきた。
冒険者ギルドからとは珍しいなと思いながら封を切り、読み進む。
翌日バーラント公爵が執務室に入ると、執事のニルバートが一通の書状を差し出した。
「旦那様、冒険者ギルドのギルドマスターからの知らせで御座います」
「内容は?」
「ウォーレンス商会が、一人の冒険者を手配しているようで御座います。手配の内容としては、ウォーレンス商会の使いの者がその冒険者に依頼に出向いて戻ってこず、殺されたのではないかとの事です。その冒険者がこの街に滞在と申しますか、冒険者ギルドに出入りしているそうです。その冒険者が大量のチキチキバードやランナーバードを持ち込んでおります」
「ウォーレンスか、何かと噂の食い意地の張った男だ、手配をして探しているのなら何れこの街にも使いの者が現れるな」
「チキチキバードとランナーバードの買い取りを申し入れた序でに、使いの者が現れたら知らせるように申し入れておきました」
「うむ、あの男はフレミング侯爵に擦り寄り侯爵も便宜を図っていると聞く。好き勝手をさせるな」
公爵の言葉に一礼しながら、チキチキバードとランナーバードの買い取りと、ウォーレンス商会の使いが現れたときの手配をしておかねばと考えるニルバート。
* * * * * * *
朝食後のんびりお茶を楽し見ながら辻馬車の到着を待ち、御者に銀貨四枚を渡して魔道具商、鍛冶屋、ブーツを注文出来る所を回ってくれと頼む。
最初の魔道具商はモルフェット魔道具店、ロクサーヌでも見たのでチェーン店かな。
入り口の警備員にはランク5のマジックバッグを見せて、時間遅延の依頼に来たと告げるとあっさり通してもらえた。
ランク5-30のマジックバッグに30時間の遅延を頼み、金貨32枚をカウンターに置く。
マジックバッグが5-60になれば、獲物を放り込んでいても当分気にしないで済む。
食料はランク3-50の物に入っているが、一日しか持たない物でも50日は持つので急いで増やす必要もない。
待たせていた辻馬車に乗り、腕の良いと評判の鍛冶屋に向かってもらう。
黒ずんだ建物の奥からは槌音が響き、扉を開けると熱気が迎えてくれる。
「いらっしゃ・・・坊や、何か御用なの?」
「手槍を注文したいのですが」
「貴男が? 冒険者なのは判るけど、注文品はお高いわよ」
黙ってギルドカードを見せて「それなりには稼いでいますので、魔鋼鉄製の手槍が欲しいのです、出来ればナイフも」と伝えると、頭の天辺から足下まで二度見してから手招きされた。
店の奥に案内されると鍛冶場になっていて、親子だろうよく似た二人が槌を振るっていた。
「あんた、お客だよ。手槍を注文したいそうなので、詳しく聞いてあげて」と言って表に戻っていく。
「手槍か、どんなのが欲しいんだ」
冒険者の店で買った手槍を取り出すと、あからさまに顔を顰めている。
少し太めの柄で長さは140㎝程度だが、槍先の穂は60㎝で片刃にすることを伝える。
「ん、片刃にするとは?」
「ソロでやっているので、下草を払って通ることが多いのです。下になる部分に刃が付いていると気を使いますので、地面を擦っても気にならいようにです。材質は魔鋼鉄でお願いします」
「それだと500,000ダーラは下らないぞ」
「それとナイフも」
腰のナイフを手渡すと、チラリと見て指差す。
そちらには壁一面に様々なナイフが掛けられている。
「好きな形と大きさを指定しろ」
ざっと見渡し、剣鉈に似たナイフを選び、刃渡りは30㎝程にしてもらう。
短槍が850,000ダーラ、ナイフが320,000ダーラで鞘は目立たない物をとお願いする。
1,170,000ダーラを支払い、一週間後の引き渡しと決まり次の店へ。
実用一点張りの革鎧が鎮座する店とは、御者のおっちゃんも心得ているね。
愛想の良さそうな店主は「ブーツ」と言ったとたん白けた顔をしたが、俺を見て鎧を買う客に見えたのかねぇ。
冒険者が革鎧をそうそう買いに来る訳もないだろうに、期待外れって顔を隠さない。
討伐専門の剛力のようなパーティーでも、精々胸当てか籠手くらいしか身に付けてないのに期待しすぎだよ。
気を取り直して足の寸法を測られたので、最上の皮を使えばどの程度のお値段なのかと尋ねる。。
冒険者用のブーツで最上の物なら金貨六枚、600,000ダーラだと苦笑いしながらの返事なので、黙って金貨六枚を手渡して一週間後に欲しいと伝える。
一瞬で顔が綻び、任せておけとのお言葉。
思っていることが全て顔に出るので笑いそうになったが、悪い人間ではなさそう。
最後に少しマシな服が買える店に行ってもらったが、初っぱなからここは冒険者用の服は置いてないと断られてしまった。
「悪い、少しマシな街着が欲しいんだ。ちょっとしたホテルや商業ギルドに出入りしても、見劣りしない服だけど」
掌くるりん「ささ、奥へどうぞ」と愛想良く案内してくれたが、巣立ち前に着ていた物より少しマシな程度にがっかり。
お財布ポーチから金貨を掴み出して、ちょっとした店のお坊ちゃまくらいには見える服を出してとお願いした。
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