第十三章:狼たちの牙
静寂の領域から三体の守護者が、音もなく滑るように現れた。その姿は、まるで死を告げるために遣わされた、地獄の彫像のようだった。
絶望的な戦力差。そして、近代兵器が一切通用しないという絶対的な事実。だが、ヤヌスの、そして狼たちの瞳から、闘志の光は消えていなかった。
『オラクル! 俺がさっきナイフを突き立てた空間の座標を解析しろ! あの「亀裂」が何なのか、連中の弱点に繋がる可能性がある!』
『……了解! やってみます!』
オラクルの声が、悲壮な決意に震える。
『ジャガーノート、スペクター! 援護しろ! 俺がもう一度、懐に飛び込む!』
ヤヌスは再び軍用ナイフを逆手に握りしめ、疾風のように駆け出した。常人ならば一歩進むことさえ困難な吹雪と重力の中を、彼はまるで重力を感じさせないかのような速度で突き進む。
一体の守護者が、ヤヌスを迎え撃つ。その黒曜石の腕が、空間を歪ませながら薙ぎ払われた。ヤヌスは紙一重でそれをかわし、守護者の足元に滑り込む。
狙うは、守護者を覆う見えない壁、その一点。
『今だ!』
ヤヌスの叫びと同時に、後方からジャガーノートが咆哮を上げた。彼は、もはや兵器を使うことをやめていた。代わりに、自らの背丈ほどもある巨大な氷塊を、その超人的な腕力で引っこ抜き、守護者に向かって投げつけていた。
轟音と共に氷塊が守護者の障壁に激突し、砕け散る。その衝撃で、障壁がガラスのように細かくひび割れた。
『そこだ!』
ヤヌスは、その無数の亀裂の中心へと、ナイフを突き立てた。
パリンッ!
先ほどよりも、はるかに大きく、そして明確な破壊音。守護者の動きが、完全に停止した。障壁が、砕け散ったのだ。
『喰らえぇぇっ!』
ヤヌスの背後から、ジャガーノートが突進する。彼の拳が、剥き出しになった守護者の胴体を捉えた。
ゴッ、という鈍い衝撃音。
守護者の黒曜石の身体に、蜘蛛の巣のような亀裂が走り、次の瞬間、それは細かい黒い粒子となって、風の中に掻き消えた。
一体、撃破。
だが、安堵する暇はなかった。
残る二体の守護者の体表を明滅する赤い光が、その輝きを一層増した。
『――不協和音を、特定。優先順位、変更。攻撃性の高い個体より、排除する』
頭の中に響く、冷たい声。
二体の守護者は、ヤヌスを無視し、その矛先を、後方で氷塊を投げつけていたジャガーノートへと向けた。
『ジャガーノート! 避けろ!』
ヤヌスの警告が飛ぶ。しかし、二体の守護者の動きは、あまりにも速かった。
ジャガーノートの巨体が、まるで人形のように宙を舞い、雪原に叩きつけられた。彼の強化戦闘服が、甲高い悲鳴を上げる。
『ぐっ……あ……!』
通信機に、ジャガーノートの苦悶の声が響く。
ヤヌスが助けに入ろうとしたその時、彼の頭上から、もう一つの影が迫っていた。
塔から、新たに四体目の守護者が生まれ出ていたのだ。
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