CAT
ShaDoww
話し方を忘れた猫
にゃー、にゃー。
外から猫の話し声がする。騒がしい奴らだ。
彼らの声と共に
名前は…。
「おはよう、ミャーゴ」
ミャーゴという名前にひっかかるところはあるが優しく聡明な人物だ。
「今日も猫たちがよく鳴いているね。君も遊んで来るといいのに…。」
ふん、
「ケホッ、ケホッ、心配してくれてるのかい?僕のことは気にしなくていいのに。」
「そうか…ミャーゴは僕の側にいてくれるんだね。」
そう言うと
「ミャーゴはまだ声が出ないのかい…?」
そう、
おそらく空腹で鳴き声を忘れてしまったのだと思う。
正直、拾われる前のことはよく覚えていないが、おそらくよくにゃー、にゃーと鳴きながら、そこらの野良猫のようにしゃべっていたとはずだ。
だから、
「ケホッ、ケホッ、ゴホゴホッ。」
「大丈夫だよ、ミャーゴ。ちょっとむせただけだ気にしないで。いつも心配してくれてありがとうな。」
そんなある日、
反面、家を空けることが多く
だが、
「ゆうき、元気にしてた?」
母上が
「うん大丈夫だよ。母さん。」
「いつも家を空けてばかりですまないな。」
「気にしないでよ、父さん。僕のためって分かってるし。それにミャーゴもいるからね。」
「あなたもありがとうね」
母上はそう言いながら
「そういえばあなたの病気だけど…。」
「もうその話はいいよ。前の医者も匙をなげていたじゃないか。」
「違うのよ。
「そんな薬草が…。」
「ただ希少みたいでな。かぐやま自体登るのも困難な場所で採取は難しい。かといってお金を出せば買えるものでもなくてな。」
「そっか…。」
「父さんも今全力を尽くしているところだ。だから絶対に希望は捨てるなよ。」
「わかったよ。ありがとう父さん。」
~その夜~
「面白い話だったな、ミャーゴ。でも、きっと間に合わないよ。」
そう、
だから…。
次の三日月の夜、
聞いた話では、夜にしか生えないらしい。移動時間も考えればリミットは数時間だろう。急げ、急ぐんだ。
かぐやままでもう少しだ。その時だった。
うん?あの草むらに何かある?
何の変哲もない草むらだったが、その中に何か光り輝くものが見えた。
その瞬間、何故か分からないが光に引っ張られるかのように、体が草むらの方へと向かった。そしてその周辺を前足を使ってむさぼるように
すると…きれいな赤い石に装飾が施されたブローチが落ちているのに気が付いた。それは月夜の光を反射して美しく輝いていた。
せっかくだ、これも
っと道草を喰ってしまった急がなければ。
そうこうしているうちにかぐやまへと辿り着いた。
話に聞いていた通り、登れる道も細く険しい山だが、それは人間だったらの話。
そんな覚悟を抱いて
~かぐやま中腹~
いくら猫と言ってもさすがにきつくなってきたな。だが、引き返すわけには行かない。ようやく恩返しすることができるのだから。
そんな時だった。ふと目を横にやると水辺があることを確認できた。こんなところにあるとは幸運だ。せっかくだし少し休んでいくとしよう。
こうして、水を飲んでいるときふと、水辺に映った
まあ今の
さてミッション成功までもう少しだ。さあ、山頂へと向かおう。
そう思い再び走り出したとき、ふと何者かの視線を感じ気がした。恐らく気のせいだろうそれよりも急がなくては、夜が明けてしまう。
~かぐやま山頂~
道中倒れてしまいそうにもなったが、なんとか山頂にたどり着くことができた。
山頂の景色に浸る間もなく、
その植物は、三本の三日月のように細い緑色の葉に、白く丸い花を咲かせていた。その花は遠目に見ると満月のようにも見える美しい花だった。
あれが
こうして、我輩はチェックポイントを通過し、帰路に就くことにした。
~かぐやま中腹~
ふー、水辺がこの場所にあるのはありがたいな。もう少し休んだら出発するとしよう。この
その時だった。またも視線を感じたのである。
気のせいではないと思い、視線を感じた方向を見ると…。
深夜の闇に溶け込むかのような漆黒の色をした猫は、話すことも動くこともせずにただこちらを見つめているようだった。
そうして黒猫に近づくとそれまで何も動かなかった黒猫が口を開いた。
「よお、あんた次がラストチャンスだぜ」
ん?この黒猫は何の話をしているのだろう?ラストチャンス?
「ここから出るためのチャンスの話さ。だが今回のプレイヤーは慣れてるな。今のところ見逃してるところが無い。ブローチも拾われちまった。」
黒猫は淡々と話を続けた。
「あんたも運がねえな。この感じだとこいつ初クリア者になるぜ。…っと喋れないって設定だったか。」
そう言ってこちらの事情を察したようだった。すると黒猫はこちらに問いかけるようにして話し始めた。
「お前、猫のくせして話せないんだろ。話し方を忘れたってことらしいが、おかしいと思わないか?鳴き声を話し方を忘れるか?喉がつぶれたわけでもねえのに。」
何を言うかと思えば、
「じゃあ百歩譲ってそれは正しいとしよう。それじゃあお前野良猫の鳴き声は聞いたことがあるか?」
当然だ。奴らはいつもにゃー、にゃーとうるさく騒いで…。そのとき
「そうだ。猫の鳴き声ばかりで猫が会話してるのは聞いたことがないだろう。お前は忘れたんじゃない。知らないんだよ、猫の言葉を。」
更に黒猫は続ける。
「そう考えると、
そう話すと黒猫はこちらに向かって歩き出し、すれ違いざまに語った。
「お前はネコじゃねえ。俺と同じ…。っと悪いなここまでだ。じゃあな。」
待てお前は何だ?そう問いかけようとしたとき、黒猫の方から去り際に語った。
「俺は真実を語る黒猫さ。お前も会ったことはあるはずだ、何も話さなかったネコに。これも会話の内だ。じゃあな、もう遅いだろうが幸運を祈るぜ。」
そう言って黒猫は去っていった。
黒猫との会話を終えた後、
何を言ってるんだ?奴は?
水辺で改めて自分の姿も見た。間違いない我輩は猫である。そのはずなのに、黒猫のせいで芽生えた違和感がぬぐえない。何故自分の姿に違和感を持つのだろうか?そもそも
いや考えるのはよそう、今は走るのだ
そう思いひたすら駆けて走っていた時だった。周囲の空気がいきなり冷たくなったように感じた。
不審に思い、辺りを見回そうと足を止めようとしたとき、背後から何か恐ろしい気配を感じた。まるで背筋が凍るかのような感覚に思わず身震いしてしまう。何かいる。我輩の背後に得体の知れない何かが現れたのだと思った。
振り向いてはダメだ。止まってはダメだ。そう直感した
そう思ったとき、持っていたブローチが突然輝きだした。
ブローチの放つ真紅の光は周囲を照らし、
あれは何だったのか?
~主の屋敷~
屋敷に戻ったときには、夜は明け朝日が顔出していた。
「おはよう。ミャーゴ。」
「ミャーゴ今日はどこか出かけていたのかい?珍しいね。」
そして、
「これって…もしかして…
「大変だったろうに、ありがとうなミャーゴ。」
その後、主の両親の伝手で医者の協力を得ることができ、
そんな
「ミャーゴ、あのときは本当にありがとう。」
どうやら、改めて感謝を伝えたかったようだ。
「お前のおかげでもうすぐ完治できるみたいなんだよ。」
そいつはめでたい話である。我輩も役に立てたようで何よりだ。
「それで…なんだけど…もし完治したら、一緒に旅に行かないか?」
旅?
「ほら、僕は屋敷から出たことがなかったから、外の世界を見てみたいんだ。それに、外の世界の情報には君の声を元に戻す方法もあるかもしれない。」
そうか、
「君に恩返しがしたいんだ。両親も許可してくれたしさ。どうする?」
それはもちろん。
「そうかお前も来てくれるかありがとうな。ここからもずっとい っ し ょ だ ぞ、ミャーゴ。」
その瞬間だった。忘れるように務めてきたことが、ミッションクリアという言葉と合わせて再び脳内をよぎった。今まで考えないようにしていた違和感、そして黒猫の言葉が頭を駆け巡ったのだ。
あの黒猫には覚えがあった。あれは"こちらを見つめる黒猫"テキストはなくずっと読点だけの変な奴だった。
まさか…まさかこの世界は…
そう考えだしたとき、周囲が真っ暗な闇に包まれた。そして、闇の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「正解。ここはゲームの世界だぜ。どうなってんのかしらねえが、ゲームオーバーになった奴はこの世界に閉じ込められちまうのさ。」
黒猫?!一体どういうことだ!
「まんまさ。俺も歴が長くてな色々わかった。まずこのゲーム発売されてねえデモ版だ。」
この先、つまり主を助けた後の話はまだないのか。
「ああ、だからあんたが出るには、あのゴースト戦が現状最後のチャンスだった。」
そうか、プレイヤーがゲームオーバーしたら、ゲーム内のNPCとして閉じ込められる。そして主人公に閉じ込められた場合は、画面の前のプレイヤーと入れ替わることができるのか。
「ああ、お前の前の奴がそうだった。」
そんな…なんでこんな事に。
「まだ、出る希望があるだけましさ。主人公は。こっちは出れるか分かったもんじゃねえ。俺が入ったのは、半年前…確か開発中のゲームを触ったときだ。あの泉でふと自分の姿見て思い出したぜ。」
そうか、あの泉が一種のセーブポイントあるいはチェックポイントになっていたのか。俺も少しずつ思い出してきた。確か、数日前に抽選で配信されたゲームのデモ版を遊んでいたんだ。当選したプレイヤーは、全部で50人くらい。僕のデータには13とかあった気がする。
「あー、そこまで気にしてなかったな。だが俺が知ってる主人公の白猫になった奴はお前で5人目だ。他にも閉じ込められた奴がいるのか、それとも未だ登場してないNPCにさせられたのか。それと、このゲームのデモをクリアした奴は、俺の知る限り今回が初めてだ。っとお喋りは終わりだな。まだ意味不明なことばかりだからな、機会があればまた情報交換しようぜ。」
おい!何で急に。
「ゲームをクリアしたらお決まりのがあるだろ。」
まさか。今ってエンドロールなのか。
「そっ、エンドロールがもう終わちまうんだよ。じゃあな。」
エンドロール中って、じゃあ本当にこの世界はゲームの・・・。
そのとき僕の体は自然と闇の向こうを振り向いていた。この視線の先に、恐らくクリアしたプレイヤーがいるのだろう。僕はこの世界から抜け出すことができるのだろうか?いや、そんなことはまた次の機会に考えればいい。
今はただ、この世界を知らずにクリアした画面の向こうの者に祝福を。エンドロールとはそういうものだと思うから。
僕は、猫の姿でお辞儀をすると、暗闇の中でありながら機械的に決められたのであろう道を歩いて退場した。
CAT
はじめから
つづきから
ロード
クレジット
CAT ShaDoww @ShaDoww
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