Soli Deo Gloria — Part I: Grace (主にのみ栄光あれ — 第1部 恩寵)
エリアス・フィデイ・カレン(Elias
プロローグ
וְהָיָה אַחֲרֵי־כֵן אֶשְׁפֹּךְ אֶת־רוּחִי עַל־כָּל־בָּשָׂר
וְנִבְּאוּ בְּנֵיכֶם וּבְנוֹתֵיכֶם
זִקְנֵיכֶם חֲלֹמוֹת יַחֲלֹמוּן
בַּחוּרֵיכֶם חֶזְיוֹנוֹת יִרְאוּ
その後、わたしはわが霊をすべての人に注ぐ。
あなたがたのむすこ、娘は預言し、
あなたがたの老人は夢を見、
若者は幻を見る。
(ヨエル書2:28 )
◇◇◇◇
暦の上では春の訪れが告げられているというのに、北の大地は今なお冬の厳しさに閉ざされていた。
降りしきる粉雪の間を縫って、朝の陽光が木立の隙間からこぼれ落ちる。
淹れたばかりの珈琲から立ちのぼる湯気が、現し世の理(ことわり)とは隔絶した幻想の世界へと、静かに誘(いざな)っていた。
男は机の傍らに置かれたロッキングチェアに身を沈め、深い喪失の中にかすかな希望を抱きつつ、琥珀色の瞳をそっと閉じた。
それは、過ぎ去った日々をひとつひとつたどるような、静かな祈りに似ていた。
驚きと変化に満ち、夢と希望に心を弾ませた少年の日々。
この世界の矛盾に胸を痛め、進むべき道を見いだせなかった青年の葛藤。
空の戦士として使命を果たし、幕僚として時間に追われ続けた現役の日々。
義憤に駆られ、もう一つの夢を求めて踏み出した神学生としての歩み。
厳しい現実に打ちのめされながら、糧を得るために汗を流す宅配の日々。
定年まで、あと二年を切っていた。
男は、哀しみを滲ませるような深い溜息をついた。
「私は、何のために生まれたのか」
「この人生に、果たして意味はあったのだろうか」
「私は、この貸し与えられた命を、真に使い尽くしているのだろうか」
それは贅沢な問いにも見える。だが、男はその問いの裏に、孤高の気高さを宿していた。
この問いと、彼は幾度となく静かに格闘してきたのだった。
――エリ・エリ・ラマ・サバクタニ
(我が神、我が神、何ぞ我を捨て給うや)
(マタイ伝27:46)
意味が異なることは、彼自身よくわかっている。
それでもなお、己の半生を振り返るたびに、十字架上での主の叫びが、胸の奥深くを突き刺し続けていた。
◇◇◇◇
どれほどの時が流れただろうか。
ふいに、灼熱の熱風が頬を掠めた。
男は、静かに瞼を開けた。
その瞬間、彼の視界に広がっていたのは──
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