第四話 会合
暗闇の広がる地下の世界に、軽快な鼻歌が響き渡るーー。
細長い幹を広げて枝先に朧げな光を放つ不思議な木が、まるで松明のように地下道の行末に連なっていた。
不自然に土が抉られた地下の道を木の灯りに導かれて、白髪を揺らしながら少年は鼻歌を唄う。
「〜〜♪」
薄暗い地下の中で響くには場違いな鼻歌だ。この光景を目にする者が他にいれば、さぞ違和感を覚えたことだろう。
ーーもしくは畏怖を覚えたことだろう。
少年は何を気にすることも無く、鼻歌を唄い続ける。
そんな時、少年が通り掛かった地下道の脇の方から誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
(なんだ、まだ泣いてるのかアイツ)
その声を聞いた少年はその人物であろう人を頭に浮かべて苛立ちを覚える。
煩わしさを拭うために、今も啜り泣く憐れな声に向かって胸の内で静かに毒付いた。
ーーなぜアイツは涙を流すのか、と。
(合わさることがそんなに辛いのか。ひ弱だなぁ)
少年は冷ややかに一瞥して、その声の持ち主に小さく嘲笑をする。
そして、また何を気にする事も無く地下の道へと歩みを進めた。
少年の鼻歌と、彼の足音が無音の中を地中の奥深くを染み入るように響いていると、やがて道の先に薄明かりが差し込む開けた場所が広がった。
その場所は先ほど地下道を照らしていた木々と同じたくさんの灯りが連なっており、奥の中央には木々を束ねたような大樹が枝先に光を灯して、その場所ーーまるで祭壇のように形造られたその部屋全体を照らしていた。
大樹の傍らの祭壇の前には、黄金の髪を薄明かりに照らした"魔女の王"がなにかに祈りを捧げて
そして、彼女を取り囲むように同胞である魔女たちも皆同じように跪き、部屋の中で祈りを捧げていたーー。
「遅いぞ、マルベリアス」
部屋に入ってきた少年に気づいた一人の魔女が彼に投げかける。
マルベリアスと呼ばれた白髪の少年は、声をかけてきた魔女に向かって軽薄に含みを見せると、時間を置いておどけたように肩をすくませた。
「テナールタ、そんな怒んないでよ。遅れてきたって、ほんの少しでしょ? 間に合ってるじゃん」
マルベリアスは祈りの最前列にいる
「たわけ。進撃の前夜に礼拝に遅れてくるなどあったものか。早く入れ」
「はいはい、わかってるから急かさないで」
テナールタに言われて彼女と同じ祈りの最前列に加わると、同じようにして跪きマルベリアスは祈りを捧げる。
それを確認した魔女の王ーー"黄金の魔女"は目を見開くと、目の前の大樹を前にして静かに奏上を始めた。
「我らの神にして、偉大なる星の
黄金の魔女の後を続いて、魔女たちも同じように復唱する。
「我らの祖への侮蔑を、我らが誇りを汚したその身を、一切をもってを滅し
「
最後に部屋の中にいる全ての魔女は誓いの言葉を口にした。
唱えられた言葉の後に、静寂が部屋の中を包みこむ。
しばらくの無音が流れた後、奏上を終えた黄金の魔女はその場からすくと立ち上がると後ろに跪く魔女たちに向かって宣言した。
「皆よ聞け。明日、我らは人間たちに断罪を下す。我らが一族の屈辱を、今こそ晴らす時が来た。人間たちに罰を与える時が来たのだ。奴らに思い知らせてやろう、情けなく生に縋り付く惨めな己の恥というものを」
黄金の魔女は薄く笑う。それは討ち滅ぼされてきた同胞たちの無念を晴らすことが出来る為からなのか、はたまた己の憎悪を
だが、その瞳に宿る執念は明らかだった。彼女の吐いた冷たい声音に応えるように、魔女たちもそれぞれが息を飲む。
「マルベリアス」
「はい、母様」
最前列の端で跪く彼の名前が呼ばれ、白い髪が揺れて返事をする。
黄金の魔女はその姿に目を薄めると、己の腹を割いて産んだ
「カラルトルードの準備は整っているか?」
「出来ております。カラルも待ち遠しいのでしょう。身を奮い立たせて、今にも人間を殺す勢いです。明日の備えはすでに整っております。いつでもご命じ下さい」
「うむ。クラナン、お前の調子はどうだ。整っているか」
「あいも承知だよ長! ばっちし整ってるぜ」
「テナールタ」
「はっ、右に同じく」
「レクフィス」
「誠に」
順を追って目の前の魔女たちに顔を向けて黄金の魔女は問いかける。
そして、最後に礼拝に参加するはずだった一人の魔女の姿を思い浮かべて彼女の名前を口にした。
「セフィリナは?」
その問いかけに、先ほど「レクフィス」と呼ばれていたほの暗いローブを纏った野太い声の魔女が彼女の代わりに答えた。
「長よ、セフィリナは未だ泣いております。ですが礼拝には参列できませんでしたが、
「アイツ、まだ泣き止んでなかったよ? ホントにあしたに間に合うのかなぁアレ」
列の端からマルベリアスが気だるげに野次を飛ばす。そんな彼にレクフィスは口を鋭くして
「しっ、マルベリアス。口を慎め」
「はーい」
「……セフィリナはまだ"適応"に追いついていませんが、明日には必ず姿を見せるはずです。その心意気は確と見ております」
「承知した」
レクフィスの最後の言葉を聞き終えると、その黒く染まった瞳を虚空を見据えるように向けて、黄金の魔女は目の前の魔女たちに言い放つ。
「では、始めよう。我らが報復をーー」
瞳に映る燐光を揺らし、憎悪を燃やして魔女の王は喉を震わせる。
彼女の持つ美しさとは対照的な黒い殺気が一層に強まり、最後に彼女は静かに言葉を口にした。
「皆の者、私に続け。進撃の時だ」
ハルシャの叙事詩 ー The 747th Epic ー 夜雨やおか @timidtimey
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