第44話 ふたつの死闘
リリアンの宮殿の玉座の間。ゾルグとヴァラクの魔力の衝突は、すでに戦闘というよりも、二つの巨大な力の概念のぶつかり合いとなっていた。
ゾルグは闇の鎌を振るい、ヴァラクは剣でそれを受け止める。その一撃一撃が、空間を歪ませ、魔界の瘴気を揺るがした。
「ゾルグ! お前が人間上がりの使い魔を連れてこようと、その力の傲慢さだけは変わらんな!」ヴァラクは叫んだ。
「傲慢ではない、ヴァラク! 厚顔無恥、唯我独尊、それこそが悪魔の本質だ! 貴様のような地位と名誉におぼれた魔王の忠実な犬には、決して理解できぬ!」
一方、アキトはゾルグの命令通り、ヴァラクの精鋭部隊を冷徹に処理し続けていた。彼の動きは無駄がなく、感情の乱れも一切ない。彼の定着した力は、魔王直属の悪魔でさえ、瞬時に戦闘不能にするほどの効率を発揮していた。
しかし、ヴァラクの部下たちの魔力や戦術は、アキトが魔界で相手にした者たちとは格段に上であり、アキトの体力と魔力は確実に削られていった。
セレネは、ゾルグとヴァラクの圧倒的な戦闘、そして献身的に戦うアキトの姿に、恐怖と興奮を覚えた。
「お母さま、この戦い、どちらが勝つのでしょうか」
リリアンは、戦闘の激しさには目もくれず、手に持つ魔導具の画面を凝視していた。そこには、ゾルグとヴァラクの魔力周波数、攻撃パターン、そしてアキトの定着した力の消耗率が詳細な数値で表示されていた。
リリアンは冷たい声で言った。「ゾルグは、まだヴァラクよりも力が上。しかし、ヴァラクの戦術はゾルグの傲慢さを利用している。このままでは、ゾルグも無傷では済まない」
リリアンは、アキトに視線を固定した。アキトはゾルグとヴァラクの激しい衝突の余波を受けながらも、その体を盾にしてゾルグの背後を守り続けている。
「アキトの悪魔としての性能は、予測をはるかに超えているわ。この二人の魔力の『本質』を吸収し、その激しい戦闘のデータに耐え、まだ立っている」
リリアンは魔導具に新たな術式を入力した。それは、アキトの左手の紋様とリンクし、戦闘中に発生する全てのエネルギーパターンを、彼の魂の奥底に刻み込むためのものだった。
「魔王とその使い魔候補の力の真理。その全てを、この『器』に集める。これで、私たちの真の計画は、一歩前進するわ」
アキトは、ヴァラクの精鋭部隊をすべて打ち倒したが、その場で大きく呼吸を乱した。彼の定着した力も限界に近づいていた。
「ゾルグ。部隊の排除は完了した。指示を」アキトは、かすれた声でゾルグに伝えた。
ゾルグはヴァラクと打ち合った直後、その圧倒的な力を利用して、アキトに命じた。「よくやった、わが使い魔よ。どうだ、貴様が人間と侮った愚か者は、貴様の率いていた雑魚どもをいともたやすく蹴散らしたぞ」
アキトは、ヴァラクとの激闘で完全に注意が逸れているゾルグの背中に、一瞬の隙が生まれたことを認識した。
アキトの虚無の心に、ゾルグの支配を打ち破りたいという冷たい反逆の衝動が生まれた。彼はゾルグに背を向けたまま、ナイフを構え直した。
その時、ヴァラクがゾルグに対して、全魔力を込めた強烈な一撃を放った。
「終わりだ、ゾルグ!」
ゾルグは鎌で受け止めようとするが、その一撃の威力は、ゾルグの真の力をもってしても容易には防ぎきれないものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます